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貴梨花、月ちゃんを襲う

「海野君をあんな得体の知れない全裸女に渡してなるものですか!」

 その時、気を失っていたはずの青峰貴梨花が突然、甲高い声で叫び出した。


「こらっ、あなた! そんな便利な乗り物を持っているならこの青峰貴梨花に貸しなさいっ! 私がすぐさま、海野君を追いかけますわ!」

 貴梨花はそう言って月ちゃんのむなぐらを掴みあげる。


「ひええ……あたしのヴェロモトゥールはこの三日月が無いと操縦できないんだよぉ……」

 月ちゃんは額の三日月のマークを撫でながら怯えた表情で貴梨花を見る。


「まあ! じゃあ、そのオデコの三日月をこの私に貸しなさいっ!」

 貴梨花が月ちゃんの額の三日月マークを剥がそうと必死で摘まみ上げる。


「アイタタタタッ……痛い、痛いってばあ……」

 月ちゃんは貴梨花に必死に抵抗すると、

「もう、分かったよお……じゃあ、アルカナちゃんと、キリカちゃん? 二人ともヴェロモトゥールに乗せてあげるから、あたしを苛めないで……」

と泣きながら言った。


「よーし! あたしのヴェロモトゥールが発進するよーっ! あは! あは! あは!」

 三日月型の空中バイク、『ヴェロモトゥール・リュネール』に前から月ちゃん、愛流華奈、貴梨花の順に三人が跨った。


『ヴェロモトゥール・リュネール』の三日月型の機体が黄金の光を発すると、フワリと宙に浮き上がり、その機体に三人を乗せたまま、廊下の窓からその外へと飛び出していくのだった。


「あいや! 我輩、忘れ去られているのですかな……?」

 魔術師ちゃんは窓から飛び立っていく三日月を見送りながら、屋敷の廊下で一人、呆然と立ちつくしていた。


「空間移動の魔術を使ってみますかな……?」

 魔術師ちゃんはカードの中に持ち込んでいたテーブルの上のソードをおもむろに取り出すと、  

「エエイッ!」

と叫びながらソードを一振りした。


 その瞬間、魔術師ちゃんの姿がシュッ、と消えた。


 そして、広々とした魔人ラヴァーズの屋敷には誰の姿もいなくなったのだった。


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