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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第一章 王都への旅編

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24/50

惨劇(上)

俺達はノルデル伯の隠れ家に戻った。

革工房のオークは不在だったが工房の職人達は俺達を無視して黙々と作業をしていたから俺達も黙って隠し通路へ入って行った。

中継地点の家も無人だった。

そりゃ一般人を装って暮らしているんだ。

外出だってあるだろう。

だから結局俺達二人は誰とも会うことなく隠れ家に帰ってきた。


ノルデル伯とその部下達、俺の仲間達は例の会議室で待っていた。

ノルデル伯はソニアが無事で安心したようだ。

「よく戻ってきてくれた。疲れただろう。食事の用意をさせている。話が済んだら皆で夕食にしよう。」

そう言ってノルデル伯が扉を開くと奥の部屋では夫人と数人の男達が食事の準備をしていた。

うまそうな匂いが漂ってきた。

夫人は俺達を見てニッコリ微笑んだ。

あの小さな男の子は夫人のスカートにつかまりながら手を振ってくれた。

ノルデル伯は結果を聞くよりもソニアを落ち着かせようと考えているみたいだ。

ありがたい。

彼女には今そんなのが必要だ。

ソニアも笑顔で手を振った。

向こうの部屋にはもう一人、えらく身なりのいい男がいた。

その男は食事の準備には参加せず、椅子の一つに腰かけていた。

俺達に気付くと立ち上がり、優雅に丁重に礼をした。

映画なんかで見る貴族が王様とかにやるやつだ。

ソニアに向けてだろう。

「バーゼル卿だ。宮廷の中にいる協力者の一人だ。後で紹介しよう。」

ノルデル伯そう言って、後ろ手に扉を閉めると俺達は会議室の椅子に腰かけた。

ソニアが事の顛末を話した。

さっきより整理されている。

わかりやすい。

さっきのように感情的になることもなかった。

皆はソニアの気持ちはわかっているだろう。

それでも誰も何も言わなかった。

皆、最後まで静かに話を聞いた。

話しが終わるとノルデル伯が軽くため息をつくと立ち上がりソニアの傍らに歩いてきた。

ソニアが立ち上がると静かにしっかりと抱きしめた。

ノルデル伯の胸に押し付けたソニアの顔を涙がつたった。

しかし声は出さなかった。

ノルデル伯はソニアの頭を優しく撫でた。

「さあ。疲れただろうソニア。食事にしよう。」


ノルデル伯が扉を開いた。

その向こうは…

地獄だった。


用意されていた晩餐は荒らされ、そこら中にぶちまけられていた。

そして床にぶちまけられた食事の上には死体が転がっていた。

皆殺されている。

血まみれだ。

部屋の中で唯一生きている男が一番奥のテーブルの上に腰かけてニヤニヤと笑いかけてきた。

「やあ!」

男は何事もなかったように、陽気に挨拶してきた。

男の横には生首が置かれている。


男は…

召喚者だった。

間違いない。

明らかに日本人だ。

やや小柄。

身軽そうな服装で裾の短いマントを羽織り、マントについたフードを被っていた。

「お話は済んだかい?待ちくたびれよ!」


俺達の話はそんなに長かった筈はない。

ソニアが落ち着いてわかりやすく整理して話してくれたんだ。

ほんの数分だ。

会議室では皆静かにソニアの話を聞いていたから、隣室でこんな殺人が行われていれば物音がしそうなものだが、何も聞こえなかった。

食事を用意していた男達はノルデル伯の部下。

腰に剣を吊るしているし、それなりの腕のはずだ。

しかし、死体は誰一人剣を抜いていない。

これだけの人数を一瞬で殺害できるのか?


「お!?君、転生者かい?もしかしてショウとヒカルの言ってた転生者君だったりする?」

俺はそれに返事をする余裕なんてなかった。

ショックに耐えるのに心はいっぱいだ。

状況を理解するのに頭もいっぱいだ。

「ちょっと刺激が強すぎたかな?」

男は俺達を嘲笑するように笑顔で話しかけてきた。

それが引き金となった。

一度に皆が反応した。

ノルデル伯の部下達が一斉に剣を抜いた。

ノルデル伯は妻子の死体に近寄って跪いた。

「アン、コリン…」

妻と息子の名前だ。

「お前は!」

叫んだのはンダギだ。

ブロウはうなり声をあげた。

「ンダガを殺したのはこいつだ。」

エミィが耳打ちしてきた。


少し話は戻るがンダガが死んだ盗賊討伐の時だ。

ンダギ、ンダガ、ブロウが戦った奴らの中に一人ずば抜けた手練れがいて、ンダガはそいつに討ち取られたと聞いている。

そして、その手練れだけが逃げてしまったらしい。

ンダギに言わせれば

「そこらの奴にンダガが負けるわけない。」

から、よほどの手練れだとは思っていたが…

どうしてそんな奴がここにいるんだ?


「あれ?どこかで会ったかな?」

男はテーブルから降りると腕を組んで首を傾げた。

ノルデル伯の部下の一人が切りかかってきたのをさらっとよける。

「俺が盗賊団に混ざって遊んでた時の奴かい?」

「盗賊団に混ざって遊んでただと?」

「そうさ。人を呼ぶだけ呼んでおいて王様はしばらく大人しくしてろって言うだろ?折角アニメみたいにゲームの世界に来たんだぜ?さっさと遊びたくてね。俺は向こうでもゲームとかでPKとかやってたからさ、誰でもいいから殺してみたかったんだよね。」

ショウやヒカルもそうだが、こいつも頭がどうかしているのか?

