さあ、誓いの口づけを
「よろしい。これで式を挙げるすべての準備が整った。さあ、あとは新郎と新婦とが互いに向かい合い、手を取り合って、誓いの口づけを行なうのだ」
フードを被った大男が、魔人ラヴァーズと清陀のそれぞれの顔を見やり、しわがれた低い声で言った。
「わーっ! いよいよ結婚式の始まりだあ! ね? アベル?」
「うん! いよいよ結婚式の始まりだよ! ね? カイン?」
カインとアベルが向かい合い、お互いの手のひらを叩き合って喜んでいる。
「では、ご主人たまん! さっそく私たちの永遠の愛を誓い合いましょう!」
魔人ラヴァーズはそう言って、その右手を清陀に向けて差し出した。魔人ラヴァーズの右手が清陀の右手をギュッと掴む。
「さあ、誓いの口づけを」
フードを被った大男が魔人ラヴァーズと清陀にキスをするように指示する。
「では、ご主人たまん。誓いの口づけをいたしますわん」
魔人ラヴァーズがそう言って目をつぶり、清陀にその唇を近づけた、その瞬間、
「ぼ、僕はこんな結婚式は嫌だあああああっ!」
と清陀が大声で喚き出し、バシンッと魔人ラヴァーズの右手を払いのけた。
「ま、まあっ! 一体どうなさったと言うのです? ご、ご主人たまん?」
魔人ラヴァーズが慌てて清陀に歩み寄ろうとすると、
「うわあああっ! 僕はお前なんか愛していないよ! 無理やり変な弓矢で好きにさせたんじゃないかあああっ!」
と清陀は喚き、ドンッ、と魔人ラヴァーズを突き飛ばして、そのまま走り出した。
「なんということか! 新郎が新婦の愛を拒絶するとは!」
フードを被った大男が動揺し、突き出していたその両手を引っ込める。
「こ、これは罪です! きっと新郎は蛇にそそのかされて禁断の知恵の実を口にしたに違いありません!」
イヴが礼拝堂の左上方から、走り出す清陀を指さして叫ぶ。
「ううむ! これには、わらわも驚かされたのじゃ! きっとこの新郎はルシファーと契約したに相違ないわ!」
リリスが礼拝堂の右上方から、走り出す清陀を指さして喚いた。




