プロローグ
完全に開いた窓からジャリッやザッザッザッと運動部員のグラウンドを走る音が聞こえてくる。
「キャ〜キャ〜」「キャハハハハッ」と上の階から女子生徒らしき高い声が聞こえてくる。かなり盛り上がっている様だ。
空が青い。
雲ひとつ無いと言いたいが目を凝らしてみると、申し訳ない程度に小さな雲が遠くに揺蕩っていた。歯がゆい。
暑い。半端ない暑さだ。
そろそろクーラーの効いた部室に移動するかと考えつつも、2ー5教室の一番後ろの自分の席に座り、窓のサッシにもたれ掛かる。
そして二階から見える下界の景色を見下ろすとここら辺では強豪として有名な女子ラクロス部がトラックを綺麗な三列を作って走っていた。結構ペースが早い。後列の一年生が今にも死にそうなゾンビだ。よくやるものだ。
あっ。先頭の西野がこっちに気づいた。平静に笑顔で手を振ってやり過ごす。
俺が手を振ると、西野に続いて気づいたラクロス部員がキャッキャと笑って西野を小突く。終いには部員全員で手を振って応えてくれた。おまけで野球部方面から男子生徒の嫉妬光線も飛んできた。フハハ、効かん。
因みに西野はただの従兄妹であり、悠ちゃん景ちゃんと呼びあって幼年期に遊んでいた仲だっただけで恋人ではない。小学校中学校は違っていて、高校一年の後期にやっとお互いの存在に気づいた。だが、彼女の素直さか純粋さがいけなかったのか、俺だと気づいた時に大きな声で“悠ちゃん”と言ってしまい、それから暫くして根も葉もない噂が尾ひれをつけまくって学校中を高速遊泳してしまったのである。最近は沈静化してきたがまだあっちこっちにボヤが立っている。どうしたものか。
思考の渦に呑み込まれていると後ろからガララと教室の扉開く音が聞こえた。
後ろを向くと健康そうな肌の色をした男子生徒が立っていてそいつはいつものように声をかけてくる。
「悠人〜‼︎そろそろ凛花ちゃんとこに行こうぜ‼︎」
そう声をかけてきた男子生徒、千代野火織に俺は適当に「おう」とだけ返して立ち上がり、机の横に掛けた鞄を手に取る。
“凛花ちゃんとこ”と言うのはきっと部室のことだろう。
超常現象追求部。
有名になってきたよな、最近。
まぁそりゃそうか。彼女が部長をやってるんだ。時間の問題だったな。
「そういやよぉ、なんか今日凛花ちゃん、ヤベェもん持ってきたらしいで?」
「へぇーヤベェもんか。ホラー系?グロテスク系?」
「それがな.........俺もヤベェってことしか聞いてないんや‼︎なっはっは‼︎」
「使えんなー」
「なんやとぉー⁉︎」
そうふざけ合いながら部室へ向かう俺と火織は次の日、超常現象追求部の部長流田凛花と合わせて“一切の痕跡が無い神隠し事件”として捜索されることになるとは流石に思い付きもしなかった。