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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第二章 逃避行編

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33/50

カランデール

「すごい眺めだな。」

ブロウが感心したように呟く。

「あれはメルコル様が御自ら切り裂いたんじゃないか?」

ンダギも感銘を受けているようだ。

今、船はフィヨルドの奥へと向かっていた。

俺が転生する前の世界ではわざわざフィヨルドを見に行く為のフィヨルドクルーズがあったくらいだ。

確かに絶景だ。

ただ、カレドニアにもフィヨルドはある。

俺の生まれ育った土地もフィヨルド地形の谷間だ。

だから、俺は感動するよりも懐かしい気持ちになった。

もっともここのフィヨルドは俺がカレドニアで見慣れたフィヨルド地形よりも規模が大きい。

ところでフィヨルドと呼んでいるのは俺の心の中だけだ。

この世界では『神々の爪痕』などと呼ばれている。

第二次暗黒大戦で神々が地上に降り立ち、互いに争った際に土地の取り合いで大地を引っ張り合って引き千切られたり、切り裂かれた痕だとされている。

確か氷河のあとだよね?

こちらの世界でそんなこと言っても誰も相手にしてくれない。

実際、この世界ではそれが事実なのかもしれないしな。

少なくともこの世界の住人はそう信じている。


更に絶景が見えてきた。

谷間の斜面から突き出た山の鼻の上にある強大な城塞都市とその下の断崖から水が噴き出す大瀑布だ。

壮観だった。

ワッサーブルクと言うドワーフの王国だ。

ワッサーブルクって、水の都って意味らしい。

都市は一番大きい頂上部と少し下って小さな二段が続く三段からなる階段状でそれぞれの段は城壁に囲まれている。

谷の斜面側は尾根を深く穿ち、石の橋が架けられていた。

転生する前に俺の住んでいた日本にあった戦国時代の城で言えば段曲輪と堀切だな。

規模は全然違うが。

その都市の下には何層もの地下都市が存在し、地表に見えているのはまさに氷山の一角らしい。

そして、その地下都市から伸びる地下道は豊富な鉱脈に続き、一大鉱山だそうだ。


今の時代、ドワーフの王国と言えば全て、この王国のような鉱山を中心とした地下領土を主とする都市国家だ。

昔からそうだった訳ではない。

ドワーフはこの世に生れた時から優れた鉱夫であり、地下での生活を好む種族ではあったが、だからと言って地下だけで暮らしていたわけではない。

『芽吹きの時代』の終わり頃にはヒト族よりも広大な土地を治めていた。

その頃のドワーフの王都や村落は地上にあった。

しかし第二次暗黒大戦で甚大な被害を受け、多くのドワーフが地表から姿を消し、鉱山に籠ってしまった。

それでも『傲慢の時代』には地表に広大な領土を持つドワーフの王国がいくつかあった。

しかし、それらの王国も『傲慢の時代』ヒト族諸国の興亡に巻き込まれ、滅びてしまった。

地下王国に立て籠るようになった理由は、自分達の得意な地下であれば外敵に攻められても守り切る自信があったんだろう。

もっとも、敵対する種族の内、ゴブリン族はドワーフに負けない鉱夫であり、穴居民族なんだけどな。

ドワーフに言わせれば『俺達は地下世界に闇の勢力が蔓延らないように守っている地底の守護者なんだ』そうだ。

地表に領土を持たないから人間達の領土争いにも巻き込まれにくい。

ワッサーブルクもかつてのスカニア王国の領土内にあるわけだが、地表の占有面積などスカニアの国土のごく一部だから、戦争にならなかったようだ。

もっともスカニア人もドワーフ達の鉱山は喉から手が出るほど欲しかっただろうけどな。

スカニアを併合したテルデサード王国も同様にこのドワーフ王国の存在を受け入れている。


前方にカランデールが見えてきた。

前世でフィヨルドの奥地にある村の写真を見たことあるが、よく似ている。

まさにフィヨルド湾の一番奥にある港町だ。

出航したディエールのような大きな港町ではない。

スカニア沿岸にはもっと大きな港町がある。

ここは北に寄りすぎていて貿易港としては立地に恵まれているとは言えない。

スカニアと言えば毛皮、革、蜂蜜などが特産品らしいが、こんな北の外れではそんな特産品も多くは集まらないだろう。


確かこの町は北回廊同盟にも加盟していないはずだ。

北回廊同盟ってのは一種の通商同盟で北回廊海沿岸の主要な港町を傘下に収め北回廊海の交易を掌握している。

同盟の権力は強く、王や大貴族でさえ手が出せない存在だったが、大戦中に北回廊海の北岸にヴァラキア軍が迫った際に、非常事態を理由にジャン王がこの同盟を解散させたが、ジャン王の死後にフィリップが許可を出し、復活させてしまった。

