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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第二章 逃避行編

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28/50

前王の秘密

このお話から新章突入です!

是非お楽しみください!

その古城は森の中にあった。

森の中でわかりにくかったが、近づくにつれ登り坂となっていたから、丘の上に建っているのだろう。

雨が降っていた。

地面はぬかるみ、木の根がところどころ飛び出していたから歩きにくい。

馬車は少し離れた場所に停めてある。

引き馬達も俺の愛馬も木に繋いでおいた。

この城跡に立ち寄る理由はわからない。

ノルデル伯からは『重要な用事』としか聞かされていない。

やがて樹間に城壁が見え始めた。

古城は森に埋もれるようにあった。

周囲は木で囲まれ、城内にも木がはびこっているようだ。

もし空から見れば森の中に城壁や城館の廃墟が生えているように見えるだろう。

城壁沿いに進み、城門を見つけた。

城壁沿いの他の塔はかなり崩壊しているようだったがバービカンは比較的原形をとどめている。

バービカンてのは城門辺りの防御施設だ。

転生前の世界、日本の城で言えば馬出や枡形虎口がちょっと近いかもしれない。

城門前はかつての石畳が残り、木が少ない。

城門から続く道も石畳だ。

ちらほら崩れている箇所はあるようだが、俺達が歩いてきた道のない森の中より、こちらを歩いてきた方が楽だったろうに、どうしてノルデル伯は別の方角からこの城へ向かってきたのだろう?

「暫く見ない間に荒れ方が酷くなったものだ。」

ノルデル伯は独り言を言うと促した。

「さぁ、城に入ろう。」

城内にも森ほどではないにしても木々が生えていたが、多少は歩きやすかった。

ノルデル伯は城門を抜けると向かい側の城壁沿いに建つ城館の廃墟へ向かった。

「この城が使われていた頃、あちらには厩舎があったそうだ。」

右手の城壁の方を指さし、ノルデル伯が説明してくれた。

「あの辺りに井戸がありその向こうには鍛冶場があったそうだ。反対側のあちらには兵営があった。私も廃城になる前の姿は見たことはないのだがね。」


ここはノルデル伯の本来の領地、ノルデル領内だ。

先代ノルデル伯アルヴァン公の時代には既にこの城は廃城だったそうだ。

ノルデル領は復興の時代まではテルデサード王国の領土ではなく、北回廊海の対岸にある別の王国の飛び地領だった。

それが統一の時代に王国に併合されてしまった。

その際に廃城にされたかつての領主の居城がこの城だそうだ。

アルヴァン公やケネス公のシンクレア家は統一の時代にこの地をテルデサード王国が強引に併合した際に派遣された新領主だったから、領民を懐柔する為、この城には入らなかったが、破城もしなかったそうだ。

それ以来、代々のシンクレア卿は使用はしないが崩壊しない程度に補修はしていたらしい。

だから、アルヴァン公の時代まではここまで酷くはなかったそうだが、前の大戦で一時ヴァラキア軍に接収され、それを奪還すべく王国軍が攻めたことで廃墟化が進んだそうだ。

そして、アルヴァン公が暗殺された後にこの地に派遣された領主はシンクレア家のようにこの城を重んじはしなかった。

つまり放置されたわけだ。

十四年も放置されれば荒れ果てるわけだ。


しかしだ。

何故にこの古城に来なければならないんだ?

