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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第二章 逃避行編

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ワイバーン達の襲撃

グンナル七世王の声の威力で一度は静まった広場が再び騒がしくなり始めた。

しかし、俺はそんな広間のことより気になることがあった。

俺達のいる座敷牢のような席は南の窓に一番近い。

そして、その中でも一番窓際の椅子に俺は座っていた。

だから会議中も庭をチラチラ見てたんだ。

俺は昔からそうだ。

転生前の世界でも、学生時代に窓際の席だと授業中によく外の景色を眺めていて怒られた。

会社員になってもそうだ。

よく仕事中でも窓から何となく外を眺めてしまうことがあった。

別に集中していないわけじゃないんだけどな。

だから、俺だけが気づいていた。

庭を縁どる鋸壁には弓を持ったエルフ兵が配されていたんだが、様子がおかしい。

一人が何かに気づいて、他の者達を呼び、遠くを指さしている。

何か叫んでいたのかもしれないが、この窓、すごいな。

まるで防音壁のように外の音が聞こえてこない。

もしかしたら、魔法の窓なのかもしれない。

音の振動を消す空気の魔法を籠めれば、防音窓だってできるはずだ。

エルフの魔法の技ならできてしまいそうだ。

だから、連中が何を騒いでいるかはわからない。

しかし、一人が血相を変えて、窓に向かって走ってきた。

窓を全力で叩いているが、これもまた何も聞こえない。

絶望的な表情で何かを伝えようとしている。

一方、広間はドワーフ諸王の爆弾発言で揉めている最中だ。

誰も気づかない。

俺は少し腰を浮かして、隣のソニアに声をかけようとした瞬間、庭は炎に包まれた。

広間の議論はドワーフ諸王の爆弾発言によって紛糾している。

だから、次の衝撃的な出来事まで皆気づいてなかったかもしれない。

庭を包んだ炎が消え、煙の中に現れた巨体が素早く動いた。

次の瞬間、轟音とともに南面のガラスが飛び散った。

ガラスを叩き割ったものが目の前に見える。

直径十二インチくらいか。

グネグネと続くもの。

俺はそれが何かわかりたくなかった。

俺はそれが何かわかりたかった。

あまりの恐怖に認めたくなくて、何かを認識したくなかった。

あまりの憧れにそれをもっと見たかった。

自分が魔法が存在し、エルフやドワーフのいる、前世で憧れていた所謂ファンタジーの世界に転生したらしいと気づいた時、真っ先に見たいと思ったもの。

それはこの世界でも半ばおとぎ話だった。

この世界の住人でも見たことのない人が大半だ。

実際おとぎ話には出てくるからな。

しかし、実在するとされているし、史書にも登場する。

転生前の世界で江戸時代になってから書かれた戦国時代の記録のような信憑性の低い二次資料、三次資料ではない。

かつての世界でいえば一級の一次資料と呼ばれるような記録に明記されているんだ。

なんなら目の前に当時から生きている人物がいる。

あぁ!なんで今まで聞かなかったんだろう?

転生前、あんなに憧れていたじゃないか。

「なぁ、ヴィーラ、ドラゴン見たことあるの?」って。


南面のガラスを叩き割ったドラゴンのしっぽはグネグネと動いて一瞬、宙で硬直したかのように止まった後、再び、目に見えないような速さで動いた。

次に叩き壊したのは、俺達の席を座敷牢たらしめている鉄格子だ。

その頃には広間は議論どころではなく阿鼻叫喚だ。

しかし、鉄格子が破壊されるや否やヴィーラが飛び出した。

「皆、ついて来て!すぐよ!」

彼女は庭に向かって走り出す。

悔しいが一番最後は俺だった。

はっきり言うが怖かったんだよ。

だってドラゴンだぜ?

アニメでもゲームでもない。

この世界ではリアルなんだ。

あの庭を一瞬で炎で包んだブレス。

アニメやゲームの通りじゃないか。

躊躇するよ。

普通。

でも、ソニアに腕をつかまれて俺も走り出した。

窓を破壊したときドラゴンのしっぽはギリ、窓際に配置されていたヒト族とドワーフ族の一団の手前をかすめたらしい。

彼らの席のあたりは一面にガラスの破片が散っていたが、彼ら自身はなぎ倒されてはいなかった。

もっとも、怖かっただろう。

ヒト族のクレマン男爵と大使はイスから転げ落ちて、悲鳴を上げていた。

ドワーフ族の大使とノーム爺さんもやはり転げ落ちていた。

ドワーフ諸王は流石、豪胆だ。

まだ落ち着いている。

とは言え、ビュール三世王とロフト王は椅子から立ち上がり呆然としていた。

彼らの横を通り過ぎる時、ヴィーラは一瞬立ち止まり、優雅にお辞儀した。

「ありがとう!」

中立を宣言してくれたことに対してだろう。

昨日、グンナル七世王が言った通りドワーフ族としてはドワーフ族全体の為を考えての決断だろうが、ヴィーラにとってはありがたいんだ。

スリン王は全く動揺する様子もなく、くつろいだ様子で穏やかな微笑を浮かべて手を振ってこたえた。

グンナル七世王は相変わらず無愛想な様子でアルベリッヒ上級王の方を睨んだまま。

軽く頷いた。

庭に出るとドラゴンが一頭ではないことが分かった。

因みに、厳密にはドラゴンじゃない。

ワイバーンと言う奴だ。

四肢が四本しかない。

つまり前肢が翼で後肢が脚だ。

ドラゴンの亜種とされている。

ドラゴンには翼とは別に四肢がある。

肢の数が違うのに亜種ってさ…

とは言え、この世界では皆真顔でそう言うんだからな。

肢の数が違うんだぜ?

