立ちはだかる魔術師
「クウウーンッ! 森の向こうに見える教会から火の手が! 火の手が上がっていますです!」
犬耳の少女、シエンヌが空に浮かんでいた無限を表すレミニスカートの「∞」の模様を追いかけていると、生い茂る木々の向こうに顔を覗かせた教会の尖塔から、空高く黒煙が舞い上がっているのが見えた。
「オイオイっ! ヤバイんじゃないか? ありゃ、こっちにまで燃え広がんぞ?」
オオカミの耳をした少女、ルーヴが慌ててその身を翻し、来た道を戻ろうとする。
「んもうーっ! ルーヴさんは度胸が無いですねー。尻尾を巻いて逃げようとするなんて!」
シエンヌは逃げようとするルーヴを尻目に、燃え盛る教会の方へと突き進もうとする。
「うきゃああああぁぁぁぁッ! きっとあの教会の中にシエンヌの愛しのマイだーりんがいるのですうううっ! シエンヌがっ! シエンヌがあっ! 愛しのマイだーりんをお助けしないといけないのですワンンンッ!」
「おい、シエンヌ! お前、死ぬ気かよーっ! 戻れーっ! 戻ってこいーっ!」
必死に止めようとするルーヴの声も虚しく、シエンヌはどんどん突き進んでいく。
「ううむ! 我輩、通せんぼをするのですかな!」
シエンヌの前に黒髪紫眼の赤いマントの少女が立ちはだかる。
その頭上に「∞」の記号を浮かべた少女、魔術師ちゃんは、右手に白い聖杖を持ち、その右腕を天に向かい高く掲げ、左手で大地を指していた。
「うきゃあああぁぁぁぁッ! どうしてシエンヌの行く手を遮るのですかー! 通せですよー! シエンヌを通せです!」
シエンヌがその爪でガリガリッ、と魔術師ちゃんの顔を引っ掻く。
「うぐわぁっ、痛い! 痛いですかな……」
魔術師ちゃんは必死にその手で顔を覆いながらも、
「我輩の命に代えても、ここから先に通すわけには行かんですかな!」
と強硬にシエンヌを押しとどめるのだった。
「シエンヌーっ! ルーヴーっ!」
その時、上空からシエンヌとルーヴを呼ぶ声が聞こえてきた。




