乙女ゲームに転生なんてある訳がない。
乙女ゲームに転生なんてある訳がない。
まず普通の人ならば乙女ゲームに転生なんて、いくらなんでも電波すぎ!と思うだろう?
いや、たぶん乙女ゲームに転生したわけではないんだ。
ただ、うちの可愛い妹の周りの男の美形率半端ねぇなって言うのと、前世の記憶というものがあるだけで。
……前世とか言ってる時点で電波か。
いやまあそれは置いといて、だな。
話が変わるが妹が超可愛い。
とっても可愛いんだ、超素直で超ちっちゃくて、少し気が強くて純粋に私を慕ってくれる我が妹が。
現在私とともに小さなアパートに二人暮らし中だが、彼女には夢がある。
アイドルになるという夢が。
私としては転生などどうでも良い。
誰になにを言われようと我が道を突き通す。
それが私。
私が私であることになんの問題もない。
たった一人の妹を存分に可愛がって夢を応援して 、たまに妹に歌って踊ってもらったりする。
素晴らしいじゃないか。
ただ、この世界。
何故だか私が好きだった曲がいっさいないんだ。
クラッシックからJポップまで、知ってる曲がどれだけ探しても全くないのだ。
例え私が成績優秀容姿端麗な才色兼備に加え性格よしと言う素晴らしい人格者(過大評価)であったとしても、それだけは許せない。
この前世の記憶というものがただの妄想だとしても、曲としてのの魅力はこちらの方が優秀だ。
現世の曲に全くもって魅力を感じないのだ。
いや、妹が歌ったら可愛いけど。
でもどうせなら、妹にはもっといい曲を歌わせてやりたい。
あの子は歌が大好きなんだ。
てことで私は最近大学に通いながら曲を作っている。
作っていると言うか、頑張って歌を楽譜に起こしてる。
超大変。
それでも、前世にはなかった絶対音感に助けられているが、これがなかったらと思うと心が折れる。
この世界にはないんだ。
パクリ扱いはされない。
妹のデビュー曲が私のお気に入りの曲になればいいなと妄想している日々だ。
「お姉ちゃん、曲できたー?」
お風呂から上がった妹が聞いてきた。
この子は私が作っている(?)曲をとても楽しみにしてくれているのだ。
「んー、もうちょっとかなー」
丁度今最後のサビが終わろうとしているところだ。
ここさえ終われば後は簡単だ。
早く妹に聴かせたい。
早く歌って聴かせてほしい。
あぁ、今からとても楽しみだ。
「早く作ってよね!わたし、お姉ちゃんの歌、楽しみにしてるんだから!」
「もちろん。そういえば、例のユウキ君だっけ?その子はどうなったの?」
ユウキ君。
妹と同じ事務所に通う生意気美少年(妹談)である。
先日から、その子について色々相談されていたのだ。
いやー、頼りにされるって嬉しいねー。
「あ!そうそうユウキ!あいつったら、お前がもし、万が一プロのアイドルになることが出来たら、一緒にグループ組んでやるよって!もしってなによ!万が一ってなによ!絶対あいつよりも人気になってやるんだから!!」
それってただのツンデレではないのだろうか。
乙女ゲーム的な感じで言うと、それって後はアイドルになればもうトゥルーエンドじゃないのか?
そしてそのライブが終わったら『俺、お前の事…』的なことになるんでしょ?
妹ったらユウキ君の攻略完了しちゃったよ。
「あら、じゃあ男女のデュエットも作った方がいい?」
「お姉ちゃんったら、からかわないでよ〜」
頬を赤く染め、満更でもない様子で言う妹に、絶対作ってやろうと決心した。
「はい、でーきた」
「やったぁ!!流石お姉ちゃん!!」
いつも通り、だらーっとパソコンを弄っていた私に妹は声をかけた。
「…お姉ちゃん」
「んー?」
妹の神妙な声に嫌な予感がする。
ユウキ君の相談をされた時もこんな声だったのだ。
お姉ちゃん、二股は許しませんよ!
