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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第二章 逃避行編

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激闘

隣で凄まじい音がした。

金属と金属がぶつかりあう音だ。

ショウはヒカルの話を聞いていなかったろう。

激しい闘争が始まっていた。

怒り狂うショウの剣をブロウが弾き返していた。

すかさずンダギが身体ごと飛び込みあのバカでかい鉄板を叩き込む。

ショウの神器は大剣だ。

しかし、ショウはその大剣を軽々と片手で操り、これを受け止めた。

ンダギのあの突撃を片手で弾き返す奴は初めて見た。

それでもンダギ、ブロウはよくやっている。

俺はショウの神器なら二人のあの『奇妙なギザギザのついた巨大な鉄板』としか形容しようがない剣もスパッと切ってしまうのではないかと心配していたが、しっかりと受け止めている。

もしかしたらとんでもない名剣なのかもしれない。

そしてショウの怒涛の攻撃を退け、隙を見れば切り込んでいる。

「なんだよ!こいつら!」

ショウの怒りの叫び声を上げる。

こちらの世界に来てから二人のような手練れに出会ったことがないのだろう。

思い通りに行かずイラついている。

対照的にンダギ、ブロウは冷静に連携して攻守に隙がない。


負けてられない。

俺もやってやるさ。

俺は炎の玉を放った。

ヒカルは水の壁で対抗してきた。

マジか。

俺は驚かされた。

水の壁は地味だが消耗の激しい術だ。

あんな術をサクッとやってのけるんだ。

流石は召喚者。

だが、俺にとっては好都合だ。

俺が驚かされたのは術をあっさり発動させたことより、こんな魔法で対抗してきたことだ。


炎の玉は水の壁にぶつかり大量の湯気をたてて消えてしまった。

そこに俺は稲妻の術をかけた。

稲妻は水と大気の精霊を使役する術だ。

稲妻は雷雲から発生する。

こんな湯気が立ち込めるところでは、素早く、容易く、強力な稲妻の術が起こせるわけだ。

ま、雲の中みたいなものだからな。

魔法の教本なんかには載ってない裏技みたいなもんだ。

さっきの稲妻とはわけが違うぜ。

湯気の中で激しい稲光がした。

轟音が轟く。

そして悲鳴が…


魔法は発動している間、集中していないと効果が解かれてしまうものと一度発動してしまえば、集中していなくても効果の続くものがある。

後者の欠点は一度発動してしまうと術の使い手にもコントロールできなくなることだが、戦闘においては発動後すぐに次の魔法にとりかかれるという利点がある。

炎の玉は発動してしまうとその後のコントロールはできない。

標的がよけてもコースを変えることもできない。

初めに設定した目標にまっすぐ進んで爆発する。

水の壁は発動した後、集中している間は魔力が枯渇しない限り持続する。

炎の玉に水の壁で対抗することは間違いとは限らないが、相手が次の魔法にとりかかれるのに自分は炎の玉が消えるまで次の魔法が使えない。

即ち、次の攻撃に対処できないわけだ。

別に俺が賢いわけじゃない。

こんなの傭兵をしていれば、すぐに覚える戦闘のイロハだ。


俺はこの世界に赤ん坊として転生し、この歳まで様々な経験をしてきた。

こちらの世界の生き方を熟知している。

そして決して安全とは言えないこの世界で傭兵としていくつもの依頼をこなしていく中でこんな戦闘の術も身につけている。

召喚されたばかりで何の経験も知識もない奴には力で劣っても勝負では負けはしない。


悲鳴が続く。

俺の後ろから容赦ない連射で矢が撃ち込まれた。

ユウの時と同じだな。

フレッドはここぞという時はとことんえげつないことをする。

さっきまで手出しするなと言われて遠巻きに見ていた衛兵達に矢の雨を降らせていたのにな。

それでもこいつら召喚者は死なない。

湯気の中で悲鳴が止むと同時に俺は空気の障壁を作った。

空気の刃を撃ってくるかは賭けだったが。

対魔法の欠点だ。

相手のどの魔法をかけてくるかわからない以上、毎回賭けに出るしかないんだ。

果たして、俺はすぐに空気の壁の術を解くことになった。

湯気の中から現れたのは巨大な石の塊だった。

恐らく崩壊した城の一部だ。

それが空中に浮いている。

ありえない。

転生前の世界で言えばテレキネシスみたいなのはこちらの世界の魔法には存在しない。

少なくとも俺は知らない。

しかし、現に目の前で巨大な石の塊が宙に浮いている。

引力の魔法か。

俺がユウにやったように相手に強い重力を付加する術や重いものを軽々と上げられる術なら存在するが、物を、しかもこんな巨大なものを浮遊させるような術は聞いたことがない。

