野良犬シエンヌ
「クウウーン!」
漆黒の闇夜の下、うっそうと木々の生い茂る深い森の中を、四つ足で駆け抜けるメイド姿の少女がいた。
「なんて深い森なのです! こんな木の茂った深い森にはきっと野犬が出ますよーっ!」
犬耳の少女、シエンヌはその鼻を泥まみれに汚しながらも、地面に押し付け続け、懸命に清陀の匂いを探していた。
「へっ! バカ言ってんじゃねえよ、シエンヌ! 野良犬ならよお、とっくに現れてんじゃんかよ!」
ルーヴもその鼻先で泥を擦りながら、シエンヌの後に続いていた。
「クウウーン! 野良犬ってシエンヌのことです? 失礼しちゃいますです! シエンヌは由緒正しきお家に生まれたお嬢様なのですワン!」
シエンヌがすかさずルーヴに言い返すと、
「けっ! 何が由緒正しきお嬢様だってんだ! お前パンツ丸見えじゃんかよ!」
と、ルーヴは前を走るシエンヌのお尻を見ながら鼻で笑うのだった。
「うきゃあああああぁぁぁぁッ! シエンヌはメイドさんのスカート姿なので、おパンツ丸見えしかたないのですうううーっ!」
シエンヌは茶色い尻尾をブンブン振りながら、メイド服のスカートを捲りあげ、水色のパンツを露わにさらけ出していた。
「それにしてもシエンヌの愛しのマイだーりんはいずこへ行かれたのでしょうか? 空飛ぶキューピッドさんに連れていかれたので、地面には匂いが無いのですーっ!」
「知るかよっ! それが分かんねえから、こうして探し回ってんだろうがあっ!」
シエンヌとルーヴが不毛な会話をしていると、二人の頭上をゴオーッという空気を切り裂く音を立てながら、黄金の光が通り過ぎていった。
「あははは! あは! あは!」
上空から甲高い笑い声が聞こえてくる。
「クウウーン! あれは月ちゃんのヴェロモトゥールです! 月ちゃん自分だけ空を飛んでずるいです! シエンヌたちも乗せてほしいですワン!」
「んだとおーっ! 月ちゃんのやろおーっ! オレらを差し置いて空から先回りしやがんのかあっ! オレらを乗せねえなんて許せねえよなあっ!」
シエンヌとルーヴは上空を見上げながら悔しそうに吠えるのだった。




