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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第一章 王都への旅編

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衛兵の乱入

俺の背後のテーブルではンダギ、ンダガ、ブロウとソニアが盛り上がっていた。

ソニアは明らかに身分の高い出自だ。

貴族の一員だろう。

貴族の大半が内心オークやゴブリンを嫌っている。

蔑んでいるんだ。

しかしソニアにそんな様子は見受けられない。

三人と良く馴染んでいる。

「旅に出るなら外套が必要だな。」

「あんたのその服じゃ寒いよ。」

「でも私これ以外に服は持っていないわ。下着の替えすらないのよ。」

「杖もいるな。あんたみたいなお嬢様じゃ歩きなれていないだろう?」

「まぁ、失礼ね。これでも結構、体力あるのよ。領地では結構歩き回っていたのよ。貴族の娘だからって、馬鹿にしてるでしょ?」

「そんなことはないが、王都までは遠いんだ。」

「揃えている暇はないわ。早く行きたいの。」

「まだ開いている商店があるぞ。」

「行くか?」

「いいの?私、お金ないわよ。」

「貸してやるよ。もちろん、王都に着いたら返してくれよ。」

「わかったわ。伯父様は裕福なのよ。約束するわ。早く行きましょ!」

ソニアに急かされてンダギ達は杯に残っていた酒を一気に飲み干した。

ソニアは明るく振る舞っているが、やや挙動が怪しい。

まぁ、お嬢様っぽいからな、この店の雰囲気に戸惑っているのかもしれない。

随分、周りを気にしてきょろきょろしている。

やがてンダギ達が次々とガタンと音を立てて杯をテーブルに置いた。

四人はわいわいと酒場から出て行った。

ンダギ、ンダガ兄弟は優しい性格だし、ブロウも照れ屋だからぶっきらぼうな態度をとるが本当はお人好しだ。

ソニアのことが放っとけないらしい。

この時間、女が外を歩くのは危険だが、あの三人と一緒であれば、まず問題はない。


「魔王が復活したら、あんたも一緒にその軍勢に加わればいいじゃない?」

もっとしゃれにならないことを言ってる奴がいる。

俺は背後でンダギ達の残したコップを片付けるダリーの方へ振り返った。

ダリーは俺の顔を見てニッコリ笑うとこともなげに言った。

「焦る必要はないわ。小うるさい連中はここにはいないわ。

いいじゃない?あんたのところのオーク三人は魔王が真っ先に欲しがる手練れよ。魔王軍が復活すれば、すぐに戦士長ね。あんたの魔法とあんたの弓もいるわ!こ憎たらしい領主の子分どもを追っ払いましょうよ!」

可愛い顔をして恐ろしいことを言う。

横でフレッドがあきれたように肩をすくめる。

こいつは元衛兵だぞ?

