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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第二章 逃避行編

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ドワーフの鍛冶師

「こいつはまた大変な代物だな!旦那?」

ンダギとブロウの『妙なギザギザがついた巨大な鉄板』としか形容のしようがない凶悪な剣を持ち上げてドワーフの鍛冶師アルンは感嘆するように言った。

「素晴らしい出来だ。しかし、ドワーフの業物ではないな。ゴブリンの鍛冶師が作ったのか?」

おやおや。

俺はまたこの剣の奇怪な形のことを『大変な』と言ったのかと思ったが、違うらしい。

ドワーフの鍛冶師の目を持ってみても名剣に見えるようだ。

美しい姿と素晴らしい切れ味を誇る日本刀の国から転生してきた俺には理解が追い付かない武器なんだけどな。

しかしアルンはこのエルフの都に居住を許された鍛冶師だ。

エルフが自分達の都に居住することを許してまで仕事をさせたいと思うような鍛冶師である以上、かなりの名工なはずだ。

そうか、そのアルンから見てもそうなんだ。

「惜しいな。ホブゴブリンの鍛冶師だ。」

ンダギが楽しそうに答えた。

「ホブゴブリンだと?ゴブリンには名工が多いと聞くが、ホブゴブリンの鍛冶師で名のある奴がいるとは知らなかったな。」

「いや、間違ってはないさ。」

エミィが話に入ってきた。

「俺達の中ではホブゴブリンの方が賢いし力も強いが、細工事に関して言えばゴブリンの方が上手いさ。」

「そうだろう?ゴブリン族の鍛冶師が作る武器や道具は良品が多いからな。」

「しかし、ホブゴブリンにも手先の器用な奴はたまにいてな。そんな奴に鍛冶師のような細工事をやらせるとゴブリン族より優れていたりするものさ。」

「ほう!それは初耳だ。あんた達どこから来たんだ?俺も一度ホブゴブリンの名工に会って話を聞いてみたい。」

「遠いぜ。カサベラだ。」


俺達はこの神々の宿木で行動の自由が許されているからな、ンダギとブロウが剣のメンテナンスをしたいと言ってアルンの鍛冶場に来たんだ。

ンダギ、ブロウ、エミィ、フレッド、俺の五人だ。

アルンも神々の宿木でオークの武器を預かるとは思ってなかっただろうから驚いていたな。

「よし、明日一日くれ。明後日の朝一番には刃こぼれは全てきれいにしておいてやるよ。後、柄も革を巻きなおしておこう。今日は珍しい話を聞けて良かったぜ。」


「ふん!いまいましい!」

上機嫌でアルンの鍛冶場を出てきたブロウが吐き捨てるように言った。

打って変わって苦虫を潰したような顔をしている。

「どうした?」

「あの曇り空の連中さ。」

曇り空?

ははっ!

うまいことを言うな。

遠巻きに俺達を見張っているアルベリッヒ上級王直属兵団の連中が着る淡いブルーグレーの服は確かに曇り空のような色だ。

オークやゴブリンに武装まで許すんだからアルベリッヒ上級王は本当に自由にさせてくれている。

だが、それは『曇り空』達がべったり俺達に張り付いているからなんだ。

どこへ行っても『曇り空』の連中が視界に入る。

確かにいまいましいな。

「まぁ、そう言うな。この都で自由にさせてもらっていること自体が奇跡みたいなものなんだぜ?」

フレッドの言うことに一理ある。

けどね?