その弊害はここでは関係ないから置いておくが、兎に角、カランデールはその同盟に加盟もしていない。

規模が小さすぎて同盟にも誘われなかったわけだ。


そんなカランデールが辛うじて貿易港として成り立つのには理由がある。

ワッサーブルクの存在だ。

ドワーフは職人としては一流の種族でその工芸品は高値で取引される。

それに彼らの製鉄技術も一流だ。

ワッサーブルクの製品はすぐ近くにあるカランデールから出荷される。

だから、カランデールのような寒村の港が貿易港として存続できるわけだ。

それに、ワッサーブルクもあれだけ地表の領土が少ないと食料は輸入に頼らざるを得ない。

見る限り石橋を渡った先に多少の畑や放牧地が見受けられたが、あの程度では食欲旺盛なドワーフ達の胃袋を満たせるとは思えない。

だから、彼らは食料の大半を付近のヒト族から買っている。

この辺りは寒村ばかりだから、カランデールに入港する船からも買っているはずだ。

そう言えば船長と話した時にカランデールで売る酒樽があるといっていたな。

ドワーフに売るんだろう。

これもカランデールが港町として成り立つ理由の一つだな。


因みにワッサーブルクの話の大半はヴィーラとソニアから聞いた。

それも主にはヴィーラから。

エルフとドワーフは仲が悪いことで有名だし、エルフの大半はドワーフを下品で強欲な者と見下していると聞くから意外だったが、ヴィーラはワッサーブルクについてもドワーフについても詳しかった。

どうもヴィーラは普通のエルフ達とは少し違うらしい。

ソニアともかなり親しいようだ。

思えばソニアとの接点はどこにあるんだろう?

ソニアは幼い頃にクロンドロイから逃げて、ヴァラキア地方で育った。

エルフが宿敵のオークやゴブリン達の土地、ヴァラキアに行くとは思えない。

今度聞いてみよう。


カランデールで下船すると俺達は買い物と食事を済ませて、すぐに町を出た。

この小さな港町で俺達のような集団が下りれば目立つ。

追手が来ればすぐに見つかるだろう。

少しでも早く逃げた方が良い。

ここまで船でたっぷり休養をとっているしな。

俺はフレッドと食料を買い込んだ。

この地域では厳しい冬季に備えた保存食がよく作られている。

干し肉や干し鱈…乾物だな。

旅の糧食にちょうどいい。

あまり売り物では出回らないから、直接、街の住人に交渉して売ってもらった。

それから大麦だ。

この世界の住人は何かというとタンパク質ばかり摂取しがちだ。

大麦は確か食物繊維やビタミンが豊富だ。

…前世の微かな記憶ではな。

思えば前世では栄養バランスなんて微塵も考えず、ひどい食生活だったからな。

そんな知識も曖昧なんだ。

あとは酒だ。

ヴィーラやソニアから道中、水を汲める場所が多いから飲み物には困らないと聞いていたが、俺達にとっては欠かせないんだよ。

酒は。

ただ、俺の大好きな大麦の蒸留酒は手に入らなかった。

蜂蜜酒はかなり豊富だった。

だから蜂蜜酒を買い込んだ。

スカニアは蜂蜜が有名だからな。

待ち合わせ場所の酒場で一足先にエールを流し込んでいるとンダギ、ブロウ、エミィが色々と荷物を抱えて入ってきた。

ブロウは鉈を手にしているのが恐ろしく物騒に見える。

ただでさえ人相が悪いんだ。

まわりの客もびびっている。

悪い奴ではないんだが、そういうところには気を遣わないからな。

暫く野外生活が続くらしいからな鉈は欠かせない。

その他にも旅に必要な道具類を買ってくれている。

ノルデル伯がユキーナと入ってきた。

最後はヴィーラとソニアだ。

二人は店に入る寸前まで人と話していたようだ。

扉が閉まる寸前に見えた相手の後ろ姿はドワーフのように見えた。

ドワーフの王国に近いし、交易船が着いたところだから街中では多くのドワーフの姿を見かけたが、二人はドワーフに何の用があったんだ?

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