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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第二章 逃避行編

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ドワーフ諸王(下)

ひとしきり乾杯をして杯の酒を飲み干すとヴィーラはそのまま杯を掲げて言った。

「では、ここから脱出するのも手助けいただくわけには行かなさそうですわね。」

既に二杯目の酒を飲んでいたグンナル七世王も一気に飲み干すと杯を掲げて言った。

「見つからぬ範囲、見つかっても言い抜けできる範囲なら、できるだけのことはしよう。しかし、その程度の手助けで逃げ出せる都ではなかろう?」

部屋の主のノームがその杯に酒を注ぐ。

続いて、ヴィーラの杯にも。

結構、強い酒なんだがな。

二人ともかなり強い。

「では、テルデサード王国の特使がヴァラキアへ侵攻を提案すれば、それにも加わるおつもりかしら?」

「誤解しないでくれないか?ヴィーラ殿。それにシンクレア卿にソニア殿下も。」

ロフト王が横から慌てて口を挟んだ。

三人のドワーフ王の中で一番若く、威厳においても他の二人に少し遅れをとっているようだ。

「我々は争いを望んではおらぬ。」

「さよう。我々は平和が続くことを願って居る。」

ビュール三世王が同調する。

「ソニア殿のお父君が築いた世界は素晴らしい。」

「我々ドワーフ族の諸国も先の大戦で大変な被害を被った。復興にどれだけの時間がかかるかと思ったが、今ではすでに大戦前より栄えておる。」

「そうだ。これまでの大戦では戦に勝っても、民達の生活が元に戻るまでは膨大な努力と時間がかかったと聞いている。」

「しかし、先の大戦では勝利はせずに講和した。ソニア殿のお父君のお考えになられたことだ。ソニア殿、我々はお父君が築かれた世界に感謝していることは覚えておいてくれ。」

ロフト王はソニアに念押しをした。

「先の大戦が終わってから、儂らはオークやゴブリンとも交易をするようになった。それまでゴブリン族など宿敵と定め、一族皆、強い憎しみをいだいておったからな、不思議な気持ちになったもんだ。」

ビュール三世王はイスに深く収まり、感慨深げだった。

「しかし、ゴブリン族との交易は実に有益であった!」

話し声のトーンが上がるとともにビュール三世王は立ち上がり、身振り手振りを交えて語り始めた。

「我々ドワーフ族に負けず劣らない品質で精錬された鉄!やや柔らかいながらも決して折れることのない剣!」

ビュール三世王はエミィの席の横まで歩み寄って、その方に手を置いた。

「いや、あれはあの柔らかさが肝だな!我々ドワーフ族がただひたすらに硬さを求めて精錬してきた鉄をゴブリン族はまた別の業で精錬して折れることのない剣を作っておったのだ!」

スリン王はおかしそうに頷く。

「我々はゴブリン族の鍛冶師から多くを学んだ。無論、我らが優れている技術があればそれをゴブリン族に教えた。実に素晴らしい交わりだ。交易は軌道に乗った。戦後復興で特にヒト族からの発注が増えたからな。さばききれない注文はゴブリン族から仕入れた品で賄った。戦後、領土問題が解決するまでは儂らの方が鉱山を多く持っておったからな、掘り出した鉱石はゴブリン族に売った。我らだけで精錬していたのでは追いつかなかったからな。」

「オーク族との交易にも助けられたよ。」

ロフト王も語り始めた。

「大戦で物資が足りなくなっておったからな。我々は畑をあまり持ってはおらん。食糧不足は深刻な問題だ。ヒト族の商人どもは強欲で恐ろしく高値売りつけようするからな。」

ヒト族の俺達には返す言葉がない。

「オーク族は粘り強く仕事熱心な人々だ。大戦で荒廃していたであろうが、彼はすぐに農地を復活させ、作物を多く収穫し、我らに売ってくれた。オーク族と交易をするようになってから我々の食糧問題は実に楽になったものだ。それに…」

「そうだ。」

ロフト王はまだ話の途中であったがグンナル七世王が引き取った。

やはりこの人が一番迫力がある。

こえー。

「ドワーフ族は宿敵と思っておったオークやゴブリンと今は交わりを持っておる。わずか半世紀にもならない交わりではあるが、我らドワーフ族は一度結んだ友誼を簡単には断ちはしない。」

グンナル七世王が言葉を切るとノームのスリン王が後を引き取った。

「とは言え、魔王が復活し、召喚者が召喚されたとなると話は別です。」

スリン王は穏やかな顔立ちの人だ。

話し方も淡々としていて、ドワーフの諸王のような威圧感もない。

しかし、冷徹な響きもある。

「この度、我々はハイエルフの上級王が御前会議で大切な話があるからと召集を受けました。内容は想像がつきますな?」

それはそうだ。

テルデサード王国からも特使が来るんだ。

魔王復活、召喚者到来、オーク、ゴブリン追放令の公布。

これを特使から言わせる。

後は、光の種族同盟の再結成とヴァラキアへの侵攻開始、即ち開戦だ。

これがアルベリッヒ上級王の筋書きだろう。

もちろんテルデサード王国のフィリップ王とは水面下で擦り合わせ済みだろう。

「ドワーフ族は侵略に加担すると言うのですか?」

「重ねて言うが、我らは戦いを望んではおらん。」

グンナル七世王の低い声が響く。

「では?」

ヴィーラも黙ってはいない。

「『古い同盟』のことは知っておりますな?」

スリン王が切り返した。

『古い同盟』。

この世界に生まれて歴史を勉強すれば、すぐにわかる。

第二次暗黒大戦が始まる少し前、この世界にオークやゴブリンが誕生し、エルフ族との間に諍いが起こり始めた頃に結ばれた同盟だ。

俺は転生する前も歴史が好きだったからスコットランド王国とフランス王国の間で結ばれた『古い同盟(Auld Alliance)』のことは知っていた。

だから、こちらの世界で歴史を学んでいて、同じような名前の同盟があることを知って驚いた。

全く、内容は違うが、この世界の『古い同盟』はエルフ族とドワーフ族の間で結ばれたオークやゴブリンとの争いが起きた際には、必ず、互いに助け合うという同盟だ。

確か…

『互いが危機にある時は必ず助けに参じ、共通の敵が現れれば共に軍を進めこれを屠る』

だったかな?

