表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第二章 逃避行編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/62

アルベリッヒ上級王の御前会議

翌朝、俺達は軽い朝食を済ませると王の広間に連れて行かれた。

王の広間は何層もぶち抜いた吹き抜けの広大な部屋だった。

南側は一面ガラス張りだ。

窓枠も単純な格子状のものではない。

南面一面をフルに使って鋼細工で森の小径が描かれていた。

まるで、広間から森に繋がり、そのまま木々の下を歩いて行けそうな気がするほど精巧な鋼細工だ。

もっともスケール感がデカ過ぎる。

かなりの吹き抜けだからな。

高さが二十ヤードはありそうだ。

かっこいいだろ?

こっちの世界ではヤード・ポンド法なんだ。

こちらで生まれてからもう二十年以上使っているが、未だに口にするとおしゃれで嬉しいのさ。

この鋼細工が窓枠の役割も果たしていているんだ。

窓の向こうは庭だ。

こちらは俺達が城に入る時に通った門とちょうど反対側になっていて、言わば城の一番奥だ。

その城の最南端にあるのがこの庭だ。

庭は城館側を除く三面を鋸壁に縁どられていて、その向こうは城壁と断崖がはるか下まで落ちている。

樹木は少ない。

芝生で覆われ、幾何学模様のように石畳の小径が走っている。

なんだかヘリポートっぽい。

庭と反対側の壁の高いところに王座があった。

王座の後方には扉がある。

上級王の執務室に繋がっているそうだ。

王座までは長い階段が続いており、その途中で左右に飛び出たところに椅子が用意されている。

その右側の椅子は本来ヴィーラが座るべき椅子だそうだ。

まぁ、上級王の次くらいに偉い人が座る席ってわけだな。

こちらの面には王座以外にもいくつか飛び出たバルコニーに椅子があった。

どのバルコニーにも背後に扉があり、そちらから出入りするらしい。

左右の壁面を何層ものバルコニーが埋めている。

そこにも椅子が並んでいる。

何れもこの広間で会議をする時に出席するエルフ諸侯の席だ。

上級王の王座へ続く階段は庭に面するガラス張りの壁の少し前で床面に着く。

そして、少し間をおいて今度は下の階層に続く階段が始まっている。

その階段の両脇にはテーブルとソファが配されていた。


俺達はこの階段から王の広間に入ったのではなかった。

王座から見て右手、西壁の一番最下層の一番窓際に用意された椅子の背後にある扉から入らされた。

そして広間に全員が入ると後ろでガチャリと鍵が閉められる音がした。

俺達一行の場所は鉄格子で囲まれていた。

上はバルコニーの床面だ。

鉄格子がなければ、広間の外れにある末席のようだが、鉄格子があるから座敷牢に入れられているようにしか思えない。

ヴィーラは何も言わず一番前の席に座ったが、はらわたが煮えくり返っているに違いない。


やがて、左右の壁面の扉があちこちで開き、会議の出席者、エルフ諸侯が入ってきた。

それぞれが自分の席に座り始める。

続いて北側の壁にある席にもエルフの高位の者達が座り始めた。

本来のヴィーラの席と階段を挟んだ反対側の席にも偉そうなエルフがついた。

そのエルフは広間を見まわし参加者が揃ったことを確認すると、立ち上がり、宣言した。

「これより御前会議を執り行う。アルベリッヒ上級王ご入室!」

王座の背後の扉からアルベリッヒ上級王が入ってきた。

後ろにはカレイドが付き従っている。

上級王が王座に座るとカレイドはその斜め後ろで起立したまま侍っている。

「本日は客人をお迎えしている。我らが古き友、ドワーフ諸王である。」

『古き友』という声が響くと多くのエルフ達が苦笑した。

やがて下層からの階段をのっしのっしとドワーフの諸王が上がってきた。

先頭はグンナル七世王だ。

スリン王、ビュール三世王、ロフト王と続く。

王達から少し間をおいて見知らぬドワーフが入ってきた。

後から聞いた話では神々の宿木に常駐しているドワーフの大使だそうだ。

更にそのドワーフの後についてきたのは、あのノームの爺さんだった。

なんだ、意外と大物だったんじゃないのか?