まぁ、この世界のことだ。

「魔法だからね」

で済まされそうだ。

なんせ、フィヨルド地形が氷河の後ではなく、戦争で神々が暴れて大地を引き千切った跡とされている世界だからな!

空を旋回するワイバーンが鋸壁で必死に防戦するエルフの兵士に炎を浴びせている。

さすがはエルフだ。

耐火の魔法をかけているんだろう。

即死している様子はない。

庭の中央にドラゴンが降り立った。

驚いたことにその首の付け根には人が乗っている。

男だ。

ヴィーラはその男のもとに一目散に走り寄ると激しい身振り手振りを交えて大声で何か罵っている。

しかし、男が手を伸ばすとその手につかまり、瞬く間に馬上の人ならぬ龍上の人になってしまった。

「皆もワイバーンに乗って!逃げるわよ!」

ワイバーンに乗れだと?

簡単に言うなよ。

俺は現実に見るワイバーンとすさまじい火炎の恐怖で震えているんだが?

ヴィーラの乗ったワイバーンが飛び立つと他のワイバーン達が次々と降りてきた。

さっき言ったよな?

ヘリポートみたいだって。

これじゃ、本当にヘリポートだよ。

但し、発着するのは回転翼の飛行機ではなく、ワイバーンだけどな。

馬に乗る習慣がなく、乗馬ができないンダギとブロウがすぐにワイバーンに乗り込んだ。

樽のような体型からは想像できないような俊敏さと運動神経の持ち主だからな。

ノルデル伯も乗り込んで、エミィに手を伸ばしている。

「何をしているの早くしてよ!」

ソニアが俺の腕を引っ張って叫んでいる。

おかげで少し、我に返り、落ち着いた。

目の前にワイバーンがいる。

乗りやすいようにか?

首を低くして待っている。

首の付け根には馬の鞍みたいなものが取り付けてある。

ご丁寧に鐙も付いている。

手綱らしきものも。

これだけでこんな恐ろしいものに乗って空を飛べと?

もうやけくそだ。

俺はワイバーンに飛び乗った。

ソニアがその後ろに座るとワイバーンは首を上げた。

自然、俺達は後ろに落ちる形になる。

俺はあわてて手綱をつかみ、必死に鐙に長靴の先を突っ込んだ。

ワイバーンが走り出した。

ふと横を見るとワイバーンの上からフレッドが手を伸ばしているがユキーナが躊躇していた。

珍しいことだ。

ユキーナは怖いもの知らずだ。

こんな時も『面白そう!』とか言ってさっさと飛び乗りそうなものなのに。

ユキーナはしきりに広間の方を振り返っていたが、とうとうフレッドが強引に二の腕のあたりを掴んで引き上げた。

そんな二人が視界から消えた頃にはワイバーンは鋸壁に向かっていよいよ本格的なスピードで駆け出していた。

待てよ。

あそこから飛び降りて、滑空するつもりか?

こんな巨体の爬虫類が空を飛ぶことが信じられなくなった。

俺は急激に恐ろしくなった。

後ろでソニアが張り付いている。

漏らしたら大変だ。

落ち着けダンカン。

そうだ。

この世界のことだ。

きっと魔法の力で飛ぶんだ。

多分。

ワイバーンが鋸壁を越えた。

一瞬、鋸壁よりも高度が下がったが、すぐにふわっと上がっていった。

飛んだ!

飛んだんだ!

空を飛んでいる!

俺はドラゴンに乗って空を飛んでいる!

少し上空では数頭で旋回して円を描いていたワイバーン達が急降下をしてきて、背後で行きがけの駄賃とばかりに城に火炎を浴びせていた。

先に飛び立っていったワイバーンが順に左へ旋回していく。

先頭のワイバーンで正体不明の男の後ろにまたがっているヴィーラが振り返って手を振っている。

眼下には美しいエルフの都。

そして、どこまでも続くアルフハイムの森。

あの議論の間に午後になっていたらしい。

陽はわずかに傾き始めて森の向こう遠くの山肌の緑を輝かせていた。

そしてワイバーン編隊の先頭で手を振る美しいエルフの女王。

午後の陽はワイバーンの翼も輝かせた。

完璧な景色だ。

俺は前世の世界で観たどんな映画でもこれほど美しい景色を見たことがない。

俺は思い出した。

俺は転生前、うんざりするような毎日が嫌で、逃避するように非現実の世界、ファンタジーの世界に憧れていた。

魔法、エルフ、ドワーフ、オーク、ゴブリン、そしてドラゴンに。

今、俺はドラゴンにまたがってファンタジーの世界で空を旅していた!

そんな、感動も束の間、前のワイバーンに続いて俺達の乗っているワイバーンも左に旋回を始めた。

四十五度は傾いている。

そうだ。

俺はドラゴンにまたがって空を飛んでいる。

安全ベルトもなしに…

改めて恐怖がこみ上げ、鐙にかけた両足をワイバーンの首を絞めるように締め付けて、手綱を掴み落ちまいとした。

ソニアが更に強く抱きついてくる。

そうだ、ソニアには鐙も手綱もない。

俺がしっかりしなくてどうする?

ワイバーン達は南西に進路を変えるとそのまま飛翔を続けた。

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