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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第一章 王都への旅編

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街道の戦い

その日の夜、アンナの叔父ニコラがやってきた。

姪の子供の命が助かったのだ。

御礼の挨拶だった。

餞別に王都までの船賃を負担してくれると言う。

ありがたい。

船賃は高くつくので歩こうかと話をしていたところだ。


「それにな。」

ニコラが言った。

「陸路は危険って話だ。」

「危険?」

フレッドが問い返す。

「ああ、川沿いの街道だがな。盗賊が出るようなんだ。かなり凶悪な連中で、王都へ向かったかなりの旅人がやられている。」

「人数が多いのか?」

「少なくはないだろうな。襲われた者の中にはかなりの規模の隊商も含まれている。ここと王都を結ぶ街道は重要な隊商路だからな、王都でも問題になっておってな。盗賊たちにかなりの賞金がかけられている。」

「賞金?いくらだ?誰が出すんだ?」

ブロウが反応した。

おいおい。

商売っ気出すなよ。

「その襲われた隊商ってのは何人くらいだったんだ?」

「どのあたりで出るんだ?」

しかし、ンダギ、ンダガ兄弟も興味がありそうだ。

この三人は本当に好戦的だ。

こういう話になると目を輝かせてくる。


カルテンブールから外に出たことのないニコラはオーク達に慣れていない。

やや戸惑いながら話すには、盗賊達はそれなりの規模らしい。

俺達がこの前討伐した連中は二十人以上いたが、話を聞く限り、同じくらいだろう。

盗賊達が出没するのはここと王都の中間点あたり。

その地域を治める領主が賞金を出すらしい。

賞金は四クランらしい。

クランと言うのはこちらでの貨幣単位の一つだ。

金貨一枚で一クラン。

金貨一枚あれば三か月は遊んで暮らせる。

金貨四枚貰えるなら破格の賞金と言っていい。


因みに

金貨一枚=一クラン=百シリー

銀貨一枚=一シリー=百デニー

銅貨一枚=一デニー

がこちらの貨幣単位だ。

普通に生活していて使うのは銀貨か銅貨だ。

金貨、クランなんて単位とは無縁だ。


ンダギ、ンダガ兄弟が陸路で行こうと熱心に言い出した。

王都まで行くついでに盗賊達も討伐しようというわけだ。

ブロウも賛成した。

俺はソニアの為にもこれ以上旅を長引かせたくなかったので反対した。

エミィもだ。

フレッドは意見を保留した。

おかしいな、フレッドは危ない橋を渡りたがるタイプではない。

ソニアはその理由に気づいた。

「その盗賊達が南下してきたら、ここも危ないわ。」

ニコラの農場もフレッドの家もカルテンブール郊外の草原にある。

隣家まではかなり離れている。

盗賊達が移動してこれば狙われかねない。

「私は少しくらい遅れてもいいわ。」


結局、ニコラは船賃を負担するのではなく、馬車を手配してくれた。

二頭立ての荷馬車だ。

馬車があれば、船とさほど日数に差は出ない。

ンダギ、ンダガ兄弟とブロウは襲われることなく王都につけば盗賊討伐はあきらめることを了承した。

しかし、盗賊達に襲われれば、当然返り討ちにして賞金も手に入れようというわけだ。


この決断が悲しいことになるとはその時俺達は知らなかった。


俺が不安だったのは盗賊達の情報が十分でないことだ。

この前の盗賊討伐に成功したのは事前に綿密に下調べしたからだ。

しかし、今回は盗賊達の情報がほとんどない。

しかもこちらから奇襲をかけるのでなく、襲われたら返り討ちにすると言う受け身な作戦だ。


カルテンブールを出て三日目の午後、盗賊達が出没するという辺りに着いた。


前日の夜は街道沿いの村で宿屋に泊まった。

宿屋で盗賊達の情報を集めた。

旅人達からは何も情報を得られなかった。

盗賊に襲われず済んだ幸運な旅人か、これから襲われるかもしれない旅人しかいなかったのだ。

宿の主の話では、盗賊に襲われて無事だった者はいないらしい。

襲われるのは皆ある程度の規模の隊商ばかりという話だ。

独り者の旅人を襲うのは簡単だが大した獲物にはありつけない。

大物だけを狙っているようだ。

襲われた隊商は死体だけを残し、馬車や荷物は根こそぎ持っていかれるらしい。

その夜、俺達は作戦を考えた。

一人も脱走を許すことなく全滅させているというからには、遠距離攻撃からの包囲殲滅戦という読みで意見は一致した。

残された死体も矢傷を負っているものが大半だという話だからな。

焼死体はないという話だから、魔法使いがいる可能性は低い。

それを踏まえて作戦を練ると、俺達は宿の主に頼んで必要な物を手配してもらった。