大使とノーム爺さんこそは上級王やエルフの諸侯に礼儀正しくお辞儀をしたが、先頭の他の王達は尊大な態度だった。

グンナル七世王に至っては階段を上ったところであからさまに不満げに鼻を鳴らして周囲を見回した。

階段の脇のソファがドワーフ諸王一行の席だ。

あそこから見れば、三方からエルフ達に見下ろされている格好だ。

誇り高いドワーフ王達にとっては屈辱的な扱いと感じられることだろう。

ドワーフ王達は何の挨拶もせずにどかりと座った。

ソファがギシギシと鳴る。

アルベリッヒ上級王は軽く手をあげた。

一応、挨拶のつもりだろう。

偉そうなエルフは何かを言おうとしたが、グンナル七世王の不満顔にビビったのか口をつぐんだ。

彼は一度咳払いをすると続けた。


「本日の議題は同盟国テルデサード王国からの特使から知らせについてである。

特使殿!」

今度はヒト族の男が階段を上がってきた。

ヒラヒラとした服を着飾った男だ。

これが特使だな。

ヒト族の特使は階段を上がると上級王に向かって恭しく、深々とお辞儀をした。

アルベリッヒ上級王からは頷いただけだったが、特使は満足気に微笑み、ドワーフ王達とは反対側のソファに座った。

特使の後からはやはりここに常駐しているヒト族の大使が続いたが、彼は特使よりも慣れているらしく、そこまで恭しくはなかったが、優雅にお辞儀をしてソファに座った。

これで出席者が全員揃ったわけだ。


偉そうなエルフ…ビュグヴィルと言う名前だそうだが…が改めて立ち上がって開会を宣言した。

「これよりアルベリッヒ上級王陛下の御前会議を開く。今日の議題はテルデサード王国の特使殿からの知らせについて議論をしたい。特使殿、話されよ。」

ヒト族の特使はアデラール=クレマン男爵という男だそうだ。

別に会議で紹介されたわけではないが、ノルデル伯が知っていた。

ジャン王の生前からフィリップの腰ぎんちゃくのような男だそうだ。

エルフ学の造詣が深く、エルフを敬服するあまり、アルフハイムの森に行ったことのある者に話を聞いては書き記し、自身の領地にある居館もこの神々の宿木に滞在したことのある者から聞いた話をもとにハイエルフの王城風に改築したとかいう男だ。

憧れのハイエルフの都に来て、伝説のアルベリッヒ上級王の御前会議で話をするのだ。

今、彼の人生で最も歓喜に満ちた瞬間なんだろう。

「アルベリッヒ上級王陛下並びにハイエルフの栄えある諸侯の皆様方に非常に重要なお話がありやってまいりました。」

クレマン男爵は一度、息を整えた。

「先日、我が王国で召喚者が出現いたしました。召喚の儀式に応えて召喚者がやってきたのです。これは即ち、魔王が復活したことを意味します。」

広間がどよめいた。

しかし、広間の奥の方、上の階層に行くにつれてその反応は鈍かった。

上級王は勿論、上級王に近い地位にあるものほど事前に知っていたのだろう。

ソニアの推測では魔王の封印が解ける前から召喚の準備は進められていた。

そして召喚の儀にはエルフの高位の魔法使いによる助力が必須だという。

茶番だな。

この御前会議はライオスエルフ上層部の仕込みみたいなものだ。

その事情をどこまでクレマン男爵が理解しているのだろうか?

彼は熱心に続けていた。

「ここにおられる諸賢におかれては既にご存じの通り召喚者は魔王がいなければ出現いたしません。前の召喚者達も魔王の死とともに元の世界へと還っていきました。」

あれは『送還の鍵』をジャン王が使っただけなんだよな。

これまでの召喚者は皆そうだ。

歴代の召喚者はみなショウやヒカル達のような質の悪い連中だったらしい。

魔王がいずこかへ姿を消してしまい、大戦が終われば時の国王にとっては悩みの種でしかなかったんだ。

「しかし、召喚者が再来したということは即ち、魔王の復活を意味するのです。」

酔いしれたように身振り手振りを加えて説明する男爵の言葉にライオスエルフの諸侯もボルテージが上がってきたようだ。

「何ということだ!」

「魔王が復活したとなれば、またこの森も荒らされるかもしれぬ…」

「すぐに兵を集めるべきだ!」

上の層の席にいる高位の諸侯や上級王の周辺はとりすましているが、事情を知らされていないエルフ達が興奮している。

真相を知らなければ、ごく当然の反応か。

「フィリップ国王陛下は再び闇の軍勢が旗揚げし、この美しい世界を汚し、破壊することを懸念されておられます。その為、我が王国では『オーク、ゴブリン追放令』が公布されました。これは来る大戦で奴らが内側から我々の国を蝕むことのを防ぐ為です。こちらではもとよりあのような者達がおりませぬから、このようなことは不要でしょうね。」