俺達は逃亡中だ。

少しでも早く王都から離れ、テルデサード王国の国外に出たいのだが…


ノルデル伯は足早に城館へと進む。

かなり急いでいるようだ。

まぁ追われている身だからな。

それでも立ち寄ろうと言うんだ、よほど重要な用事なんだろう。


城館は荒れてはいたが、往時の姿を思い浮かべられる程度には残っていた。

立派な正面玄関から中に入ると天井はなく、二階へ上がる階段も崩れていた。

右手にはかつては立派な扉があったであろう大きな入り口の向こうに大広間が見えた。

もう日没前だ。

天井が抜けてるとは言え建物の中にいると薄暗くてよくは見えない。

最近、この時間帯にばかり激しい戦闘をしているから、不安な気持ちになる。

ンダギ、ブロウを見ると剣を手にしていた。

俺と同じ気持ちなんだろう。

まぁ、この二人がいれば頼もしい。

ノルデル伯は大広間とは反対側へ向かった。

城館は城壁に沿って建てられているのだが、城塔の一つにも接している。

城館の奥、城壁側の壁の一角が凹んでいるのは塔の部分だ。

床面は崩れ落ちた石材で埋まり、壁には窓がありその両側に石のベンチがある。

昔、この城が使われていた頃は、城主夫婦がここで向かい合って座り、景色を眺めていたんだろう。

ノルデル伯はその石材を取り除き始めた。

慌てて、俺も手伝った。

何と言っても貴族様が力仕事しているのに平民の俺がぼんやり眺めているわけにもいかないからな。

ンダギ、ブロウ、フレッドも手伝ってくれた。

それほど大きい石材もなく、すぐに床面が現れた。

そこには地下に下りる階段があった。

「この石材は陛下と兄、そして私で敢えてここに置いたのだ。この秘密の階段を隠すためにな。この階段はかつての城主がいざという時に逃げ出すための秘密の抜け道への入り口だったのだ。当時は木の板で覆って、その上に絨毯でも敷いて隠していたんだろうな。」

ノルデル伯が説明してくれた。

ノルデル伯が陛下と呼ぶのは前王ジャン王陛下のことだ。

兄とはアルヴァン公のことか。

そんな偉い人達がこんな廃墟に来て何をしてたんだ?

「この下に何があるのですか?伯?」

「大切なものだ。奴らより先に手に入れなくてはならない。」

「大切なもの?」

「うむ。すぐにわかる。すまないがランタンに火をつけてくれないか?」

また俺は歩く便利なマッチになっちまった。

でも、どこかの誰かさんと違ってノルデル伯にこんな丁寧に頼まれれば嫌な気持ちにはならないさ。

俺がささやかな魔法でランタンを灯すと階段の先の小さな地下室が見えた。

「この先は狭い。ソニア、ダンカン二人だけ来てくれ。後の皆は見張りを頼む。」

何故、俺が指名されたかはわからないが、ノルデル伯の後ろに続いて階段を下りた。


狭い地下室に入るとノルデル伯が壁の一面を指した。

「こちら側だけ使われている石が違うだろう?かつての抜け道を塞いだ跡だ。」

確かにその一面だけ綺麗に形を整えられた石でしっかりと積まれている。

それにしてもクロンドロイでソニアが王宮に潜入した道も南門からノルデル伯の隠れ家まで使ったのも王族がいざという時に逃げる為の秘密の抜け道だったそうだ。

王族や領主ともなるとそんなものを造る必要があるのか。

偉い人と言うのも大変らしいな。

実際、ソニアはその抜け道のおかげで生きのびたわけだしな。


問題は地下室の真ん中に置かれた木箱だ。

地下室には他に何もない。

目的はこれだな。

ノルデル伯が鍵を取り出した。

木箱には鍵が取り付けられている。

鉄の補強が念入りに施されたかなり丈夫そうな木箱だ。

鍵がなければ簡単には開けられないだろう。

ノルデル伯が解錠して木箱の蓋を重たそうに持ち上げる。

ソニアと俺も手伝った。

木箱の中にはさらに小さな箱があった。

その箱も開けるとそこには首飾りが入っていた。

赤い四角い石を金属で縁取りしたものに無骨な鎖がついている。

なんだかバンド系の人なんかがつけそうなやつだ。

赤い石はなかなかの大きさだ。

これがルビーだったら、かなりの価値だろう。

ノルデル伯はもしかして金策の為にここへ来たのか?

「これは守護者のアミュレットだ。」

「守護者のアミュレット?」

俺は思わず興味本位で首飾りに触れた。

ノルデル伯が微笑した。

ヤバい、怒られるかと思った。

「さすがだな。」

何がさすがなんだ?