相手から奇襲をかけられる以上、日没後は避けたい。

かと言って白昼堂々襲われる可能性は低い。

盗賊達は足がつくのを嫌がるはずだ。

だから、午後遅く、日没直前の時間帯を選んだ。

この前の盗賊討伐と同じだ。


「本当にやるのか?かなりの難敵らしいぞ。」

俺はダメもとで言ってみた。

今回の件は何だか気が進まなかった。

「どうしたダンカン、ビビっちまったか?」

ンダガが笑いながら答える。

普通こんなこと笑いながら言われたら、腹が立つんだが、ンダガが言うと妙になごんでしまう。

ンダガの性格の良さはよくわかっているからな。

「うん。ビビってるな。普通に。」

俺は素直に答えた。

「やっぱり情報が少なすぎる。当たって砕けろは俺の趣味じゃない。」

背後でエミィが頷いているのがわかった。

チームでは俺とエミィは慎重派なんだ。

もっとも俺の場合、ンダガの言う通り、怖がりなんだが。

「大丈夫だ。ブロウ、兄貴と俺で相手の前衛は始末してやるさ。後衛の始末は任せたからな。」

ンダガは自信たっぷりだ。

優しくてお人好し、だけど戦闘大好き。

それがンダガだ。

「ダンカン、無茶はしない。ヤバければ、すぐに撤退しよう。」

ンダギは弟よりやや慎重だ。

とは言え…

無茶はしないが、止めはしないんだな。

俺が振り返るとエミィは肩をすくめ、フレッドとソニアは頷いた。

わかったよ。

「よし。作戦通りにな。いざとなったら馬車を捨てて逃げるからな。」


タージュ川が北に向かって流れている。

その西岸、河原から斜面を少し上がった所を川と並行して街道が続いている。

俺達は街道を川の流れに沿って北上している。

そろそろ黄昏時。

西側、左手に山並みが迫っているから、太陽が隠れてしまうのは早い。

やや薄暗くなってきたが、まだ見える。

この前の盗賊討伐と同じだ。


カンッ!

突然、馬車の左側で大きな音がした。

矢が突き立てられたのだ。


馬車は幌付きだ。

そして幌の内側に木板を立てて固定しておいた。

盗賊達が矢で襲ってくることは想定通りだ。


「来たぞっ!」

俺が叫ぶまでもない。

ンダギ、ンダガ、ブロウが剣を手に馬車の後部に行った。


カンッ!カンッ!カンッ!

次々と矢が立つ。

木板は左側面に立てているが、真上から落ちてくる矢もある。

幌を突き破って突き刺さる。

ソニアが木板に張り付くようにした。

危ないからな。


エミィが板を一枚抱えて御者席に来た。

この時、御者席にいたのは俺だ。

俺はエミィの板に隠れて左手の斜面の上を見た。


斜面に突き出た山の鼻に敵はいるらしい。

うまいな。

下からじゃ見えない。

天然の銃座だ。


カンッ!カンッ!カンッ!

エミィの板にも矢が立ち始めた。

長くは持たないぞ!

俺は馬車を止めて呪文を唱え始めた。

俺の後ろでフレッドも矢を次々と放っている。


魔法は対象物を定めないと正確に発動できない。

エミィの板に守られながらも敵の方角をしっかり見る必要がある。

山の鼻の上は見えないが場所はわかっているから、十分魔法を放てる。

板から出ている顔を撃ち抜かれないかと言う恐怖感はすごいが、ぐっとこらえて魔法に集中した。

大切な一撃だ失敗できない。

フレッドだって恐怖に耐えて弓を引いているんだ。


俺は稲妻の魔法を唱えていた。

難しいが一発で殲滅できる魔法だ。

使役する大気の精霊と水の精霊を感じた。


転生前に雷が空気と空気中の水分が作用して発生するようなことを漠然とは知っていたが、そのメカニズムをきちんと理解していたわけではない。

だから、こちらで『大気の精霊がこんな感じになって、水の精霊があんな感じになれば稲妻が起きる』的なことを学び、起こしている。

もし雷発生のメカニズムを正確に知っていれば、一流の稲妻使いになれたに違いない。

とにかく、こちらで学んだようになるよう精霊に意識を送る。

精霊を使役するというのは命ずるのでもなければ、お願いするのでもない。

人間とは全く異なる存在だ。

言葉にできない。

特殊なコミュニケーションだ。

俺は精霊を使役して持っていきたい状態を頭に思い浮かべて、そのイメージを精霊に送るようにしている。


山の鼻の上空でパチパチと電気が発生し始めているのを感じる。

大気の精霊と水の精霊の状態が稲妻を落とす形に整い始めている。

魔法に没頭すればするほど精霊達を近く感じ、ついには自分自身が精霊になったような気になる。

気がするだけなんだが。

だから俺は今、山の鼻の上空にいるように感じるんだ。

その時、ふと、山の鼻が見えた。

違う、今でも見えている。

そうではなくて上から山の鼻が見えたんだ。

そう稲妻を起こす大気の精霊と水の精霊の見えているものが見えたんだ!

