19番 THE SUN 「太陽」
「そう……私は携帯電話を持ち歩かない主義だから、携帯を時計代わりにも使わないし、時間に縛られるのがなにより嫌いなので、腕時計もしないのですわ。愛流華奈さん、時間を教えてくれてありがとう……」
貴梨花は、愛流華奈に礼を言うと、
「……それにしても変ですわね、朝の七時なのにこの暗さったらないですわよ。こ、これほどまでにも夜が続くと、な、なんだか気分も滅入ってきてしまいますわあっ!」
と、顔色を急に蒼ざめて、その身をガタガタと震わせ始めた。
「たしかに変ですね……トートの『恋人』の世界には、日が昇るということが無いのかしら……?」
愛流華奈は困惑気味に貴梨花に答えると、
「……では、仕方ありません。無理やりにでも朝にしてしまいましょう……」
と言って、手元のタロット・ポーチから一枚のカードを取り出した。
「は? 愛流華奈さんの仰っている意味がよく理解できませんことよ?」
貴梨花が怪訝な目で、一枚のタロット・カードを手に取る愛流華奈の仕草を見つめる。
「19番、THE SUN.『太陽』のカードより具現化せよ、太陽ちゃん!」
愛流華奈が一枚のカードを片手にそう叫ぶと、ボムッ! という音とともにカードからオレンジ色の煙がたちこめた。
オレンジ色の煙が、しだいに人の形を作っていく。
「あわわわっ! 落っこちるう! 落っこちるう! アルカナちゃん、なんでこんな空の上でオイラを具現化なんてさせるんだようううっ!」
オレンジ色の煙が一人の少女の姿に変わった。
少女はその腕でヴェロモトゥールの三日月の淵を必死に掴み、胴体が三日月の下に宙ぶらりんの状態で、ぶら下がっていた。
見た目に十二、三歳の全裸姿の少女。黄色い髪の毛が頭の上でクルクルッと巻かれて幾つものロール状になっている。クリッとした丸い瞳と、長い睫毛がとても可愛らしかった。
「ごめんね、太陽ちゃん……」
愛流華奈は申し訳なさそうに謝ると、
「……ねえ、この世界はずっと夜が続いていて真っ暗なままなのよ。だから、お日様を昇らせてくれないかな? ね? 太陽ちゃん?」
と両手を合わせて太陽ちゃんに頼み込んだ。