「前の大戦で魔王殿を封印した後、陛下がこれをここに持ってきて隠されたのだ。」

「魔王封印の後?」

「そうだ。前回の召喚者達は魔王を封印することで強制的に送還され、後には神器だけが残された。これは代々の召喚者に与えられる神器の一つだ。陛下としては全ての神器を処分したかったのだが、さすがにそれは誰も許しはしないと諦められた。しかし、陛下は神器の中でもあまり人に知られていない、それでいて召喚者に持たせると一番厄介なこの神器を密かに隠されたのだ。」

「どうしてそのようなことを?神器は王国の秘宝ではないのですか?」

「陛下は魔王殿を封印することでもう召喚者は現れないようにはしたが、心配であったのだろう。神器は通常の人間には扱えないが、取り扱える者が現れれば恐ろしいことになる。」

「神器は召喚者にしか扱えないのでは?」

「別の世界から来たものでなければ神器に触れる事さえできない。ソニア、この守護者のアミュレットに触れてはならないからな。触っただけで身を焼かれてしまうぞ。」

俺に続いて興味本位でアミュレットを触れようと伸ばしかけていたソニアの腕がびくっとなって、そそくさと引き下げられた。

少し、ウケた。

しかし、物騒な代物だな。

ちょっと待て、俺触ったぞ?

「別の世界から来たものでなければ触れることさえできないと言ったな?つまり、転生者には扱うことができるということだ。ダンカン、そなたが触っても何も起こらないのはその為だ。それだけではない。そなたであれば守護者のアミュレットを使うこともできる。」

「私が?」

「そうだ。ここに来たのは奴らがこれを取りに来る前に我々が押さえてしまうのが目的だ。」

「と言うと、やがてはここに召喚者達が来るのですか?」

「間違いないだろう。他の神器は皆、王宮に保管されていたから召喚者達の手に渡ってしまった。フィリップはこのアミュレットのことは知っているが、隠し場所は知らないはずだ。しかし、ある程度、察しはつくはずだ。陛下が隠すとしたら兄が手伝うことは奴にも想像できよう。ノルデル領のどこかとは思っているだろう。」

なるほどね。

「他の神器は全て武具だ。しかしこれだけが防御の神器なのだ。転生者は簡単には死なないが不死ではない。この神器による加護は欲しいだろう。」

アミュレットてのは要はお守りだからな。

守護者、即ち王国を守る召喚者の為のお守りって訳だ。

「ダンカン、君がいてくれて助かった。私達にはこれを持ち出すこともできなかっただろうからな。」

神器は召喚者だけでなく転生者の俺でも持ち出せるわけか。

なるほど、俺が地下室に連れてこられたわけだ。

ちょっと待ってくれ…

その話、どこかおかしくないか?

転生者の俺がいるから持ち出せる。

持ってきたのは前王ジャン王陛下と言ったな?

「伯、もしかして…」

「そうだ。陛下は転生者だ。これを知っているのはごく一部の者だけだ。」

ノルデル伯はとんでもない事実をさらりと言ってのけた。

口止めすらしてこない。

当たり前だ。

こんなこと人に言えない。

もしかしたらフィリップの反逆もそれが原因か。

この世界での転生者の扱いを考えればな。

しばらくぶりだな。

転生者なんて負け組なんだ。

ハッとしてソニアの顔を見た。

それから後悔した。

こんな時は気づかないふりをしてこっそり様子を見るんだ。

俺にはそれができない。

慌てて目線を逸らそうとしたが、ソニアはすぐに俺の目線に気づいてしまった。

ソニアがこちらを見返した時にはいつもの凛とした表情だった。

でも、一瞬俺は見てしまった。

ソニアにとっても衝撃の事実だったようだ。


俺はノルデル伯に指示された通り、守護者のアミュレットを身に着けた。

見た目はゴツい鎖だが、さすが神器、不思議と着け心地は悪くない。

俺は首飾りをローブの内側にやった。

何かの拍子に誰かに触れてしまうといけないからな。

「そなたは今、この世で最も強力な魔法の庇護を受けているのだ。全てが終わるまでそれはそなたに預けておこう。」

『全てが終わるまで』か。

それはソニアをヴァラキアのブラドまで送り届けるまでと言うことか?

それとも…

新章から新たにノルデル伯も仲間に加わって旅に出ました。

早速、衝撃の事実が明かされましたね。

次回、急展開します。

引き続きよろしくお願いいたします。


もしお楽しみいただけましたらブックマークや評価いただけると幸いです。

私も気持ちが上がり、今後の執筆の励みになります。

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