さすがに不用意過ぎないか?その発言は。


ダリーはハーフオーク。

オークの父親とヒト族の母親を持つ女だ。

いつもキツいジョークで場を盛り上げる元気な給仕だ。

かなりの美人でスタイルもいい。

客あしらいもうまい。

当然、店の人気者だ。

ダリーはこの店の看板娘だ。

ダリー目当ての客も多くいる。

但し、露出度の高い服を着ている時は要注意だ。

ダリーは懐具合がわるくなるとあからさまに露出度の高い服で店に出る。

接客も馴れ馴れしくなるし、ひどい時で耳に息を吹きかけながら話しかけてくる時すらある。

これ、全て、チップを弾ませる為なんだ。

質が悪い。

もっとも、俺なんかはそれに乗ってこないことを知っているから、最初からそんなサービスしてこないが。

カサベラは交易都市だ。

よそ者の客も多い。

そんな連中がダリーの手の上で転がされるわけだ。

ガレスが目を光らせているからダリーもやりすぎないし、客もダリーにのぼせ上っても、手は出さない。

財布が少し軽くなるだけだ。


「ダリー、やめてくれよ。俺は戦争なんてごめんだよ。」

「でも、今のクソ領主がいなくなったら、いいことずくめじゃない?」

「それはわかるけどさ。」

今のカサベラの領主は昨年、領地替えで来た現王の息がかかった奴だ。

王の意を迎えて大の元『闇の種族』嫌いだ。

次々と嫌がらせをしてきやがる。

カサベラのような多様な種族が一緒に暮らす町では最悪の領主だ。

当然、一部のヒトやドワーフを除く、大半の住民から嫌われている。

(あぁ、そうそう。エルフなんてのはカサベラみたいな『下等で下品な』町には滅多にお越しにならないんだ。)


「魔王様の軍勢ではオークもゴブリンもヒトもみんな平等って話よ。そっちの方がいいわ。」

それはそうなんだが大半の人間がそれを望んでいないってのが問題なんだな。

「前の戦争でもたくさん死んだからな。戦争はやっぱりごめんだよ。」

「そんなこと言わないでさぁ、魔王様が復活したら一緒に魔王軍に入りましょ?仲良くしてあげるわ。」

「やめろ。抱き着くな。」

背後から抱き着いて、服の中に手を入れようとするダリーを振りほどいた。

因みに今日の服は露出度が低い。

懐具合は悪くないんだろう。

これは単なる常連とのじゃれ合いだ。

転生前、女にモテなかった俺には刺激が強すぎるが、そんなことは毛ほども表に出さない。


俺はチームのンダギ、ンダガ、ブロウ、エミィが好きだし、ガレスもダリーも好きだ。

生まれ故郷のカレドニア地方ではオークやゴブリンに出会うことがなかったから、この町に来た時、このカオスな生活には戸惑ったが、今では気に入っている。


「おい、面倒な連中が来るぞ。」

トイレに行くと外に出て行ったエミィが戻ってくるなり、テーブルに広げていた地図をくるくると巻いてしまいこんだ。

王都までの道程を考えようとしていたんだ。


ガレスが鋭い一瞥をくれた。

本当に反応が早い。

かなわないなホブゴブリンには。


「え?」

俺とフレッドが振り向いた時にはエミィは既にいなかった。

低い姿勢でテーブルの向こう側にこそこそと移動していた。

さすが隠密行動の達人。

早いし、気取らせない。


次の瞬間、乱暴に扉が開けられた。

衛兵たちがどかどかと入ってきた。

三人。

一人が店に入ると入り口に近くで飲んでた小柄なゴブリンの椅子を蹴とばす。

ゴブリンは転げ落ち、起き上がって抗議の拳を振り上げようとしたが、そのままひれ伏してしまった。

衛兵は剣を抜いた。

衛兵と言えど用もなく剣を抜けば穏便とは言えない。


こいつら新しい領主について他所からきた衛兵だ。

こいつらはみんな、オークやゴブリンが嫌いで事あるごとに嫌がらせをしてきやがる。


「おい、邪魔をするぜ。ホブゴブリン。」

先頭の男が吐き捨てるように言った。

異種族間で会話する時、相手を種族名で呼び捨てるのは、失礼とされている。

わざとだな。

挑発だ。

ガレスもそれはわかっている。

「何の用ですか?隊長さん。」

先頭の男は多分、隊長ではないだろう。

衛兵隊の隊長はかなり上の身分だ。

こいつはせいぜい小隊長あたりだろう。

課長さんでも係長さんでも平社員でも『社長さん』って呼ぶ飲み屋のお姉さんと一緒だ。

でも、ガレスはあてこすりの意味も込めてる。

店のあちこちで低い笑い声が起きた。

『隊長さん』の顔が少し赤くなる。

かなり怒ってるな。

「俺達衛兵は領主様の意を受けて、いつでもこの町の平和を守るために尽力しているのだ。」

「ご苦労様ですな。」

「この店に町の平和を乱すような奴がいれば、捕まえるのも俺達の仕事だ。邪魔をするな。」

「この店にはそんな客はおりませんよ。」

「それは俺が決めることだ!」

『隊長さん』は店の中を見回した。

子分の衛兵達も客の頭を小突いたり、椅子を蹴とばしながら店の中を回り始めた。


なんだ?こいつらさっきから客の顔を確認してないか?