ここはゲームの世界なんかじゃない。

ここはリアルの世界だ。

この世界に生きる人達はNPCやモンスターじゃない。

人間だ。

「王様にはこの世界のことが知りたいから少し旅に出たいと言って、外に出してもらったのさ。王様も神器を与える前だから無理をしないと思ったんだろう。許可が貰えてね。」

神器?

そう言えば、代々の召喚者には特別な装備が与えられると聞いている。

神器ってのはそのことか。

「まぁ、聞くところ俺達召喚者はこちらじゃ無敵の強さらしいから、武器なんて普通の剣で十分だったんだけどね。それで、適当にぶらついてて見つけた狂暴そうな奴らと手を組んでさ、装備なんかも揃えてやったんだよ。盗賊団を始めたのさ。いっぱい殺せて楽しかったよ。」

確かにこいつはさっきからノルデル伯の部下達の攻撃を余裕でかわし、それでいて何事もないかのように会話を楽しんでいる。

それにしても楽しいだと?

お前のいた盗賊団が何人殺したかわかっているのか?

「でもヒカルとショウは人間を殺してもポイントにカウントしないとか言い出してね?俺もオークはまだ一体しか殺してないから同点だろって言うんだよね。」

この男は会話しながらも手にしたナイフを軽く投げる。

その度にノルデル伯の部下がひとり倒れる。

そして男の手にはいつの間にかナイフが戻っている。

ソニアが叫んだ。

「気をつけて!即効性の毒よ!ちょっと傷つけられただけでも即死するわ!」

俺は一番手前で倒れている男を見た。

確かにわずかな切り傷があるだけだ。

しかし、顔色が恐ろしく悪い。

毒によるものか。

ソニアの声を聴いて、やみくもに切りかかっていたノルデル伯の部下達も距離をとって剣を構えた。

「その方が賢いね。俺も話がしやすいしね!」

ナイフの刃先を指でなぞりながら男は上機嫌で話し始めた。

触っても毒は大丈夫なのか?

離れているからはっきりとは言えないが刃に何かが塗布されているようには見えない。

「王様から反逆者が王都のどこかにいるから探し出して始末してきてくれって言われたんだよね。で、この前、ヒカルとショウがオーク、ゴブリン追放令の事を公衆の面前で話しちまっただろう?あれは宮廷のごく一部、王様とその側近数名、そして俺達しか知らいない話だったんだ。そしたら翌日、早速宮廷で探りを入れてきた奴がいる。そう!こいつさ!」

男が足を高く上げるとテーブルの上に置いてあった生首を蹴とばした。

すごい体の柔らかさだ。

と感心している余裕はなかったが。

蹴とばされた生首が床に落ち、俺達の足元まで転がってきた。

さっき優雅に礼をしていたバーゼル卿という男の首だった。

「だから、そいつをつけてここまで来たのさ。」

それでか!

革工房のオーク、途中の家の男。

殺されていたのか。

いないわけだ。

「自称ノルデル伯ってのはあんただろ?あんたは生け捕りにしろってさ。王様が。」

男は妻子の死体の傍らで膝をついて呆然としているノルデル伯に向かって言った。

「あとお姫様もいるかもしれないからいたらそっちも殺すなって言われてたな。あんたがお姫様かい?」

それには答えずソニアは細身の剣を抜いて構えた。

「黒髪に黒い瞳と聞いていたんだけどな…。まぁ、いいや。違ったら後から殺せばいいわけだしね。」

男が動いた。

早い。

アニメか、何かのようだ。

一瞬でノルデル伯の部下に近寄り、相手に距離をとる時間も与えずナイフを投げつけた。

ノルデル伯の部下が倒れる。

実は俺はこの時、小声で大気の精霊を使役する魔法を唱え始めていた。

奴を空気の障壁で囲って投げたナイフをはじく作戦だったんだが、ここまで素早く移動されると使えない。

俺は別の魔法に切り替えた。

土の精霊を使役する魔法だ。

奴にかかる重力を強くすることで動きを封じる魔法をかけた。

「あれぇ?転生者君ってもしかして魔法使い?すごいね。少し体が重いや。」

男はそう言いながらも、素早く移動して次の標的に迫った。

ノルデル伯の部下の一人は素早く後ろずさり、間合いをとった。

流石に訓練された者だ。

一度、味方がやられれば、同じ目には合わない。

だが、男は素早くナイフを投げた。

折角、間合いをとっても至近距離だ。

ナイフが腕にあたる。

また一人死んでしまった。

魔法の効果は多少あるようだが、この程度では勝ち目はない。

この魔法は空気の障壁を作る魔法と違って、一度かけてしまえば暫く効果が続く。

気まぐれで常に変わり続けるとされる大気の精霊と頑固で変わらないとされる土の精霊の違いだな。

だから俺は続けて別の魔法を唱えた。

俺の得意技、炎の玉だ。

「そうそう!今朝、ショウやヒカルと話をつけたんだ。人間も一点でカウントするってね。オークは一体三点。ほらゲームだってさ山賊とか盗賊とかモンスターと一緒だろ?」

お前もその盗賊やってたんだろってツッコミを入れたかったが、ぐっとこらえて、炎の玉をくれてやった。

炎の玉がはじけた。

が、そこには男の姿はなかった。

「すごい!まじで魔法じゃん!」

男は既に別の場所にいた。

俺の背後だ!

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