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アビリティ・ハイスクール  作者: 千賀大和
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氷の女王


「………眠い」


秀は返された答案用紙を見ながら欠伸をした。


近くの席では、友人と答案用紙を見せ合って点数の比べ合いをしている生徒たちから「くっそ〜、山外したー」「俺数学でこんなに点数取れたの初めてだわ」「母ちゃんに怒られる………」


などと会話が聞こえてくる。


さらに、別の席では女子生徒のグループも盛り上がっていた。


「これでお小遣い増えるかも!」


「まじ? いいなあ」


「………はぁ」


秀はそれらのグループから視線を逸らし、ため息を漏らした。


「どうしたよ、秀。 お前のことだし点数はいいだろうに、その顔は」


「鉄か、昨日ちょっとな」


友人の鉄は答案用紙をひらひらとさせてから、秀の机の上に答案用紙をわざとらしく置いた。


「俺〜、75点も取れたわあ」


「そうかい」


「しかし、本当に眠そうだな、昨日何かあったか?」


「単に夜更かししていただけだよ、それからあれ」


秀は鉄の答案用紙を鉄に返し、四つ前の席を指差した。


「………氷の姫ねえ」


鉄は秀の意図を察し、ある少女へと視線を移した。


秀の指先には、学園で『氷の姫』と呼ばれている柳瀬姫華だ。


クラスの成績は一位、昼休みの時間になるとふらっと何処かへと消えてしまい、昼休みの終わりと同時に戻ってくる、そんな少女だった。


「凄いよな、柳瀬さんは。 さっき席の横を通る時にちらっと答案用紙を見たんだけどさ、100点だった。 あんな点数漫画でしか見たことないぜ、俺」


「頭はいい、容姿もいい、あれで性格がよければな」


「俺はかわいいと思うぜ、彼女を」


「お前、ああいう女の子がタイプなのな」


「ほっとけ」


鉄との会話を切り上げ、秀は教室を出た。


「たく、こんな時間に………って言いたいけど、夜中に出てこられるよりはマシだな」


秀は廊下を進み、屋上へと繋がる階段を上がっていく。


「授業が始まる前に終わるといいんだけど」


扉を開けると、屋上には黒く禍々しい姿の『何か』がいた。


「………お前ら一体なんなんだよ」


「…………」


「やっぱり、言葉はわからないのか」


「ガァ!!!」


「危なっ!」


黒い『何か』は、秀を首を狙って一直線に向かってきた。


この黒く禍々しいものの正体はわからない。


しかし、これだけはわかることがある。


それは、見える人間のことしか攻撃をしてこないということだ。


秀は以前駅前でも黒く禍々しい『何か』を見たことがあった。


しかし、通行人たちは何事もないようにそれぞれの目的地へと歩いて行ったのだ。


その代わり、視線を反らせないでいた秀のことを執拗に追い回したのだ。


「この力がなかったら、俺は今頃あれの腹の中だったかな」


「ガァ……………」


「発動」


秀の言葉に反応して、秀の手のひらを夕焼けのように明るいオレンジ色の炎が包み込んだ。


「来い」


「グガァ!!!!!!」


「おらっ!」


炎を纏わせた拳で黒い『何か』を殴る。


「………お前らの体って何? 鉄で出来てんの? むちゃくちゃ硬いんだけど」


秀は『何か』の腹をピンポイントに殴ったはずだった。


しかし、『何か』に攻撃が効いている様子はなく、威嚇の声を荒げるだけだった。


「そろそろ授業始まるんだけどなあ」


「グガァ!!!!!」


「やべっ!?」


一瞬の隙を突かれた。


自分以外に能力を使えるものがいるかはわからないが、いるとすればこんな状況でも能力を使い防ぐこともできるのかもしれないが、秀にそこまでの時間は残されていなかった。


「………死ぬのか、俺は」


そう思った瞬間だった「式神! 」


「なに?」


どこからともなく飛んできた紙切れが、秀の体を包み込んだ。


「‥‥‥こ、これは」


不思議な力だった、もちろん自分も超能力者である事は自覚しているが、ひらひらと飛んで来た紙が自分を守ってくれたことに、秀は驚かざるを得なかった。


「………今のは」


いつのにか黒く蠢く怪物は姿を消していた。


キーンコーンカーンコーンという昼休み終了なチャイムが鳴る中、秀はゆっくりと紙切れを制服の右ポケットに入れた。


「さて行くか」


次の授業の教師は学園で一番遅刻に厳しい教師ということもあり、秀は急いで教室に戻った。





「えー、つまりだな」


なんとか授業にも間に合い、秀は怪物と先ほどまで戦闘をしていたことを感じさせないほど落ち着いて授業を受けていた。


教室に入った瞬間、姫華と目があったが、秀は特に気にすることも無く自分の席へとついた。


秀は度々怪物の気配を感じなんとか倒そうと試みるのだが、ほとんどの場合は先ほどのように撃退するのがやっとなのが現状だった。


「じゃあ、次の問題を…………柳瀬、出来るか」


「出来ます」


女の子にしては比較的低めの通る声が教室に響いた。


ふわりと長い髪が靡き、姫華は教師からチョークを受け取り、黒板に書かれた問題の答えを書いて行く。


「流石だな、正解だ」


教室中から「おー」という声を出す生徒が何人かいた、姫華は表情を変えずにゆっくりと自分の席に戻った。



「……………」


「(今、目があった?)」


ちらっと秀と目があった気がした。


「もう終わりか、じゃあ来週までの課題だ、やっておけよ、特にテストの点が芳しくなかったやつはな」


教師はそれだけ行って、チャイムが鳴るよりも一瞬だけ早く教室を出た。


「終わったか、今日も疲れたぜ」


「全くだ、俺も可愛いこと遊びたいわ」


もちろん、秀の疲れたわ他の生徒たちとの疲れたという種類が違うわけなのだが。


「…………」


「なんか、秀の事見てね?」


「いつも割と目が合うんだけど、今日はいつもよりも目が合う気がする」


「あれは目が合うっていうよりも凝視!って感じだぜ」


「ちょっと話してくる」


「えっ?」


鉄の戸惑いをよそに、秀は姫華の席へと近づいた。


「…………なに?」


「えっと……………その………………」


「用がないなら私帰るから」


「いや、待って用事あるから」


「…………」


姫華は秀の制止によって歩きを止め、振り返った。


「俺と…………友達にならないか?」


「友達?」


教室に残っている生徒たちがざわざわと騒ぎ出す。


「そ、それじゃあ!」



柳瀬 姫華に告白をしようと試みるも告白まで至らず玉砕した男子は数知れず、仲良くなろうと試みる女子グループもはねのけてきた『氷の女王 柳瀬 姫華』彼女に真正面から友達になろうと言う人物の登場に教室中の生徒たちは二人に釘付けになっていた。


「…………友達とかはいらないけど、私は一応桐谷君に話があるから、少しだけ付き合って」


小さな声で、姫華は秀を呼び止める。


「えっ。 話を? 別にいいけど」


急に声を掛けられ、つまづきそうになりながら、秀は小走りに机の横に掛けてある自分のカバンを手に持ち、先に歩き出していた姫華の後を追った。


「柳瀬さんが口を聞いたぞ?」


「なに、二人って仲良いの?」


「………………秀のやつ、苦労が絶えないな」


鉄は独り言を誰にも聞こえない声のボリュームで呟いたのだった。







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