表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第三章 ヴァラキア編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/69

半神レネ

「あなたも多少は身繕いしたら?」

ヴィーラがやや呆れ顔で言ってくるが、俺、もうこれしか服がないんだよな。

大体、普段から身だしなみなんか気にしてないからな。

「別にいいだろ?これ一応、魔法協会の正式なローブだしな。」

「髪くらい整えなさいよ。大体、髪も埃だらけよ。」

汚らしそうに顔を顰めながら、それでも俺の髪に手を伸ばしてきた。

何だか、それまで何とも思っていなかったのに、急に俺の髪が汚らしく思えてきた。

そんなものをソニアに触らせたくなかった。

「いいよ。」

軽く彼女の手を払った。

ソニアは漫画のように頬を膨らませて怒った。

「もう!知らない!」


「皆様、こちらへお願いいたします。」

ジルワードが話しかけてきた。

ソニアは俺に呆れた視線を浴びせ、ため息をつき、それから何故かクスリと笑い、背を向けた。

慌てて俺はその背を追いかけた。


俺達は豪奢な回廊の突き当たりの立派な扉の前まで連れてこられた。

扉の脇でジルワードが立ち止まり、ノックし、俺達を扉の方へ進むよう促すと、深々と頭を下げた。

扉が開かれた。

中にはジルワードと同じような服装のゴブリンがいた。

彼らが開けてくれたようだ。

俺達は部屋に入った。

その部屋は回廊から反対側の壁の扉まで絨毯が敷かれていた。

これはかなり贅沢だ。

転生前の世界では絨毯と言えば床に敷くものだったが、この世界では壁にかけるのが一般的だ。

絨毯はかなりの贅沢品だ。

床に敷く事が皆無とは言わないが、かなり贅沢な使用方法だ。

流石は宮殿。

そして、絨毯が敷かれているということは高貴なものが通る道と言うことだ。

反対側の扉の向こうには王座の間があるんだ。

つまり、魔王と謁見する部屋だ。

絨毯はそこへ向かう際に通る道なわけだ。

部屋は絨毯の両側にいくつものイスとテーブルが用意されている。

魔王に呼ばれた家臣の従者がここで待機するわけだ。


この部屋で待っていたのが半神レネだった。


半神レネ。

この世界の創生の時からこの世界に居続ける半神だ。

半神というが、ほぼ神様だ。

絶大な力を持っている。

神界とこの世界の繋がりが断たれた際にその力の大半を失ったと言われるが、何せ元半神だ。

例え九十九パーセントの力が失われたとしても並の人間には到底比べることもできないような力を保持しているだろう。

メルコルがいなくなってしまった後、何故レネが魔王の座を引き継がなかったのかが不思議だ。


半神レネを初めて見た時、最初に感じたのは違和感だ。

神話の時代はどうであったかはわからないが、今では人間の体(少なくともそう見える)を憑代にしている以上、見た目は普通の人間のはずなんだが、やはりそこは半神だ。

異様な人物にしか見えなかった。

背の高い痩身の体躯に乗っている顔は…

太陽の塔についている正面中央のあの顔とサルバドール=ダリの顔とライオンをミックスした感じだ。

わかりにくいかもしれないが本当にそう思ったんだ。

ライオンの鬣のように髪と髭が顔の輪郭を覆い、太陽の塔の顔みたいに不機嫌そうな表情のままコンクリートで固められたような丸い顔にサルバドール=ダリのようなぎょろりとした瞬きしない瞳とピンと上がった針金のような口髭だ。

