開かれた目
「まあ! このトートの『恋人』の世界はその全体が楽園なのですよ? リリスさん、逃げろと仰るは、この楽園からの追放を意味することになるのではありませんか? そんなの嫌です! 私は楽園から追放されるのはもうこりごりです!」
礼拝堂の左上方に佇むイヴが、逃げようとするリリスに反発する。
「ハハハハ。逃げるもなにも逃げ場なんてないぞ! 我はこのトートの『恋人』の世界そのものをすべてぶち壊そうとしているんだからな!」
アテュは、そう得意げに言うと、
「魔人タワー、やれ!」
と一言、吐き捨てるように言った。
「ウンバババ! 俺様すべてを破壊し尽くす! ウンバババ!」
巨大な目蓋がその目を「カッ」と見開き、真っ赤な眼球を露わにした。
血走ったその瞳から、強烈な閃光が発せられた。
その瞬間、ボオウッ! と辺り一面に火の手が上がった。
「「「ウギャアアアアアアアッ!」」」
誰のものとも判別の付かない大勢の悲鳴が礼拝堂の中に響き渡るなか、清陀は魔人タワーの巨大な目のその背後におり、その強烈な閃光を浴びることなく、事なきを得ていた。
「おい! 我はお前を助けてやるぞ! さあ、我と一緒に来い!」
アテュは黒いパゴダの日傘を広げ宙に浮いたまま、清陀の腕をギュッと掴んだ。
「わああっ? アテュちゃん、どうして僕を助けてくれるんだいいいっ?」
清陀はアテュの顔を困惑気味に見返した。
「まったく! お前はどこまでいっても鈍感な奴だな!」
アテュはそう言って、その頬をすこし赤く染めると、ムギュウッと清陀に抱きついた。
「うわっ? アテュちゃん……?」
清陀が戸惑いの声をあげたその時、
「我、セイダとともに『恋人』のカードより外の世界へと具現化せんと欲す!」
とアテュが唱えた。
その瞬間、ボムッ! という音とともに、抱き合ったままのアテュと清陀の二人が礼拝堂の中から忽然とその姿を消したのだった。




