第三話 水鏡 / 中話(1)
Sepia
その人は私の首に鋭利な剣を添えた。
氷の様に冷たい刃が首を冷やす。
その方が良いのかもしれない。
痛みは冷たさによって消されるのだから。
せめて死ぬ時くらいは痛みを忘れさせて。
痛みは生きたいという願望の表れなのにまだ私に付きまとってくるの。
「死にたいなら殺してやる」
その人の目は私をつまらないモノとして見ていた。
つまらないモノ……それは私
「…………殺して」
私がそう言うとその人はその剣を振り上げ私の首を凝視する。
「ありがとう」
「礼……か」
その人は口先だけで笑い剣を振り下ろした。
私は瞼を静かに閉じた。
やっと痛覚とさよならできる……
これで死ねるんだ……
だが私の首は二つに分かれることは出来なかった。
「何やっているのです? 命令と違いますよ」
「…………」
剣と首との間に鈴が挟まっていた。細い柄なのに剣の一閃を殺していた。
「死ぬのを望んだ。だから殺してやろうと思っただけ」
その人は機械のようにぼそぼそと呟くと剣を下ろして牢屋から出て行ってしまった。
「あの子が自分の判断で命令違反するなんて信じられませんね」
その綺麗な人は、行ってしまった人の背中を訝しげに見つめていたが、私の視線に気付きにこやかに言った。
「はい。悪夢は終わりました。これからお日様の当たる場所で暮らせますよ? どうします?」
「…………殺してください」
「ごめんなさい」
髪をかき上げながらその人は困ったように顔を歪める。
「貴方達は出来る限り生存した状態のまま、と言う命令書が出ていますので殺すことは出来ません。日の当たる場所が嫌いなら私達の仲間にでもなりますか?」
「…………冗談」
「おや、嫌ですか? まあ個人の自由ですからね」
自由
それは
私の頭から消えた言葉