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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第一章 王都への旅編

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ノルデル伯(下)

「伯父様!」

ソニアがケネス=シンクレアに抱き着いた。

ソニアが大興奮しているから、彼は抑え役にまわったのだろう。

落ち着いた態度でケネス=シンクレアは優しくソニアを受け止める。

「久しぶりだね。元気そうで良かった。君がこちらに来るとはヴァラキアから知らせは届いていたが、その後、何の知らせもなく心配したよ。」

「ごめんなさい。伯父様。でもこの通り、私は元気よ。この人達に助けてもらったの!」

ケネス=シンクレアが俺達の方を見る。

傍らの男が何か耳打ちした。

ケネス=シンクレアは少し驚いたような顔をした。

何だ?

「我が姪ソニアを助けてくれたそうだな。礼を言おう。」

ケネス=シンクレアは優雅にお辞儀した。

ソニアはこれまでの事を説明した。

護衛の二人が裏切ったこと。

目の付く自分達だけで拘束したソニアを連行するのは心許なく、盗賊達に護送の話を持ち掛け合流したこと。

そして、たまたまその盗賊達を討伐に来た俺達に開放されたこと。

それからの旅のこと。


ソニアの話しぶりはやや興奮気味で早口でお世辞にも分かりやすいとは言えない。

それでもケネス=シンクレアは辛抱強く話を一通り聞き終え、いくつかの質問をして頷くと驚いたように言った。

「まさか噂の転生者殿がソニアの恩人だったとはな。」

「!?」

なんだって?

俺のことを知っているのか?

召喚者達に目を付けられてしまったことで俺達はかなりナーバスになっている。

思わず杖を構えてしまった。

気付けば、両脇のンダギやブロウも剣の柄に手をかけている。

多分、背後ではエミィが投げナイフを手にしているだろう。

流石素早い。

「大丈夫だ。他意はない。」

ケネス=シンクレアが抑えるように言った。

「実は昨夜、『眠る仔牛亭』には私の部下もいたのだ。君達が店から逃げ出した時に一緒に逃げ出した中の一人だよ。」

そうだったのか。

さっき耳打ちした奴だな。

あの場にいれば俺達の顔も覚えているわけか。

「君には二重にお礼を言わねばならないな。宮廷内にも協力者を置いて情報収集はしているが、私達はフィリップがオーク、ゴブリン追放令などを考えているとは知らなかった。」

「あれは召喚者が勝手に話しただけで…」

「いや、君と話したから奴らも漏らしてしまったのだと私は思っている。非常に重要な情報だ。昨日、早速ヴァラキアに使者を走らせたよ。」

オーク、ゴブリン追放令のことを思い出すと俺は少し憂鬱な気持ちになる。

「カサベラのことが心配かね?」

心を読んだかのような問いだが、わかるか。

カサベラから来たんだし、仲間の半分以上がオークとゴブリンだ。

俺は頷いた。

「安心したまえ。カサベラにも使者は出してある。」

「?」

「あれだけオークやゴブリンの多い町だ。我々の仲間もいる。カサベラはまさにジャン王陛下が願われたような世界を実現している町だ。それをフィリップのくだらない命令で壊させたりはしない。」

そう聞くと少し安心したが、カサベラでケネス=シンクレアと繋がりのある人物って誰なんだろう?