エルフ族とドワーフ族は仲が悪くて、必ず利害が一致するとは限らず、なんなら、エルフ族とドワーフ族の間で小競りしたことや片方がもう一方と敵対する勢力に加担したことすらあるが、オークやゴブリンは常に共通の敵だったから、魔王が旗揚げする度にこの同盟が復活して共に戦ってきたわけだ。

千年以上も続いてきた同盟だ。

確かに簡単には破棄できまい。

「先程、ロフトやビュールが申していた通り、ジャン王が志した世界は素晴らしい。我々もその恩恵に与かって今がある。とは言え、こうなってしまうと今まで通りというわけには行きません。」

「では、ドワーフ族の諸軍はアルフハイムとテルデサード王国の軍に加わって戦争すると仰るのですね?」

ヴィーラの詰問にはグンナル七世王が答えた。

「重ねて言うが我らとて戦は望んではおらぬ。しかし、先ずは我々の民の平和を優先せざるを得ないのだよ。」

自分達の民を守ってこその王様だ。

ライオスエルフ族とテルデサード王国が連合を組むとなると表立って対立することはできないだろう。

「とは言え、先程も言った通り、ほんのささやかなものとなろうが、できるだけの便宜は図ろう。」

最後にロフト王が約束した。

このロフト王『ほんのささやかな便宜』は思ったよりもすぐに、そして重要な助けとなった。

それは悲しいことでもあったが。

結局、ドワーフ諸王との謁見では、彼らからの援助は得られなかった。

別れ際に部屋の主のノームが何かをのせたお盆のようなものを持ってきた。

「どうぞ、皆様こちらをお持ち帰りください。」

俺は自分の分を取り上げた。

それは首飾りだった。

と言っても、男の俺がつけてもおかしくないようなものだ。

鉄製のメダルのようなものが鎖にかけられている。

女性に渡されたものは少し華奢なデザインで美しく編まれた紐がついていた。

メダルには複雑な模様が刻まれていて、そこにはいろいろな石が嵌め込まれていた。

「きれい!」

ソニアが声を上げた。

ヴィーラと見せ合って喜んでいる。

女の子なんだな。

ま、おっさんのンダギとブロウも嬉しそうに首からつるしていた。

彼らのはより重厚なデザインだ。

俺も首にかけた。

俺の首には既に守護者のアミュレットがつるされているからダブルだ。

守護者のアミュレットはローブの下に隠してあるが、こちらはローブの上につけようとしたら…

「この都にいる間は服の下につけておいて。」

ヴィーラが言った。

「彼らに迷惑はかけられないわ。」

なるほど、これを身に着けているところを見られたら、ドワーフ王達と何らかの交わりがあったとバレるかもしれないというわけだな。

俺も慌ててローブの下に隠している時、ふと横のエミィが気になった。

エミィは自分のメダルをえらく真剣に見つめていた。

そして俺は見た。

最後にエミィがメダルを服の下に隠す時、あいつの口元は間違いなく笑みを浮かべていた。

意味深な笑みだ。

すぐにいつもの何を考えているのかわからない表情に戻した。

エミィはゴブリン族だ。

自身は鍛冶師ではないが、ゴブリン族だけにこんな工芸品にも何らかの知識があるだろうから、俺よりも意味や価値がわかるに違いないんだが…

何だろうな?

あの笑みは。


アルンの仕事場から出る時、俺達はアルンの助言により騒がしくした。

「お前達は今まで儂の家で飲んで騒いでたんだ。酔っぱらったふりをしろよ。」

だと。

ヴィーラが朗らかに笑い声をあげて、ソニアにしなだれかかった。

ソニアも笑いながらよろめいて、俺の背中に張り付いた。

俺がビクッとすると。

「何よダンカン?顔が赤いわよ?」

当たり前だ。

酔っぱらいのふりと言うが、あの強い酒を俺も二杯は飲んでいる。

素面じゃないんだ。

「もしかして意識してる?これ?」

ソニアがまた抱きついてきた。

やめろ、馬鹿。

俺は飲んで…

これは飲んだからだな…

俺もよろめいてしまった。

ソニアのせいだ。

決して、女の子に抱きつかれて緊張したからじゃない。

「仕方のない奴だな。」

フレッドが俺の腕をつかんだ。

少し離れたところで曇り空共が白い目で見ている。

そして、その向こうには曇り空とは違う、赤い制服を着たエルフ達がいた。

なんでも宮廷内に詰める衛兵達の制服だそうだ。

ドワーフ諸王の護衛役だな。

無論、見張りの役割もあるだろう。

さっきまで俺達がいた、あのノーム爺さんの家から笑い声が聞こえてきた。

ドワーフ王達も酔っぱらいのふりをしているんだろう。

いや、相当飲んでたからな。

今頃、さすがに酔っているかもしれない。

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