精霊に視覚があるかはわからないが…

ここまで精霊と一体化できたことはない!

会心の出来だ!


山の鼻には盗賊達の射手は十五人ほどいた。

手に取るように奴らの居場所がわかる。

俺は正確に稲妻の標的を定めることができた…


ドカンッ!

山の鼻に稲妻が落ちた。

俺が放てる限りで最大の稲妻だ。

確実に全員を仕留めたはずだ。

はずなんだが…

それを確かめることはできなかった。


何故なら俺はそのまま意識を失ったんだ。


「目を覚まして!お願い!」

遠くでソニアの声が聞こえる。

「早く!お願い!」

いや?結構近くかな?

「お願い!頑張って!」

頬をペチペチと叩かれている。


おい!しっかりしろ!俺!


「おぉ!すまない!気がついた!」

俺は起き上がった。

ガタン!と音がする。

馬車の後方から飛び出していくンダギ、ンダガ、ブロウの後ろ姿が見えた。

その向こう、街道を後方から走ってくる人影が…

盗賊達だ。


頭がクラクラする。

最初に放った稲妻の魔法に魔力を使い過ぎた。

魔法は一度に無限に使えるわけではない。

魔力に限りがある。

同じ魔法でも魔力を注ぎ込めば注ぎ込むほど威力は上がる。

けれど、使える回数は減るわけだ。

仕方がない。

一撃で盗賊達の射手を全滅させる必要があった。

魔力の限界に近づくと激しい頭痛に襲われる。

ひどいと失神してしまう。

まさに今の俺だ。

魔力回復ポーションなんて便利な品があればいいんだが、この世界はそんなに都合の良い世界ではない。


「しっかりして!」

ソニアの声が響く。

キツいが正念場だ。

魔力は時間がたてば自然と回復するが、短時間では無理だ。

俺の魔力はほとんど限界なんだが、ここは無理しなきゃいけない。


俺は杖を支えに立ち上がった。

後方はンダギ、ンダガ、ブロウに任せている。

フレッドが後方支援をしている。


俺の担当は前方だ。

馬車はこれから坂を登るところだった。

坂の向こうは見えない。

恐らく何か障害物を置いて逃げられないようにしているはずだ。

そしてその辺りに何人か待ち受けているはずだ。

こちらがここで止まっている以上、そいつらから向かってくるはずだ。


エミィが街道脇の茂みから顔を出して合図を送ってきた。

予想通りらしい。

相変わらず隠れるのがうまい。

そこにいると知らなければ、合図に気付かなかっただろう。


暫くすると坂の向こうから五人の戦士が現れた。

全員、革製の鎧を着て、長剣と盾を手にしている。

盗賊とは思えないほどしっかりした装備をしている。

おそろいの装備だから軍隊のようにすら見える。


エミィが再び合図を送ってきた。

前方の敵はこれで全てだ。

俺はどんなに魔力を振り絞ってもあと一回しか魔法が使えない。

一度でやれないと困るんだ。


五人は街道いっぱいに横並びでやってくる。

もう少し密集してもらえた方がありがたいんだがな。

奴らも馬鹿じゃない。

こちらに魔法使いがいるとわかったんだ。

一撃でやられないようにしているわけだ。

今の俺ができる限りの魔力で炎の玉の魔法を使っても恐らく、二人は生き残る。

エミィに任せるしかない。

エミィは今、やつらの後方右手の茂みに隠れている。

不意打ちだからかなり有利だ。

左の三人をやろう。

もう一人も手傷くらいは負わせられるだろう。

エミィが討ち漏らせば…

俺は死ぬ。

魔法を放ったらそのまま失神するだろうからな。

ソニアは…

傍らのソニアの腰には細身の剣が吊るしてある。

この世界には女戦士だとか女騎士はいない。

いるかもしれないが、かなり珍しい。

ここは中世の世界だ。

女性の社会進出も、男女平等もない。

女性は家庭を守るもの…

転生前に聞いたら古臭くて笑うような考えが当たり前の世界だ。

だから剣を帯びたソニアの姿はこちらでは奇異に見えているだろう。

俺は素敵に思うんだけどな。

とは言え、ソニアに実際この剣を使わせたくはない。

逃げてほしい。



俺は炎の玉の魔法を唱え始めた。

炎の玉が浮かび上がる。

前にも言ったが俺の炎の玉は大きいんだ。

今回は更に特大サイズだ。

もうひどい頭痛だ。

限界だ。

頭だけでなく体の節々まで痛い。

が、無視した。

余計なことを考える余裕がもうない。

魔法に集中だ。


俺は杖を前に向けた。

その杖先の方向に向かって飛んでいく炎の玉…


そこから記憶がない。

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