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第四話 イキトシイケルモノ / 1



 ごめんなさい


 ごめんなさい


 お願いだからあんな事は二度と言わないで


 お願いだからそんな目で私を見ないで


 謝るから


 謝るから


 許して



▽▽▽▽▽



 広い部屋には本の臭いが充満している。本棚という名の壁がこのだだっ広い空間を迷路じみた物にしているが、本を溜め込む一方の学園図書館では仕方のないことだ。

「あー、埃っぽいわねぇ」

 棚の上の方にある本を取った少女は、その本と共に降りてくる埃に悪態をついた。

「一回扇風機でも思いっきり回してやろうかしら」

 悪戯じみた表情を浮かべるその少女は、手に取った埃まみれの本を叩く。舞い上がる埃は嫌がらせの様に彼女の髪にひっつこうとするが神速の手によって阻まれる。

「これかしら?」

 埃が剥がれて現れた本のタイトルは『童話』を意味する単語であった。

「何が悲しくてこの私が童話なんか読まなきゃいけないのよ」


 年齢として平均的であるその体に不釣り合いな大きな本を抱えながら彼女は土台にしていた二段重ねの椅子を降りる。絶妙なバランスで乗っていたのだろう、彼女が地面に足をつけると同時に椅子が大きな音を立てて崩れた。

「うるさいねぇ」

 近くの机で本を何やら弄くっていた別の少女があまりの騒音に音の発生原因を睨む。

(あきら)、いくらウチ等しかいないからって騒いで良いと言うことではないゾ」

 鏡と呼ばれた少女はその言葉に眉を(ひそ)めるが、黙々と倒れた椅子を元の位置に戻す作業に戻る。うるさいという言葉に言い返す事は出来ないからだ。

「で、先生に言われた本は見つかったの?」

 鏡が椅子を戻すのを最後まで見届けた少女は弄くっていた本をパタンと勢いよく閉じると鏡の横に移動した。

「これよ。童話ですって」

 鏡が目の前に突きつけた本の表紙を見るや否や、少女は馬鹿にしたような口調でそれを鏡の胸に突き返した。

「お似合いじゃないか」

「うるさい。老け顔魔法使いのくせに」

 お互いに悪態をつく。しかし二人は笑顔であった。

 いつものことである。高海鏡(こうみあきら)は親友である星井加々美ほしいかがみと共に毎晩この魔法学園の図書館で自主的な居残り勉強に励んでいるのである。


 それは加々美から話しかけてきた。

「ねぇ、貴方の名前も『かがみ』なの?」

 彼女はクラスで鏡を除くと一人だけの日本人であった。

「よく間違えられるんだけどね。鏡って書いて『あきら』って読むの」

 たわいもない会話だった。いや、周りの人間からしてみればであるが。

 二人は実は以前にも出会っていた。

「あんた、敵よね」

 加々美の二言目は何とも強烈な言葉であった。

「そうね。確かあんたあの時の女よね?」

 二人は地域の魔法使いが集まる小さな集会で出会っていた。

 そこでは派閥が存在し、彼女達は対立する位置にそれぞれ立っていた。

「まぁウチはそんなの気にしないけどね」

 そして三言目は満面の笑顔と力強い握手がセットに付いてきた。

「あ、そう」

 不意打ちだったため鏡はただそう呟くだけである。

 その日から鏡は毎度の如く加々美に声をかけられるようになる。


「あんたが悪いのよ。私にあんな事をさせるんだから」

「いや、どう考えてもお前がしくじったのが原因だろ」

 今朝の出来事である。学生寮の生徒達は大きな爆発音で目覚めることとなった。

「音だけですんだからよかったけど、あの部屋ごとすっ飛ばしていたらこんな課題だけでは終わらなかったでしょうね」

「いやいや、その時はまずウチ等の体が吹き飛んでいるって」

 加々美は再び弄り始めた本の背表紙を人差し指でつんつんと突っつく。

「で、あんたの課題はそれなの?」

 加々美が先程からやっているのは、特殊な魔法がかけられた本の『内容』をレポート用紙に書き写してこいと言う何とも不可解な課題であった。

「なあ鏡、お前のその脳みそ少し譲ってくれよ。頭良いんだから少しくらいくれたって良いだろ? な?」

「アホか。成績で言ったら私の少し後ろに鎮座してるあんたにくれてやる脳みそなんか無い」

 自分の頭の上にのせられた加々美の手を何とも邪魔そうに退かした鏡はレポート用紙に本のタイトルを書き写した。

「馬鹿みたい。何が『貴方には落ち着きが足りないから指定する本を写して来なさい』よ。こんな童話読んだところで心にゆとりなんて生まれないわよ」

 鏡がぶつぶつと悪態を吐いている横で加々美は大きなあくびをする。

「少なくとも今のお前の心には毎秒単位で皺が増えてるだろうがな」

 


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