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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第二章 逃避行編

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ヴァーナ(下)

「私の前に引き出されて、恐怖で震えるヴァーナを見た時、自分達がこれまでやってきたことの恐ろしさを改めて思い知らされたわ。彼女は小さな女の子。それも目の前で両親を殺され、乱暴な兵士に取り押さえられ、誰の助けも期待できない絶望しきった女の子よ。彼女を私が引き取ると言った時、カレイド達は猛反対したわ。でも、両親を殺された幼い女の子が一人で遠いヴァラキアまで帰れるわけないでしょう?そんなことはカレイド達には無関心だったのだけど、説得したわ。私の真剣さにカレイド達も折れてくれたわ。その頃から少しずつ私に同調してくれる部下もいたし、戦局も反転攻勢の真っ最中で些末なことで揉めたくなかったのね。」

そうだ。

第三次暗黒大戦の終末期は、息を吹き返し始めたヴァラキア軍を恐れ、エルフ軍も王国軍もドワーフ軍も電撃作戦を決行して、一気にヴァラキアに攻め込んだんだ。

「私はヴァーナをここへ連れてきたわ。私の軍はヴァラキアの勢力圏攻略にかなり酷使されていたから少し休息が与えられたの。その間に数人の側近と一時帰国が許されたのよ。ここはヴァーナの為に作った花園なのよ。」

俺は一年中、花が咲きこぼれているというこの広場を改めて見回した。

「大戦が終わると私はすぐにここに帰ってきたの。ヴァーナはなかなか心を開いてくれなかったわ。当然ね。彼女が花が好きだと知って、この広場を作ったの。それでも彼女はただ悲しそうに花を眺めていたわ。戦後は政務が溜まっていたから私も忙しかったの。ここにはあまり来れなかった。それでも少しでも時間があれば、ここでヴァーナと過ごしたわ。独りぼっちでは寂しいでしょ?彼女に森のリスやウサギ達を紹介したわ。彼女は動物達とすぐに友達になったの。でも私がヴァーナと友達になれるまでは時間が必要だったわ。」

そうか。

大戦が終わったと言うことはオークやゴブリンは殲滅され、生き残りは皆、各地に隠れ住んでしまった後だ。

ヴィーラがヴァーナを匿うしかないわけだ。

両親を殺したエルフの国で暮らさなきゃいけないのはかわいそうだが、それ以外に彼女が安全に暮らせる場所はなかったんだな。

俺は改めて、ジャン王の偉大さを想い、カサベラでの生活を想った。

尊いよな。

平和って。

「だからヴァーナが初めて私に話しかけてくれた時は嬉しかったわ。それから私達は少しずつお友達になったの。私が来れる時はずっと一緒だったわ。ここで花の世話をして、一緒にご飯を食べて、一緒に寝たわ。やっとヴァーナに笑顔が戻ったのよ。」

良い話じゃないか。

良い話なんだがな…

ここにあるのはヴァーナの墓なんだ。

と言うことは彼女は死んだんだ。

ヴァーナが既に故人であるのは不思議じゃない。

なんせ二世紀半ほど昔の話だ。

エルフでなければとっくに死んでるさ。

でも、ここでこんなに悲しそうに話をしているんだ。

この話の結末は決してハッピーエンドじゃない。

それくらいわかるさ。

正直、聞きたくない。

思わず、ソニアの顔を見たが、彼女は目を伏せて、首を横に振った。

わかったよ。

聞くよ。

「ヴァーナと私が親友となった後、彼女には同じくらいの年のお友達が必要だと思ったの。ここにはエルフしかいないわ。エルフの子供をヴァーナの友達にしようと考えたのよ。その頃にはヴァーナは私だけでなくここの侍女達にも慣れてきていたから大丈夫だと思ったのよ。友達候補の人選にも気を遣ったわ。私の考えに理解を示してくれる家臣も僅かにはいたから、そんなエルフ達の子から選んだの。その子達にも事前に直接会って、じっくりと話をしたわ。その上で大丈夫と思える子供を厳選したの。明るさを取り戻していたヴァーナはとても楽しみにしてたわ。初めてエルフの子達と会う日の朝、ヴァーナは焼き菓子を焼いたわ。お友達に配る為よ。私と一緒にね。一生懸命に作っていたわ。あんなに楽しそうなヴァーナ。忘れられないわ。」