「あからさまに俺達の視界に入ってくるからなぁ。」

「それも狙いの一つさ。『見張っているからな』というメッセージだ。」

「どうせ厳重に見張られているんだ。そんな脅しをかけるようなことしなくてもいいだろ?」

「どうかな?俺が見るところ意外とそれほどの人数をかけてはいないな。寧ろ、十分な人数を配置できていないから、目立つように張り付いているのかもしれないぜ。」

隠密にかけては誰にも負けないエミィ先生が仰るんだ。

その通りなのかもしれない。

まぁ、『曇り空』の連中はいまいましいが、今のところ神々の宿木での生活は快適だ。

俺達は城の一角を与えられている。

なかなかの待遇だ。

一人一部屋の寝室に、俺達だけで集まって使える小広間が一つ。

それもひとまとまりの区画でそこには当番の『曇り空』が付いている以外は俺達しか入れないことになっている。

もっとも、一人一部屋の寝室はこちらから断った。

何かあった時、一人でいたくないからな。

俺とフレッド、ンダギとブロウ、ノルデル伯とエミィ、ソニアとヴィーラで二人一部屋にしてもらった。

ベッドを『曇り空』達に運ばせたからな。

めっちゃ嫌な顔をされな。

初めはユキーナもソニアとヴィーラの部屋にって話してたんだが、彼女は『あたしは一人でいいわ。』と言い出した。

なんだろう?

恥ずかしい寝言を言ってしまうとかあるのかね?

