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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第一章 王都への旅編

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王宮への潜入

「ここで待機していればいいんだな?」

「ええ。そうよ。地方からやってきて、名高い王宮を見に来て、慣れない王都の雑踏でつかれた男…そういう設定よ。」

「だから、ここで休んでいるふりをしろと?」

「ええ。そうよ。」

「ずっと?」

「ええ、そうよ。」

「どれくらいかかるかもわからずに?」

「ええ。そうよ。」

時々、ソニアの『ええ、そうよ。』には頭にくることがある。


今は朝。

早朝ではない。

どちらかと言うと昼に近い遅めの時間だ。

そしてここは王宮を見上げる公園の隅だ。

転生前の世界における中世ヨーロッパに公園なんてものがあったかは知らないが、この世界で公共の公園なんてほとんどない。

貴族の私有地にはそれこそ転生前の世界で見たことあるような庭園に近いものがあったが、これは貴族達が自分の為に作ったものだ。

一般人は立ち入りできない。

マカリスター家の屋敷にも自分達が憩う為のちょっとした庭園があった。

村々では公共の広場があり、村の寄り合いなんかをしていたが、それが強いて言えば公園に近い存在だ。

カサベラでも広場は公共の場とされていて、商売をするには領主に届けを出して許可を得なくてはならないが、人々が待ち合わせをしたり、休んだりは自由にできる。

ベンチとまではいかないが、人が腰かけられるような石材が置いてあったりもする。

けれど、転生する前の世界で当たり前にあったような公共の公園なんてものはなかった。

しかし、クロンドロイには公園がいくつか存在する。

その多くはジャン王が設けたものだそうだ。

ここは王宮を見上げる土地に芝生の広場や人口のものと思われる川や池があり、程よく間伐された木立やその中を通り抜ける散歩道もある。

そんな木立の中にある石像が王宮に忍び込む秘密の抜け道の入り口だそうだ。

確かにここならよそから来た旅人が休憩をしていてもおかしくはないな。

俺は疲れた散策者が一休みするのに格好な天面を平らに削った石材の上に座った。

そして辺りを見回す。

「誰も見てないようだな。」

「いいわね。大丈夫よ。半日もかからないわ。上手く行けばすぐよ。」

ソニアはまるでこれからを人を殺しに行く人間とは思えないほど、落ち着いていた。

それが強がりなのはよくわかっている。

敢えて何も言うまい。

しっかりと警備されているであろう王宮に忍び込んで暗殺しようと言うんだ。

どう考えても危険だ。

とは言えノルデル伯ですら止めさせられなかったんだ。

俺が何を言っても聞く耳は持つまい。

心配で仕方ないが、言うて、俺にはこんな事しかしてやれない…

ポケットから三本の小さな鉄棒を引っ張り出した。

「これを持っていけ。」

「何よそれ?」

「まぁ何と言うか…煙玉だな。」

「煙玉?」

「ああ、そうだ。」

「何に使えるの。」

「こいつを投げつけて煙が出るように念じるんだ。そうしたら煙が出る。」

「煙?煙が何の役に立つの?」

そりゃ想像つかないよな。

前世の忍者ものの映画なんかに出てくる煙玉のイメージなんだが…

「煙と言ってもちょっとやそっとの量じゃない。それこそ屋内なら何も見えなくなるほどの煙が一瞬で出てくる。」

「目くらましになると言うこと?」

「そう。そうだ。万一、見つかった時、そいつで逃げられるだろう?」

ソニアは胡散臭そうに俺お手製の煙球を見つめていたが、受け取ってはくれた。

効果には自信があるんだけどな…


ソニアが疑わしく思うのも無理はない。

なんせ、煙の魔法と言えば火の精霊を使役する魔法の中でも初歩中の初歩。

効果も大したことはない。

緊急の狼煙なんかに使われたりするんだが、それなりの熟練者でなければ焚き火程度の煙しか出せない。

しかしだ。

俺のは特別製なんだ。

稲妻の魔法みたいな複数の精霊を使役する魔法は難しいとされているが、俺は精霊魔法だけは得意で複数の精霊を使役する魔法もわりと簡単にできる。

だから火の精霊だけでなく水の精霊、大気の精霊も使役するオリジナルの煙の魔法を編み出したんだ。

まぁ、複数の精霊を使役さえすれば簡単にできるものだからどこかの魔法使いが同じことをやっているかもしれないが…

とにかく、そいつを呪符魔法で封じ込めて作った煙玉だ。

俺は精霊魔法以外の魔法は全く苦手で、呪符したと言っても使用できるのは一回きりだから使い捨てなわけなんだけどな。

しかも、たった三つ作るだけで昨夜は徹夜だ。

魔法のアイテム屋になって老後を過ごすなんてのは俺には無理だろうな…


目立たないローブを羽織ったソニアは石像の裏手にまわった。

ローブの下は王宮で働く下女のお仕着せだ。

石像の向こうで何やらゴソゴソやっている。

石像は壮年の男の裸像だ。

別におかしな趣味によるものではない。

神々が人間とこの世界で暮らしていた頃、神々は人間達と同じような姿をしていた。

それも美しい姿を。

美しいという意味には肉体美も含まれる。

だから逞しく美しい裸像で神を表現するのは神を賛美することになる…らしい。

この世界では。

この石像は頭に小粋な帽子を被っている。

旅人の被る帽子だそうだ。

そして翼の飾りのついた長靴をはいている。

旅人の神オレイルだ。

やがて何か重いものが動くような軋み音がする。

様子を見に立ち上がろうとしたが…

「だめよ。じっとしていて。誰かに見られたら怪しまれるわ!」

怒られた。


やがて再び軋み音がして静かになった。

どうやらソニアが秘密の抜け道とやらに忍び込んだらしい。

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