やめてくれ。

これでバッドエンドなんて最悪じゃないか。

俺は耳を塞ぎたいと思った。

聞きたくなんかない。

でも、大切なことなんだ。

俺はヴィーラを促した。

「私がエルフの子供たちを連れてここに来た時、ヴァーナの姿はなかったわ。地面には彼女の焼いた焼き菓子が踏みにじられて散らばっていたわ。」

俺はヴィーラの顔を見て恐ろしくなった。

彼女の顔は悲しみから怒りに変わっていた。

「私がいない間に誰かが彼女を連れ出したの。」

「誰が?どこへ?」

「わからないわ。ヴァーナのことはごく一部の者しか知らなかったわ。秘密を知っている家臣の誰か、子供達の親の誰か、屋敷に使える者の誰か…疑うことも恐ろしいわ。皆、信頼してたの。連れて行かれたのは私達の都よ。私の父のもとへ連れて行かれたの。」

悲しみで青ざめていたヴィーラは今では怒りに震え、紅潮していた。

「父と父の家臣はあの子を、あの可愛い幼い子を処刑したわ。当時のアルフハイムではそれが決まり。私に送られてきたのは見るに堪えないような傷だらけの遺体よ。何をされたかはわからない。でも酷いことをされたのは間違いないわ。」

ソニアが目頭を押さえている。

ヴィーラから幾度も聞かされているのだろう。

「長々、ごめんね。話はもう終わりよ。後は簡単。私は父に反逆しようとしてカレイドに止められて、暫く幽閉されたわ。次の大戦の最中に開放されたの。戦局が悪化してライオスエルフの軍を率いる将が不足していたのよ。」

おいおい…

暫くだと?

それって一世紀半は幽閉されていたことになるぞ?

まぁ、エルフだからな。

「私は軍を率いることを承知したわ。戦争は嫌だった。オークもゴブリンも殺したくなかった。でも私が戦場に出なければもっと多くの戦争に関係のない人達が殺されるわ。自分の王国の兵団を率いて出陣したけど、今度も私は不必要な殺戮を自分の軍に禁じたわ。父も他のエルフの長老達もさぞかし苦々しく思ったことでしょうね。それでも結局、多くの罪もないオークやゴブリンが虐殺され、大戦が終わったわ。その後、荒れたアルフハイムの復興に功があって、私は元の地位に戻ったわ。上級王の王位継承者第一位、ライオスエルフの長老会議議長、宮廷の筆頭家臣、その他諸々、そんなのどうでも良かったのにね。そして、この前の大戦よ。ジャン王の登場。彼の偉業。彼は私が夢見たオークやゴブリンと平和に暮らせる世界を実現してくれたの。だから、彼を死に追いやった父を、ヴァーナを殺した父を決して許さないわ!」 

ヴィーラの怒りが俺にも伝わってきた。

彼女の深い悲しみ、そして平和への渇望も。

そして強い意思を。

「ちょっと、待て、ジャン王を殺したのはフィリップだろう?」

「直接、手を下したのはフィリップよ。でも彼をそそのかしたのは私の父よ。」

「本当か?」

「ソニアが言ってたでしょう?」

「?」

「今回の召喚者の出現は早すぎるわ。事前に魔王殿が復活すると知っていて、早くから準備していたのよ。そして召喚にはエルフの手助けも必要よ。ジャン王の死から魔王殿の復活、召喚者の召喚、これは全て一貫した計画に違いないわ。そして、そこに父が関わっていないとは思えないの。父は魔王殿を倒しながらオークやゴブリンを殲滅せずに保護したジャン王を好ましく思ってなかったわ。フィリップ王と結託したか、もしかしたらこの計画は父から持ちかけたのかもしれないのよ。魔王殿の復活にはかなり高度な魔法の知識が必要よ。私でもどうしたのかわからないわ。そう考えれば寧ろ父が主導したと考える方が自然ね。」

丁寧に説明してくれるが、ヴィーラは複雑な思いだろう。

何と言っても親子なんだからな。

「ヴィーラ、もしかして君は?」

「ええ、そうよ。私は機を見て反乱を起こすつもり。つもりだったわ。もっと、同志を増やして、状況を整えたかったの。でも魔王殿が復活し、召喚者が出現したわ。これに父が関わっているのが間違いない以上、待ってはいられないわ。でも、今、反乱を成功させるのは至難の業よ。」

そうか、ノルデル伯も時間をかけてクーデターを起こす予定だった。

ノルデル伯もヴィーラとは前々からの繋がっていたそうだから、或いは二人は連携して決起するつもりだったのかもしれない。

魔王の復活で全てがわやになってしまったんだな…


俺は改めてヴァーナと言うオークの少女の墓に目をやった。

こんな話を聞かされた後だと、正視するのも辛い。

「少し散歩しましょう。」

ヴィーラの気遣いだと思う。

「ヴァーナ、また来るわね。」

ヴィーラはヴァーナの墓に声をかけると木立の奥へと案内してくれた。

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