ソニアの寝息
「やはり誰かが裏切っているのね。」
ソニアが考え込むように言った。
「封印が解けたことがバレてしまったってことか?」
「そうよ。ヴァラキアでは魔王様の封印が解けたことは秘密にしていたの。フィリップにバレればこうなることはわかっていたわ。」
「その秘密を洩らせばフィリップ王は大金を払うだろうからな。」
「ええ。でも問題はそこだけじゃないの。」
「?」
「召喚者を召喚する儀式は何年もかかるのよ。第三次暗黒大戦で初めて召喚者が召喚された時の記述では、当時の王がある夜天啓を受けてすぐに召喚したように書かれているけれど、実際にはそうではないわ。」
ほう。
そうなのか。
「準備する期間も含めれば、最短でも三年。長ければ五年はかかると言われているわ。しかも召喚の儀式にはエルフ族の魔法も必要なの。彼らの助力が必要なのよ。」
「待て。魔王の封印が解けたのはいつなんだ?」
「一年前よ。」
「それじゃ…」
「そうよ。何者かが事前にフィリップやエルフ族と示し合わせて、封印を解いたのよ。」
「…」
沈黙。
あまり衝撃的で、大きく、謎の多い話だ。
誰もが疲れ切っていた。
その夜はもう寝ることにした。
俺達は同じ部屋で寝ることにした。
大丈夫だとは思うが、用心だ。
ブロウとンダギは床で十分だとさっさと床に寝転がった。
フレッドとエミィがひとつのベッドにおさまった。
フレッドは瘦身だし、エミィは小柄だから不自由はないようだ。
ソニアは俺のベッドで寝ることにした。
俺が床で寝ようとすると彼女が止めた。
「気にしないでいいわ。あなたはまだ病み上がりよ。それに私がベッドを狭くするほど太ってるとでも言いたいの?」
「いや…けれど…」
俺が遠慮するのを無視して、ソニアは俺に背を向けてベッドに寝転がってしまった。
俺は反対側、できるだけ間をあけて寝転がった。
転生前の人生では女慣れしていなくて、こちらで生まれ変わってからも異性と親しくすることなどなかった俺だ。
緊張せざるを得ないだろ?
眠りに落ちるまでソニアはジャン王が暗殺された後の自分の出来事について軽く話してくれた。
「夜の庭でひとり隠れているところをアルヴァン伯父様にみつけられたの。まだ子供だったわ。いつも同じところに隠れてたわ。それで見つからないと思っていたのよ。だから私がお父様と喧嘩して庭に逃げ出してもどこにいるかは親しい人達はみんな知っていたわ。」
つまりソニアが最後に父親と話をした時は喧嘩だったのか。
それは辛いな。
「私、伯父様の話を信じなかった。けれど、伯父様に両親や弟の死体を見せられて信じるしかなかったわ。」
五歳の子供に殺された家族の死体を?
「お父様とお母様は食事に出されたワインに毒を盛られたの。まだ小さい弟はワインを飲まないから、お父様とお母様が突然苦しみだしたのを見て泣き出したところを裏切り者の衛兵に剣で刺されたのよ。喉も切り裂かれていたわ。私も見たくなかった。でも、仕方がなかったのよ。食堂を抜けた先に抜け道があったの。」
俺の疑問に答えるようにソニアは言った。
「私を捜す為に裏切りものは食堂にはいなかった。伯父様は王家の者だけが知る秘密の抜け道を知らされていたの。暗い地下道。怖くて、歩けなくて、涙が止まらなくて、伯父様にほとんど引っ張られるようにして逃げたのを覚えているわ。」
当たり前だ。
そんな小さい時にそんな残酷なことを経験すればな。
「その後は伯父様のお屋敷に半年ほど匿われていたわ。屋敷から一歩も出れなくて辛かった。それでもアルヴァン伯父様は自分が疑われているとわかっていたから、ケネス伯父様に私を連れ出させたの。伯父様達の領地、ノルデル領で半年暮らしたわ。勿論、ノルデル伯家の城内ではないわ。伯父様が手配した田舎の農家で農民の娘として暮らしていたの。」
「ノルデル伯の屋敷で半年、ノルデル領で半年。そこでノルデル伯が殺害されたんだな。」
「そうよ。ノルデル伯の家族、親戚も皆殺されたわ。新年の祝いに家族親族が集まっているところを襲撃して、その後、放火して焼死に見せかけたの。」
「ケネス=シンクレアだけが生き残ったわけか?」
「ケネス伯父様だけが私の面倒を守る為にノルデル領にいたから助かったわ。」
正直、ケネス=シンクレアに会ったこともないし、話を聞いたばかりだから、どう呼んでよいかわからない。
やっぱり、ノルデル伯ケネス卿とでも呼ぶべきか?
「その後、ケネス伯父様に連れられて旅をしたわ。あなたの故郷カレドニアにも行ったのよ。カレドニアのシンクレア一族に援助を受けたわ。そしてヴァラキアにたどり着いたの。ケネス伯父様はアルヴァン伯父様の片腕としてヴァラキアのオークやゴブリンの首長達と幾度も会合をしていたから伝手があったのよ。」
「王国は公式には君もケネス=シンクレアも死んだとしているが、実は生きていることを知ってるんだな?」
「恐らくそうよ。でもヴァラキアではさすがに徹底した捜索はできないわ。終戦後の講和でお父様はヴァラキアの各部族に自治権を認め、ヴァラキア全土の代表者にはレネ様がなったわ。フィリップ達はレネ様の力を恐れていたわ。詰問の使者が何度も送られてきた程度ね。だから私は見つかることなくヴァラキアで匿われて育ったの。」
魔王が神々の一柱、メルコルだった頃からその副官だったレネだ。
そりゃ怖いだろうな。
「でも、どうしてケネス=シンクレアは王都に戻っているんだ?」
「ケネス伯父様も暫くはヴァラキアで私といれくれたわ。でも私がヴァラキアに馴染んで落ち着いて暮らせるようになったのを見届けると身分を隠して王都に戻ったの。そしてフィリップの襲撃で殺されなかった家臣や同じくフィリップ王に反意を持つ同志を密かに集めているわ。また王都で情報を集めて、ヴァラキアに送っているわ。」
なるほど、一種のレジスタンスって訳か。
益々、やっかいな連中と関りになる訳だ。
これからどうなるんだろ?
「最後にあなたに謝らなくてはいけないわ。」
「?」
「今までよそよそしくしてごめんなさい。嫌な奴だったでしょ?」
俺はなかなか眠れなかったが、俺の背中ではやはりこちらに背中を向けているソニアの寝息が聞こえてきた。
色々話して、逆に気分が晴れたんだな。
漸くソニアを安らかな眠りにつかせてあげられました。
彼女にはまだ試練が続くので、先ずはゆっくり寝て欲しいです。
次回からまた新展開です。
引き続きよろしくお願いいたします。
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