フードを被ってる奴がいたら、剥がして見てる。


一人が小柄なオークの頭を叩いた。

こいつらさっきから弱そうなやつばかりいじめてやがる。


「おい。うちの若い衆に何すんだ。」

店の奥から低い声が響く。

まずいな。

ダンガーだ。

闇賭場を開いているくらいだ。

ヤクザみたいなもんだ。

オークはダンガーの子分の一人だったらしい。

衛兵の顔がひきつる。


「おや?ダンガーじゃないか?こんなところで飲んでていいのか?俺は町の法を犯すものを捕まえに来たんだぜ?」

『隊長さん』が出てきた。

まぁ、闇賭場ってだけで不法なのは間違いないんだが、ダンガーは馬鹿じゃない。

町の偉い連中にがっつり賄賂を送っているから、賭場は黙認されているし、本人は白昼堂々と街中を歩いている。

それだけの賄賂を払っても利益が出ているんだから、賭場で賭けても負けるわけだ。

わかっていても、ハマる奴はついつい賭場であり金を落とすんだが。


とにかく『隊長さん』ごときがダンガーに対抗できるわけがない。

威厳を取り繕っているようだが、ビビってるのは間違いない。


また低い笑い声が店のあちこちで起きた。


「ええい!聞け!」

『隊長さん』はダンガーのことは『忘れて』店の中を見回して叫んだ。

「お前らよそ者のの女を見ていないか?」


ん?

ヤバくないか?


「よそ者の女?隊長さん、この町はよそ者だらけだぜ!」

誰かが野次を飛ばした。

さっきも言ったようにカサベラは交易都市だからよそ者が多いんだ。

部下の一人が黙らせようとするのを『隊長さん』が制した。

こいつもダンガーの子分かもしれないしな。


「黒髪に黒い目の女だ。若いが王国への反逆企んでいる疑いのある女だ。」

黒髪に黒い目か…

焦ったぜ。

ソニアじゃないな。

さっきからこちらをチラチラ見てる奴もいたが、今はなんだって顔をしてやがる。


「若い女?女一人が反逆して王国がどうにかなるんですかね?」

また、野次が飛んだ。

「うるさい!王都から直接の指令だ!何かとんでもない大物の関係者らしい。お前らいいか?黒髪に黒い目の女だぞ!見つけたらすぐに通報しろ!隠したり、かくまえば、即、縛り首だっ!」


ダリーが剣呑な表情でエールを注いだカップを『隊長さん』の前のテーブルに置いた。

「隊長さん、ご覧の通り、うちにはそんな女はおりませんぜ。まぁ、お疲れでしょう?一杯飲んだらお引き取りください。」

ガレスの言葉は丁重だが、低く太い声で半端ない圧がこもっている。

『隊長さん』はカップを軽く口につけたが、すぐに戻した。


「いいか?お前ら!黒髪に黒い目の女を見たら、俺にすぐ知らせろ!」

最後に吠えて、多少威厳を保った気持ちになると『隊長さん』はずかずかと出て行った。

配下の二人は自分達の前にもおかれたエールを物欲しそうに眺めながらついて行った。


店は何事もなかったように再び陽気な雰囲気になった。

俺は考えることがあった。

蒸留酒を呷った。

その横でフレッドとエミィは再び地図を開いた。

愛機(PC)が逝ってしまいました。

執筆、投稿準備、投稿全てPCでやっていたので、少しピンチです。

暫くは下書きを貯めているので、投稿が途切れないように急いで新しいPCを買います。

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