ソニアの決意
しばらくしてノルデル伯が立ち上がると
「アン、息子を連れて席を外してくれんか?」
と命じた。
夫人は子供を連れて部屋を出ていく。
ノルデル伯の部下の多くが一緒に出て行った。
部屋に残ったのはソニアと俺達一行、ノルデル伯、その部下数名だ。
ここまで残っている者はきっとノルデル伯の部下の中でも側近クラスなんだろうな。
「ソニア、ヴァラキアからの知らせには穏やかならないことも書いてあったのだが?」
ノルデル伯の表情は心なしかやや険しい。
「伯父様。フィリップ暗殺の事なら私は諦めないわ。」
「馬鹿な。」
ノルデル伯は自らを落ち着かせるかのように咳払いした。
「いや、すまぬ。他の者に任せることはできないのか?」
「伯父様。秘密の抜け道を知っているのは私だけよ。抜け道の事だけでなく、王宮に忍び込んだ後も私なら道を詳しく覚えているわ。そして私は暗殺者としての訓練を受けているわ。」
「しかし、あまりに危険だ。」
「わかっているわ。大丈夫とははっきり言えない。でもこれだけは私がやらなくてはならないのよ。」
「既に召喚者を召喚されてしまったのだ。もう暗殺の意味があまりないのではないか?」
「確かに私は召喚者達が呼ばれる前にフィリップを暗殺したかったわ。でも今はもっと暗殺する理由があるわ。」
「戦争の事か?」
「ええ、そうよ。召喚者達が現れてしまったけれど、彼らに命を下す王がいなくなれば、そんな簡単に戦争は進められなくなるわ。ヴァラキアはまだ十分に準備ができていないの。戦争になれば多くの人達が死んでしまうわ。」
「理由はそれだけか?」
「伯父様。もし復讐の事を仰っておられるなら、確かに違うとは言い切れないわ。お父様やお母様、弟を殺されたことへの恨みはあるわ。でも、それだけじゃないわ。このままフィリップを野放しにはしておけないのよ!これこそ王家の者の務めよ。戦争になるの。戦争を止め、多くの命を危険にさらさない。これは王家に属するものがやるべき責務だわ。だから私がやるのよ!」
「フィリップを殺したとしても、召喚者達は依然として残るのだ。宮廷でフィリップ同様オークやゴブリンが忌み嫌う者達が奴らを使って侵攻を始めるだろう。」
「私もそう思うわ。だから『送還の鍵』を盗み出そうと思うの。」
「『送還の鍵』をだと?」
「ええ、そうよ。お父様から取り上げた『送還の鍵』はフィリップが持っているのよ。私はそのありかを知っているつもり。」
「本当か!?」
「ええ。私は子供の頃、フィリップが大切そうに何かを隠していて、時折取り出して確認しているのを見ていたの。後から思えば、あれが『送還の鍵』だったのよ。」
「どうしてそんなことを?」
ソニアはバツが悪そうに苦笑いした。
「私はいたずらっ子でよく怒られていたわ。しょっちゅうのぞき見してるって怒られていたのを覚えていない?」
ノルデル伯も苦笑いした。
「君は他にもよく怒られていたからね。」
「そうね。いっぱい怒られていたわ。私は知りたいことがいっぱいあったの。好奇心旺盛だったのよ!そしていつも嫌な奴だったフィリップのことも何か秘密があるなら探ってやろうとたまにのぞき見してたのよ。子供のいたずらよ。」
「それで『送還の鍵』を隠しているのものぞき見したと?」
「そうよ。小さい頃の私はあれが何かわからなかった。『送還の鍵』のことを伯父様から教えていただいたのも、ヴァラキアに着いてからだったわ。それもかなり最近よ。」
「そうだったな。あまり幼いうちに教えるようなことではなかったからな。」
「教えてくださったのは伯父様が最後にヴァラキアにいらした時よ。あの話を聞いてから、随分と考えたわ。それで思い出したのよ。あれがそうだったんじゃないか?ってね。『送還の鍵』を持ち帰ることができれば、王家の血を継ぐ私なら召喚者を強制送還できるわ。それで全て終わりよ。」
ノルデル伯はそれでもソニアが王宮に忍び込んで暗殺及び『送還の鍵』を盗み出すことには反対だったが、結局はソニアが自分の意思を通してしまった。
あの目力だ。
強い決意を秘めたあの目で見つめられるとノルデル伯でも退けることができなかった。
ソニアのふるまいを見れば彼女がどれだけオークやゴブリンを大切に思っているかがわかる。
ソニアは種族で差別などしない。
父、ジャン王の遺志を引き継いでいる。
これは彼女にとって絶対にやり遂げなければならないことなんだ。
その夜、俺達は一度、宿に戻った。
いよいよ次回からソニアの冒険の始まりです。
どんな試練が彼女を待ち受けているのでしょうか?
ご期待ください。
引き続きよろしくお願いいたします。
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私も気持ちが上がり、今後の執筆の励みになります。