異様な感じしかしない。

奇抜な髪型や髭よりも違和感を感じさせるのは、やはりあの無表情な感じだ。

勿論、彫像のように顔の筋肉が動かないわけではないんだが、凡そ喜怒哀楽というものを感じさせない。

思えば彼は半神だ。

神や半神には感情と言うものがないという。

半神である彼にも情と言うものがなく、それがあの異質な無表情になるのかもしれない。

そして圧倒的な力を感じさせる。

これがオーラっていう奴だな。

何度も言うが彼は力の大半を失ったとは言え半神だ。

神の眷属に接しているのだ。

目に見えない圧倒的な力が押し寄せてくる。

俺達は立ち上がって挨拶しようとしたんだが、体が固まってしまった。


そんな中、半神レネの異様な力をものともしない奴が一人いる。

「お父様っ!」

ソニアは嬉しそうにそう叫ぶと全力で駆け寄り、すべての体重を預けるようにレネに飛びつき、抱きついた。

全力でソニアに抱きつかれてもレネは体幹を鍛えぬいたアスリートのように微動だにせず立っていた。

そして、静かにソニアの頭を撫でた。

ここで優しそうな表情でも浮かべば良いのだが、やはり奇妙なまでに無表情だ。

ソニアはそんなレネの首に腕を巻き付けてぶら下がっている。

ヴァラキアに逃げてきたソニアを育てたのはレネだと言う。

だからソニアは『お父様』と呼ぶんだ。

幼い頃から育ててもらったんだあの奇抜な外見も情のない不思議な様子も気にならないのだろう。

「お父様、心配かけてごめんなさい。任務を成功できずにごめんなさい。私、私ね。」

「良い。娘よ。」

レネの声はいかにも落ち着いたダンディーなおじさま風の声なんだが、どうも喉から発声されているように聞こえない。

どこかのスピーカーから流れているような感じがする。

多分、口元がほとんど動いていないからだな。

しかし、ソニアは気にもしないようだ。

「レネ殿はヴァラキアでソニアを育ててくださった父親のような存在なのだ。」

ノルデル伯が小声で教えてくれた。

ノルデル伯がソニアの後から進み出るとレネはソニアをぶら下げたまま右手を差し出した。

二人が握手すると、今後はヴィーラが進み出た。

ヴィーラは優雅にお辞儀した。

レネも相変わらずの無表情で軽く頷いてこれに応じた。

この二人は面識があるからな。

慣れているんだな。

「レネ様、ワイバーンをありがとうございました。少々、波風立ててしまいましたが、無事、皆を連れてこれました。」

アランがレネに報告する。

そうか。

レネは魔王が復活するまでヴァラキアの責任者だった。

だから、ワイバーン達を召喚し、アランに託したのもレネなのだろう。

「少々…と言うにはやや大袈裟な噂も聞くが?」

驚いた。

皮肉?或いはユーモアだよな?

レネにこんな台詞を吐くことがあるなんて想像できなかった。

意外と人間的な人物なのか?

半神に人物と言う名詞を当ててよいのかわからんが…

「相手はアルベリッヒ上級王。太古の時代、世界創生直後から生きている人物です。彼の長い人生において、あれくらいは『少々』でしょう。」

こちらにも驚いた。

出会って間もないがアランだが、いつもぶっきらぼうで、言葉も少なく、話しても最低限の短い言葉で済ませる奴だと思っていた。

とてもこんなことを言うとは思えなかった。

「あれであの二人は馬が合うらしい。お互いにお互いと話す時は多少饒舌になるんだ。」

ノルデル伯が愉快そうに耳打ちしてくれた。

なんだか、ブラド宮中はよい雰囲気のようだ。

つんけんと上品ぶっていて、それでいて殺伐としたアルベリッヒ上級王の宮廷とはえらい違いだ。


「あのね、お父様。紹介するは彼はダンカン、ダンカン=マカリスター。意外とすごい魔法使いなのよ。」

『意外と』ね。

もういいや。

「魔法使い協会の正会員でもあるわ。すごいでしょ?今は少し薄汚れているけれど、長旅の果てだから許してあげてね。」

悪かったな。

薄汚れてて。

まぁ、一生懸命褒めてもくれているからな。

「それでね。ケネス伯父様の旧領にある城址でも、王都でも召喚者を追い払ったのよ!あ、でも、城址での戦いではンダギやブロウもすごかったのよ。彼らはオークの戦士よ。ね!ンダギ?ブロウ?」

ソニアはこちらを振り返るとンダギとブロウに手を振った。

ンダギとブロウもやや困ったような顔をして手を振り返している。

困ったやつだな。

ソニアは頭のいい女の子だから、落ち着いて話せばわかりやすく簡単に説明してくれるんだが、興奮すると散らかった子供部屋のような話をしてしまう。

「出会ったのはカサベラの近くよ。私、盗賊につかまっていたの!それでね、その盗賊達を彼らが討伐したのよ。彼らってのはフレッドやエミィもよ。あとあの時はンダガもいたわ。それで、それで…」

「娘よ。話はある程度知らせが入っている。大変な旅だったようだな。」

レネはあっけなく話を遮った。

「魔王様がお待ちだ。魔王様にするお話を頭の中で整えておきなさい。」

ソニアははっとして考えこみ始めた。

流石は半神レネ。

どうやらソニアの扱いは心得ているらしい。


レネがこちらを見ている。

あの奇妙で感情のない表情で凝視されている。

なんだろう?

俺は嫌われているのか?

ダメだ。

不気味さを感じてしまう。

はっきり言って怖い。

でも、俺は全くの見当違いだったんだ。

半神レネが本当に嫌悪を持って見つめれば、相手に与える圧はこんなものではない。

しかし、この時の俺はレネに疑念をいただいていたからな。

周囲に放射されるレネの抑えられない力を悪くとらえていたんだな。


ソニアは何事もなかったように振る舞っていたが、本当は二人でレネと出会った際、どう振る舞うか話し合っていた。

結局は会ってみてから決めるとソニアが言い出したんだが…

俺達にはあのフィリップの居室にあるマントルピースの隠し扉から見つけたあの謎の巻物の内容が引っかかっていたんだ。

俺はレネの秘密を俺達が知っていることを勘付かれて警戒されていると考えていた。

今思えば半神レネ相手に思い上がりもいいところだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