無視されるアテュ
「ずっと気を失っちゃっているけど、青峰さんもいるんだ……」
清陀は床に倒れる青峰貴梨花を抱き起こそうと試みた。
貴梨花は、
「うーん……」
と呻き声を上げるものの、なかなかその意識を戻さない。
「では、戻りましょう、清陀さん。カードの外の世界へ……もちろん貴梨花さんも一緒に……」
愛流華奈は貴梨花の姿を一瞥して、清陀に頷くと、傍らに立つ一人の少女に振り向き、目で合図を送った。
「ううむ、我輩がこのワンドを一振りすれば、たちまちカードの中の世界から元の世界へと戻れることうけあいですかな!」
黒髪紫眼の白い衣服に赤いマントを羽織った少女、魔術師ちゃんが手にした棒を愛流華奈と清陀の方へかざし、振り下ろそうとした。
「おい! アルカナあ! 我を無視するなよ!」
ゴスロリのドレスに身を包んだ赤い髪の少女、アテュは床に弾き飛ばされた自らの剣を拾いあげると、そのままシュッ、と魔術師ちゃんへ向けて投げつけた。
「あぐわぁ! 我輩のワンドが! ワンドがああっ!」
アテュの剣が魔術師ちゃんの手から棒を奪い取る。アテュの剣はその切先に棒を突き刺したまま、廊下の壁に突き刺さった。
「アルカナ! お前の恋焦がれる相手をカードの外に連れて行かせるわけにはいかんのでな!」
アテュがそう言って両手を突き出し、両手のひらに息をフーッ、と吹きかけると、何も無かった手のひらに一本の日傘が現われた。
「我こそがこのオスを頂くぞ!」
アテュが素早く清陀の元へ回り込み、その腕で清陀の首を押さえ込む。
「うわああっ! アテュちゃん? 苦しいよ! 放してくれったら!」
清陀がアテュの腕から逃れようと必死に悶える。
「アテュ! あなたは卑怯よ! 私に恨みがあるのなら、私を狙えばいいでしょう? 清陀さんは関係ないはずよ!」
愛流華奈がアテュに向かって非難の言葉を投げつけると、
「ウォォーンッ! そうだぜ! アテュとかいうお前さ、アルカナちゃんの男友達に手を出すなんて、性根が腐りきっていやがるぜ!」
と、ルーヴが叫び、勢いよくアテュに跳びかかっていった。
「うきゃああああああぁぁぁぁぁッ! シエンヌの愛しのお方を羽交い絞めにするなんて、許さないのですワンンンッ!」
シエンヌも絶叫しながら、ルーヴに続き、アテュへと跳びかかっていった。