凄まじい魔力だ。

確かに桁外れの魔力があれば、理論上できなくはないな。

宙に浮いた石の塊が次にどうなるかは考えるまでもない。

「フレッド!」

俺は慌ててダイブしながら叫んだ。

石の塊が次々と俺達のいたところへ叩きつけられる。

予想通りだ。

前にも言ったが土の精霊は頑固と言われていて、彼らを使役する魔法の大半は一度発動してしまえば効果は持続するが、変更することはできない。

よけてしまえば、追ってこないだろうと思った。

まだ気は抜けない。

この魔法を使ったってことは発動後すぐに次の術に取り掛かっているはずだ。

俺はもう一度、空気の障壁を作った。

ようやく湯気が消えてきて、数本の矢がささり、黒こげのローブを着たボロボロのヒカルが見えてきた。

奴はあの指揮者のタクトのような小さな杖をほこりを払うように振ったところだ。

飛び出してきたのは炎の玉だった。

俺は賭けに敗れた。

空気の障壁は炎の玉にはほぼ無力だ。

少し、勢いをそいで速度は落ちるが、圧縮した空気に含まれる高濃度の酸素を火の精霊が食らうんだろう、でかくなる。

要は逆効果だ。

俺のよりひとまわり大きい炎の玉が迫ってきた。


死んだ!

俺は確信した。

が、なんともなかった。

胸の辺りに何か熱いものが当たっている。

ローブの中に着けている守護者のアミュレットだ。

そうだ。

少し前からアミュレットが少しずつ熱を持ち始めていることには気づいていた。

思えば、最初に長靴の先っぽを焼かれた時、空気の障壁で刃を防いだ時、少しずつアミュレットが熱くなっていった。

俺は避けたり、防いだと思っていたが、そうではなかったんだ。

アミュレットの加護によりダメージを受けなかったわけだ。

今回もローブは煤だらけになったが生きている。

体中が痛くて少しキツイが、火傷はないようだ。

アミュレットの熱さが耐え難くなるまでは、加護を受けていられるのだろう。

ということはアミュレットの加護もあと一、二回ってとこだろう。

それに、そろそろ俺の魔力が限界に近い。

てか、ここまで魔法を使いまくったのに倒れていないのが不思議だ。

ここ最近の一連の経験が鍛錬になったらしい。

魔力は鍛錬することで増加するからな。

俺も成長してたってわけさ。

さて、あとどれだけ魔法が使えることやら…

やはり、召喚者を相手にするのは無謀だったか。

忌々しいがこいつらは強い!


隣では疲れ始めたンダギ、ブロウがショウに押し込まれている。

ブロウは左の上腕部に傷を負っている。

ンダギも口の周りに血の跡がある。

腹に強烈な打撲でもくらったのか?


万事休すか…


俺は塔の方を振り返った。

このまま俺達がやられれば次はソニアとノルデル伯だ。

二人だけでも逃げてくれればな。


塔の上に人影が見えた。

夜とは言え、月も出てるからな。

夜空に真っ黒にそそり立つ城壁の影が見える。

その上に立つ人影は女のように見える。

ソニアかと思ったが違った。

その人影が手を挙げた。

その先に光の塊が現れる。

魔力の発光だ。

この世界に光を扱う魔法は存在しない。

これまで多くの魔法使い達が光を扱う魔法を編み出そうと研究を重ねてきたが、ついぞ実現しなかった。

但し、魔力には圧縮して体外に出すと微かに発光する性質がある。

これまで衛兵達の松明の明かりを頼りに戦闘をしてきたんだ。

俺達の目はかなり暗闇に慣れている。

だからその微かな光でも十分に塔の上に立つ女の顔が見えた。

エルフだ。

数えるほどしかエルフを見たことはないが、見間違えようがない。

完璧なまでに整った冷たく美しい顔。

先のとがった長い耳。

そして凄まじい魔力。

彼女を照らす光の塊の大きさからしてかなりの魔力に違いない。

エルフ族はテルデサード王国の同盟者だ。

そのエルフが現れたんだ。

追手の一員に違いない。

召喚者にエルフの魔法使いだ。

敵いっこない。

これは詰んだな。

年貢の納め時…

死ぬ前にこんな古臭い言葉が浮かぶんだな。

俺はこの時、本当に死を覚悟した。


光の塊は細長い円錐形に変形し、すごいスピードで飛んできた。

それも連射だ。

妖精の矢だ。

大量の魔力と卓越した魔法の技術が必要だからエルフ族でないと使えない魔法とされている。

伝説の魔法だ。

聞いたことはある。

見たことはない。

生涯でこんな魔法を目の当たりにすることなど想像もしていたなかった。

これはさすがに守護者のアミュレットでもヤバいだろ。

俺は観念した…


が、魔法の矢が貫いたのはヒカルだった。

続いてショウの悲鳴がした…

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