「さて、ソニア。このままこんなところで立ち話というのもなんだ。奥の部屋でお酒でも飲みながら話をしよう。」

ケネス=シンクレアは更に奥の部屋へ続く扉を開いた。

部屋は美しい調度品で飾られ、庭園に面していた。

庭園の側は大きなガラス窓が続いていた。

午後の日差しが眩しい。

確かに貴族の館にふさわしい部屋だ。

ここがノルデル伯を称するケネス=シンクレアの本当の居館と言うわけだ。

カサベラでもそうだが町の中心部では街路にタウンハウスが隙間なく建っているが、その裏側は空き地になっていて、住民たちの共有スペースになっている。

そのスペースが美しい庭園になっているのだ。

外側からじゃわからない。

そして向こう側に見える庭園を取り巻く建物も、外から見える廃墟のような建物とは思えないほど補修されている。

そちらは部下達の居住スペースらしい。

まさか王都のスラム街の最奥部にこんなものがあるとはね。

すごい秘密のアジトだ。


部屋では身分の高そうな貴婦人がマグに酒を注いでいた。

身なりからして恐らくケネス=シンクレアの夫人だ。

俺達が部屋に入ると貴婦人はカラフェとマグを置き、ソニアのもとに走り寄った。

「いらっしゃい。ソニア。」

「はじめまして。伯母様。」

そうかこの夫人はケネス=シンクレアがソニアをヴァラキアに残して王都に来てから結婚したんだ。

ソニアが丁重に、優雅に挨拶をした。

その身のこなし、流石は王家の出だ。

「こんにちは!」

幼い声がした。

夫人の後ろに隠れていた子供だ。

息子だろう。

まだ3歳くらいかな。

俺はパーシーを思い出し、初めて会った頃のフレディ坊やを思い出した。

俺達は順番に夫人と小さな子供に挨拶をした。

父親がオークやゴブリン達の故郷ヴァラキアと繋がりを持つとは言え、本人は初めてだったらしい。

ンダギ、ブロウ、エミィを見て大興奮だ。

特にンダギ、ブロウの二人は子供好きだからな。

すぐに仲良しになってしまった。

酒はワインを何かで割ったような飲み物だった。

アルコールが薄まっているから飲んでも酔わなさそうだ。

何かの香りがついてて、さわやかだ。

俺達のような庶民が貴婦人自ら注ぐ酒を飲むなんて、この世界ではあまり考えられないことだから緊張してしまう。


「ソニア、私のことはアンと呼んで。堅苦しくしないで。」

ソニアと夫人は親交を深めている。

ヴァラキアに落ち着くまでソニアを守り、ソニアが心から慕うケネス=シンクレアの夫人だ。

ソニアとしても仲良くしたいところだろう。


俺とフレッドは主にケネス=シンクレアと話をしていた。

ソニアが早口で話したこれまでの経緯について、いくつか補足しておいた。

ケネス=シンクレアからも自身のことについて話を聞かせてもらった。

フィリップによりジャン王一家やノルデル伯シンクレア一家が暗殺された後、放浪の末にソニアをヴァラキアに送り届けた彼はヴァラキア勢力と一種の同盟を結んだらしい。

彼は王都に潜入すると密かに同志を募り、このアジトを拠点に活動しているそうだ。

その内容は主に諜報活動とクーデターの準備だ。

王都で様々な情報を集めてはヴァラキアに送っている。

昨夜『眠る仔牛亭』に部下がいたのも、彼に言わせれば諜報活動の一環らしい。

庶民の噂話は時に重要な情報となることもあるし、人が集まるところでそれとなく現王の悪政について説いて回れば、フィリップへの民の忠誠度も下がる。

いつかクーデターを起こす際の下準備だ。

彼の集めた同志とはノルデル伯シンクレア家の元家臣でその意思がある者、ジャン王の理想を支持する者達で、宮廷の廷臣もいるらしい。

ジャン王の理想。

つまりオークやゴブリン達と平和に暮らせる世界の実現だ。

その為にクーデターをおこしてフィリップを倒し、ソニアを王位につけて、ジャン王の政策を復活させようというわけだ。

バックにはヴァラキア勢力がついている。


「ソニアの推測が正しいならフィリップの計画はかなり前から練られたものだ。召喚者まで召喚できたとなると次は…」

「戦争ですか?」

ケネス=シンクレアは憂鬱気に頷いた。

そうだろうな。

オーク、ゴブリン追放令とやらの詳細はわからないが、ショウやヒカルの口ぶりではオークやゴブリン達を見つけ次第、殺害できるような内容らしい。

王国内のオークやゴブリンがいなくなれば次はヴァラキア自治領への侵攻になるだろう。

オークやゴブリン、トロール族の大半はヴァラキアにいるからな。

「奴はオークやゴブリンが大嫌いな上、ジャン王陛下の事を妬んでおった。魔王復活を大々的に喧伝して民衆を煽り、召喚者達を率いて魔王殿を倒し、自らが英雄になりたいと思っておるのだ。その上、欲張りだ。ヴァラキアを滅ぼしてオークやゴブリンの土地を奪えば、テルデサード王国は文字通り最強の王国となるだろう。その後は他国へも侵攻するであろうな。」

要は世界征服が夢なわけだ。

わかりやすい悪者だな。

「こうなる前に奴を打倒したかったのだが…」

簡単にクーデターなど起こせない。

じっくりと時間をかけてやろうとしていたはずだ。

ケネス=シンクレアにとっても、魔王の復活と召喚者の召喚は青天の霹靂だったわけだ。


「いつ戦争になるのでしょうか?」

戦争になればカサベラはどうなるんだ?

俺は戦争が始まるまでにカサベラに帰りたい。

俺に何ができるかわからないが、これまで仲良く暮らしてきたカサベラの住民同士が殺し合うようなことにだけはなってほしくない。

「わからぬな。召喚者を召喚したのにまだ公にしていないところを見るとまだ準備が整っていないと見える。廷臣の中には密かに我々と志を同じくしている者もおるからな。フィリップもそう簡単に思いのままにはいくまい。これまでも奴がオークやゴブリンに不利な政策を打ち出す度に議会でできるだけ我々の同志が潰してきたのだ。」

つまりはケネス=シンクレア一党の工作による成果だ。

すごいな。

俺達は遠くカサベラでオークやゴブリン達とともに平和に暮らしていたが、実は彼らによって守られていたんだな。

俺は彼がノルデル伯を継いだと承認したヴァラキアに同意する。

この人こそノルデル伯シンクレア卿にふさわしい。

この人こそカレドニア人から唯一出た貴族家の当主にふさわしい。

「閣下…」

ノルデル伯は微かにほほ笑んだ。

「ケネスと呼んでくれたまえ。私も堅苦しいのは苦手でな。」

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