愚者ちゃん、助けてくれるのね……
「なら、もう太陽ババーンと昇っちゃったからオイラ、いったんカードに戻るよ!」
太陽ちゃんはそう言うと、ボムッ、と音をたてオレンジ色の煙にその姿を変えた。
「え? 太陽ちゃん?」
愛流華奈は驚いた声をあげると、身に纏うローブの懐から赤いタロット・ポーチを取り出した。ポーチを開け、『太陽』のカードを取り出すと、太陽ちゃんがその姿を変えたオレンジ色の煙が、スウウウ~ッと『太陽』のカードの中へと吸い込まれていった。
「太陽ちゃん、ごめんね……どうも、ありがとう……」
愛流華奈が、『太陽』のカードを眺めてそう呟くと、今度は別のカードのうちの一枚が黄色く光り輝き始めた。
「えっ? 愚者ちゃん?」
それは、『愚者』のカードであった。
「愚者ちゃん、助けてくれるのね……」
愛流華奈は『愚者』のカードに描かれた、紺色の生地に黄色い花柄のワンピースの服を着た少年の絵を見て微笑んだ。
「愚者ちゃん! 出てきて!」
愛流華奈が、『愚者』のカードの上にその右手を重ねて叫んだ。すると、ボムッ! という音とともに、『愚者』のカードから黄色い煙がたちこめた。
黄色い煙が地面に集まり、しだいに人の形を作っていく。
「アルカナちゃん! アタシが抱っこするよお! アタシと一緒に飛ぼうっ!」
髪をボブにしたパッチリとした瞳の、見た目に十三、四歳くらいの少女。紺色の生地に黄色の花柄のワンピースという姿はカードに描かれた少年の姿と同じではあるが、実際はとても可愛らしい童顔の少女だ。
「愚者ちゃん! ありがとう!」
愛流華奈が嬉しそうに微笑むと、
「そいじゃ行こっか!」
と言って、ムギュと愚者ちゃんが愛流華奈に抱きついた。
フワリと愚者ちゃんの身体が浮き上がると、
「よーし! このアタシがセイダを助けるぞーっ! セイダーっ! 待っててーっ!」
と叫び、愚者ちゃんは愛流華奈を抱きしめたまま、今や微かに空にその痕跡を残すだけとなった、レミニスカートの「∞」のマークを目がけて猛スピードで飛んで行くのだった。
「んまあ! 私もこうしちゃいられないですわ! 節制ちゃんとやら、さっさとこの私を海野君の元へと連れていきなさいっ!」
貴梨花が慌てて叫び、節制ちゃんの背中にとび乗る。
「アルカナさんと愚者さんに遅れを取るなんて、なんとバランスのお悪いこと!」
節制ちゃんの背中の翼がバサバサバサバサッ、と物凄い早さで羽ばたき始めた。
「あたしもシエンヌとルーヴに早く合流したいよ……」
その心が落ち着いたはずの月ちゃんであったが、月ちゃんはすこし不安げな表情をさせて、節制ちゃんの背中にとび乗った。
節制ちゃんはその背中に貴梨花と月ちゃんを乗せて、レミニスカートの「∞」のマークの微かな痕跡を目がけ、大慌てで飛んで行ったのだった。