ンダギやブロウが短気を起こして騒ぎだすのではと冷や冷やしたが意外と冷静だった。

彼らの方を振り返すと恐ろしい形相はしていたが、おとなしく座っていた。

そう言えば、エルフの奴ら、この座敷牢のような席によほどの自信があるのか、それとも強大な力を持つエルフの諸侯の前で俺達など脅威でないと思っているのか武器を持ったまま席に着くことが許されていた。

ンダギもブロウもあの奇妙な大剣は傍らに立てかけていた。

男爵の話は続く。

「既に我が王国の中でも中枢部たるウエスタリア地方の大半ではこの法は施行され、その地に蔓延るオークやゴブリンどもは駆逐されました。しかし、我が王国周辺部の自治領への公布はこれからです。」

男爵は簡単に言うが、それがどれだけの命が奪われたことを意味するのかわかっているのか?

俺は手が震えるのを感じた。

怒りと恐怖。

「アヴァロン、ノルメルク地方は問題ないでしょう。問題はヴァラキア地方でございます。彼の地はオークやゴブリンが多数居住し、ヒト族もオークやゴブリン共との共存を受け入れているような者ばかりです。このような地方にオーク、ゴブリン追放令を発布しようものなら…」

ここで男爵は言葉を切り、胸に手をやり心配そうな様子で俯いた。

男爵は大根役者だな。

大袈裟過ぎて、逆に伝わらない。

しかし、エルフ諸侯には通じたらしい。

「恐ろしいことになるぞ!」

「ダークエルフ共も黙ってはいまい!」

「大戦だ!我らも再び立ち上がろうぞ!」

あーあ。

このエルフ諸侯共にはイライラさせられる。

俺は転生前、ファンタジーの世界にあこがれていたから、エルフにも幻想を抱いていた。

こちらの世界の歴史を学ぶうちに記録に残るエルフ達の発言や振る舞いに失望させられて、エルフが大嫌いになってしまったが、実際にエルフの都に来てみるとその美しさには感動させられた。

本当はエルフって俺が憧れたような素敵な種族かもって思いたかった。

なんだろう?

この残念な奴らは。

「ああ!そうです!まさに今そこの御方が仰られた通りなのです。オーク、ゴブリン追放令をあの忌まわしいヴァラキア地方に発布すれば、彼の地のオークやゴブリン共が黙ってはいないでしょう。あの悪夢のような大戦が再び起こりかねないのです!」

よく言うよ。

どう考えたってお前達がそうなるように進めているんだろう?

「もうすぐヴァラキア地方の自治政府への特使が出ます。特使が自治政府に着けば、即ち開戦となるでしょう。」

「それでもフィリップ王陛下は特使を出されるのですな?」

あの偉そうなビュグヴェルが口を挟んだ。

「さようでございます。我が王は例え王国が灰燼に帰すとも軍を興し悪を打ち滅ぼす覚悟でございます!」

会場がどよめく。

「そして、本日は戦争となった際にハイエルフの皆様にお味方いただきたく参上したのです。どうかハイエルフ諸侯の皆様、我らとともに立ち上がり邪悪な軍勢を挫きましょうぞ!」

男爵の一世一代の演説はこうして締めくくられた。

下位のエルフ諸侯が次々に叫ぶ。

「軍を集めよ!」

「こんどこそ奴らを殲滅するのだ!」

「我が公国は弓騎兵を中心に千五百の部隊をすぐに出せますぞ!」

「うちは二千だ!」

「我が国は南の国境に近い!砦の整備はできておる!」

「食料ならうちから前線の拠点に送らせよう!」

ほとんどが開戦に前向きな声だ。

恐らく事情を知らないような連中の国にも、何らかの理由で軍備を整えるよう事前に命令があったんだろうな。

ソニアの言う通りだ。

魔王の復活からここまで全て何者かの思惑通りなんだ。

果たしてその黒幕はアルベリッヒ上級王なのか?


会場があまりにヒートアップしてきたので、ビュグヴェルは静まるように言った。

それからは開戦に向けての話し合いが進められた。

大戦を避ける議論は一切ない。

ノーシンキングで開戦に決定だ。

思考の硬直って奴だろ?

エルフは賢いと思っていたのに…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