「朔弥さんが来週みんなでカラオケに行こうって」
「うん、いいんじゃない?行ってきなさいな」
朔弥さんとは、事務所の社長さんである。
事務所の所属人数もそこまで多くないため、皆の結束力は固い。
その中でも朔弥さんはみんなのお父さんってイメージだ。
もちろんイケメン。
元俳優で一度会ったことがあるが、良さげな人だった。
彼がいるならきっと大丈夫だ。
嫌な予感は外れたらしい。
良かった良かった。
「それで可憐ちゃんと美樹ちゃんが前日にお買い物行こうって誘ってくれたの」
「あら、良かったわね」
「うん…でも買い物するお金がないの…」
「今月のお小遣いは?」
「あっれは…その……駄目なの」
「んー」
たぶん妹には妹なりの理由があるのだろう。
かといってここでお小遣いを与えず、妹が付き合い悪いと言われるのは避けたい。
んー。
悩んだ結果、来月のお小遣いを前払いすることにした。
「はい、来月分のお小遣い」
きちんと封筒に入れて妹に渡す。
妹はそれを受け取り、ありがとう!と笑顔を溢した。
超可愛い。
「あとこれ。いつも頑張ってるから」
それプラス千円を渡す。
べ、別に妹の笑顔にやられたわけじゃないんだからね!!
「ありがとうお姉ちゃん!大好き!!」
なんて言って私に抱きついた妹に、再び財布を開けそうになったが流石にそれは耐えた。
親の仕送りにだって限りがあるのだ。
妹は無事友達との買い物を済ませ、カラオケへ行った。
そして、カラオケから帰ってきた途端にこう言ったのだ。
「ただいま…。朔弥さんに告白された…ら、可憐ちゃんと美樹ちゃんが割り込んできて、可憐ちゃんが自分も男だって暴露してきた。告白された。美樹ちゃんにもされた」
嫌な予感は当たっていた。
外れたと思ったのに!!
そしてまさかの男の娘&百合きたー!
妹よ、其方は逆ハーエンドでも迎えるつもりなのか。
たぶん妹は無自覚なのだ。
周りの男(女もいる)どもが妹の魅力にやられてるだけなのだ。
妹は悪くない!
逆に妹は友達からのまさかの告白でとても戸惑っているのだ!
そう思うと妹がとても不憫に思えてきた。
だが、何を言えばいいのかわからなくて
「えっと……おかえりなさい」
としか返せなかった。
曲完成したんだけど、言っていいのだろうか。
ここは話題を変えて、深く考えさせないのが良いのだろうか。
あ、駄目だ。
この曲、その三人で歌う予定だったやつだ。
妹はプルプル震え唇を噛んでいる。
完璧に泣くのを我慢している状態だ。
私は妹を抱きしめた。
すると涙腺が一気に緩んだのか涙が妹の頬を伝い、床に落ちた。
わけわかんない!みんなしてなんなのよぉ!!と金切り声で叫びながら泣きわめく妹の背中を撫でながら思う。
この世界が乙女ゲームなわけがない。
ゲームのヒロインがこんなにも不憫なわけがない。
そして『うっせぇ!』という隣の部屋からの怒鳴り声や壁を叩く音。
こんなシーンを台無しにするような演出があるわけないのだ。
生憎妹はその怒鳴り声に気づいていないが。
私は心の中でため息を吐く。
この泣きじゃくってる妹をどうするか。
隣の部屋の住人への謝罪。
明日は朝から大学行かないといけないのに…。
いっそのことゲームの世界だったら良かったのに。
そうしたら、そんなシーンなんてカット出来た。
というか、そもそもシナリオにないだろう。
そんなどうでもいいシーン。
畜生。
これだから、乙女ゲームに転生なんてある訳がない。