場所はこの前、アルベリッヒ上級王に謁見した王の応接間の少し下の階層だ。

共有の小広間には専用のバルコニーまでついている。

しかし、逃げ出すことは不可能だ。

切り立った山の頂点に建っている城の中だ。

バルコニーから覗くとずっと下まで断崖絶壁だ。

まぁ、外に出るのに危険を冒す必要はない。

この通り、自由に出入りさせてもらっているからな。

都の外に出ようとすれば何を言われるかわからないが…

アルベリッヒ上級王もはっきりと明言していたからな。

『この都にいる限り』と。


「あれだな。俺達がバラバラで行動するから、『曇り空』共も手薄になるんだな。」

ンダギがまだ言っている。

そうだ。

ソニアはヴィーラと一緒に部屋で過ごしている。

あれ以来、ヴィーラの様子がおかしい。

情緒が安定していない。

ひとつにはヴァーナのことを思い出せたことが良くなかった。

カレイドが裏切っていたことも彼女を動揺させている。

カレイドはヴィーラと考えは違ってはいたが、それでもヴィーラに忠実に仕えてきた。

だからいつかはわかってくれる。

少なくともヴィーラはそう信じていた。

しかし、何百年も密かに裏切っていたのだ。

しばらくの間、ソニアに任せた方が良いだろう。

ノルデル伯は本来の社交的な性格を存分に発揮している。

連日、城内を回って、ライオス宮廷の廷臣達と積極的に付き合っているようだ。

ライオスエルフ達が認めているかどうかはともかく、一応ノルデル伯を名乗っている。

ライオスエルフ達はテルデサード王国の同盟相手だから政治的には彼らはケネス=シンクレアをノルデル伯としては認めてはいないだろう。

それでも敵陣営ではあっても貴人で重要人物であることには変わりないしな。

またエルフ貴族の名誉ある振る舞いとして無礼な態度はとらないようだ。

内心どう思っているかはともかく、ノルデル伯からのお誘いに応えて、共に酒を飲んだり、中庭を逍遥して語り合ったりしているようだ。

勿論、重要なことは何も話してはくれないだろうが、それでもそのような会話のどこかに重要な情報のヒントが隠されているかもしれない。

ユキーナも似たようなものだ。

元々、好奇心が強く、誰かれ構わず話しかけては色々と質問している。

ヴィーラの王国に滞在していた時にはあのカレイドにまで付きまとっていたくらいだ。

ライオス宮廷でも水を得た魚のようにいきいきとあちこちで話しかけては質問攻めにしている。

コミュ力モンスターみたいな奴だからな。

あのカレイドでさえ、ややうんざりしていたが、最後まで邪険にすることなく相手をしていたんだ。

礼儀正しいエルフ貴族の連中などいちころだろう。

できれば、自分の好奇心を満たして満足するだけでなく重要な情報を持ち帰ってくれるといいんだけどな。

まぁ、そんなわけで俺達は結構バラバラに過ごしていたから『曇り空』達も苦労はしているんだろう。


「あんた達、城の客人なんだろう?」

「そんな良いものに見えるか?」

フレッドが皮肉っぽく混ぜっ返す。

「ははっ!いいとこ囚人だな。囚人にしては自由過ぎるかな?」

ンダギとブロウの剣を取りに行った後も俺達は毎日のようにアルンの鍛冶場に顔を出して、話をするようになった。

城にある酒なんかも少しくらいなら持ち出しても何も言われないからお土産付きだ。

アルンもエルフの都で数少ないドワーフとして暮らしているから話し相手が欲しいらしく、多少忙しくても仕事をしながら相手をしてくれる。

「いや、明日なんだがな、俺達の王様が城に来るらしい。」

「ドワーフ王が?」

「そうだ。知っているか?俺達には三人の王様がいるんだぜ?」

「知ってる。」

俺が即答したからアルンは次に話そうと開きかけた口を閉じた。

ドワーフの三大王家。

昔は五大王家だったんだがな。

二つの王統がかつての大戦で死に絶えてしまっている。

この前、カランデールへの航海の途中で見たワッサーブルクの王家が一つ。

そしてアルフハイムの森を挟んで反対側、東の果てにある山脈に築かれたファイアーブルクの王家が二つ目。

そして、ワッサーブルクのすぐ南にあるのがアイセンブルク。

その王家が三大王家の筆頭とされる王家だ。

ドワーフ達は先祖をとても敬うからな。

この三大王家と滅んだ二つの王家を合わせた五大王家の歴代の王の名とその王に関する伝承や治績を諳んじていて、頼まれもしないのに語りたがる。

だから、食い気味に答えてやった。

カサベラの輝く角笛亭にはドワーフ客も多かったからな。

連中と飲んでいるうちに身に着けた対処法なんだ。

「まぁ、なんだその三人の王様が揃ってやってくるんだ。今朝、先触れの使者がやって来てな、宮廷からの帰りにうちに寄って行ったのだよ。」

アルンはこの都に居住する数少ないドワーフの一人だからな、そんな連中もよく寄って行くんだろう。

「なんでまた、三人そろってわざわざ来るんだ?」

ドワーフの王達が揃ってエルフの都を訪れるなんてただ事ではない。

まぁ、理由はわかるがね。

「それにヒト族の特使も来るって話だったぜ?あんた達何か知ってるんじゃないか?」

「どうかな?」

「よく言うよ。あんた達に関わることに違いないだろう?」

アルンはンダギ、ブロウ、エミィを一人ずつ見回した。

そりゃそうだよな。

本来、オークやゴブリンがエルフの都にいること自体がありえないことなんだ。

普通、そう思うだろう。

「どうだろうね?」

「まったく!何かあれば教えに来いよ!勿論、このうまい酒も忘れずにな!」


城に戻ると俺達が共有している広間にソニアとヴィーラがいた。

ヴィーラは相変わらず、落ち込んだ様子でソニアが傍らで付き添っている。

ソニアからはヴィーラに腫れ物に触るような態度はとらないよう言われている。

いつも通りに振る舞えと。

だから、こんなニュースを言わないわけにもいかない。

「やぁ!ソニア、ヴィーラ。ニュースだ。」

「どうしたの?」

面を上げたヴィーラの顔色は依然として悪い。

「なんでも、明日ドワーフの王達が来るそうだ。」

「ドワーフの王達が?」

「あぁ。三大王家の王様が勢揃いするそうだ。」

「ドワーフの三大王家が?」

やっぱりヴィーラの調子が悪いな。

なんだか話が理解できていないかのようにぼんやりしている。

何かに思いを巡らせているような…

『大丈夫か?』と声をかけたいところだったが、話を続けた…

「テルデサード王国の特使も来るそうだけどね。オーク、ゴブリン追放令の公布を知らせに来たんだろう。それでドワーフの王達も…」

「ダンカン!」

「おおぅ?」

「それを知らせてくれたのあなたのお友達?ドワーフ?」

「そう、そうだ。」

ヴィーラが今度は別の方におかしくなったように思えた。

急に興奮してきた。

ここ最近、何を話しかけても生返事だったのにな…

「ほら、前に話したンダギ達の武器をメンテナンスしてくれたドワーフの鍛冶師の話よ。」

ソニアがフォローを入れてくれる。

ソニアは笑顔だ。

大丈夫なの?

「ダンカン、その人に会わせて!すぐ!それでドワーフ王達に会う段取りをつけてほしいの!」

「ドワーフの王達に?」

「ええ、そうよ!すぐに!」

俺達はすぐに回れ右だ。

アルンの鍛冶場に逆戻りした。

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