『弱者』と笑われた俺の真の能力は実は超最強で最凶の『能力吸収』でした
「氷室、お前の能力って本当に使えねえよな」
教室の隅で、俺――氷室零は、またクラスメイトの嘲笑を浴びていた。
ここは国立能力者学園。全国から選ばれた能力者が集う場所だ。
この世界では十年前から突如として「能力者」と呼ばれる超常の力を持つ人間が現れ始めた。
炎を操る者、雷を纏う者、時を止める者。
彼らは英雄として、モンスターが蔓延るダンジョンを攻略し、人々から称賛される。
そして俺の能力は――「吸収」。
「吸収って何を吸収すんだよ?ダメージ?それとも魔力?」
「どうせ何も吸収できないんだろ?Eランクだし」
笑い声が教室に響く。俺の能力ランクはE――最低ランクだ。
能力発現時の検査で、俺の「吸収」は何の反応も示さなかった。
炎も吸収できない、衝撃も吸収できない、魔力も吸収できない。
検査官は首を傾げ、「何かを吸収する能力のようだが、対象が不明」という曖昧な診断を下した。
つまり、役立たず。
「零君、気にしないで」
優しい声が聞こえた。
振り返ると、長い黒髪の美しい少女――天野美月が微笑んでいた。
幼馴染の美月は、俺とは正反対のSランク能力者だ。精神操作という強力な能力を持ち、学園でも一目置かれている。
そんな彼女だけが、いつも俺に優しかった。
「ありがとう、美月」
「能力が弱くても、零君は零君だから」
彼女の言葉に、俺は少しだけ救われた気がした。
この時の俺は、まだ何も知らなかった。
美月の笑顔の裏に隠された本性を。
そして、俺の能力の真の恐ろしさを。
それは金曜日の放課後だった。
「零君、明日一緒にダンジョン行かない?」
美月が突然そう言い出した時、俺は驚いた。
「え、でも俺、戦えないし……」
「大丈夫。私が守るから。それに、零君にも経験が必要でしょ?」
彼女の言葉に嘘はないように思えた。
確かに、実戦経験のない俺は、このままでは落第してしまう。
学園の規定で、年に一度はダンジョン実習に参加しなければならないのだ。
「わかった。ありがとう、美月」
「ふふ、楽しみにしてるね」
翌日、俺たちは学園近くのEランクダンジョンに入った。
Eランクダンジョンは初心者向けで、出現するモンスターも比較的弱い。
薄暗い洞窟を進む。美月は先頭を歩き、俺は後ろをついていく。
「ねえ、零君」
突然、美月が立ち止まった。
「なに?」
「あなた、自分の立場、わかってる?」
その声は、今まで聞いたことのない冷たさを帯びていた。
「え……?」
「Eランクの役立たずが、Sランクの私と幼馴染だなんて。周りからどう見られてると思う?」
美月が振り返る。その顔には、今までのような優しさのかけらもなかった。
「美月……?」
「みんな言ってるの。『美月様は優しいから、あんな無能と付き合ってあげてる』って。私のイメージダウンなのよ、あなたの存在が」
心臓を掴まれたような感覚。
「それに、ちょっと調べたの。あなたの能力『吸収』について。もしかしたら、危険な能力なんじゃないかってわかった」
「危険……?」
「だから、ここで消えてもらうわ」
その瞬間、背後で巨大な何かが動く気配がした。
振り返ると、そこには体長三メートルはある鋼鉄のような外殻を持つモンスター――アーマービーストが立っていた。
これはCランクのモンスターだ。Eランクダンジョンに出るはずがない。
「これ、私が別のダンジョンから連れてきたの。精神操作でね」
「美月……どうして……」
「さようなら、零君。安心して、『モンスターに襲われて不幸な事故だった』ってちゃんとみんなの前で泣いてあげるから」
美月は背を向けて走り去った。
アーマービーストの巨大な腕が振り下ろされる。
俺はその場から一歩も動くことができなかった。
激痛。
吹き飛ばされた体が岩壁に叩きつけられる。体から肋骨が折れる音がした。
視界が霞む。口から血が溢れる。
「くそ……こんな……ところで……」
ふつふつと怒りが込み上げてきた。
美月への怒り、自分を笑った連中への怒り。
そして、何もできない自分への怒り。
「死にたく……ない……!」
アーマービーストが迫る。
その拳が、俺の頭を砕こうとした瞬間――
俺の右手が、本能的に突き出されていた。
そして俺の手から黒い霧のような何かが溢れ出し、アーマービーストを包み込む。
モンスターが苦しそうに暴れる。そして――
その体が、まるで霧に溶けるように消えていった。
代わりに、俺の中に何かが流れ込んでくる。
これは…力?いままで感じたことがないような圧倒的な力。
折れた肋骨が音を立てて再生する。傷が塞がる。
そして――俺の体が、鋼鉄のような外殻に覆われた。
「これは……アーマービーストの能力……?」
理解した。
俺の「吸収」の真の意味を。
これは、倒した敵の能力を完全に奪う力だったんだ。
今まで何も吸収できなかったのは、「生きている敵」を倒せなかったから。
検査の時も、無機物や魔力を対象にしていたから反応しなかった。
でも、敵を殺せば――その能力は俺のものになる。
「そう、か……」
体の奥底から、黒い何かが湧き上がってくる。
今までの屈辱。嘲笑。そして裏切り。
「美月……みんな……」
俺の口元が、歪んだ笑みを形作る。
「後悔させてやる」
月曜日、俺は学園に戻った。
教室に入ると、美月がいた。
彼女は俺を見て、一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに泣き顔を作った。
「零君!良かった、無事だったのね!あなたがモンスターに襲われて、私……」
「嘘つき」
俺の冷たい声に、美月の表情が凍りつく。
「な、何を……」
「もういい。お前の演技にはうんざりだ」
教室がざわつく。
「氷室、何言ってんだ?天野さんが心配してくれたんだぞ」
クラスメイトの一人――炎使いのAランク、桜井が俺に詰め寄る。
「桜井、お前、確か俺のこと『役立たず』って呼んでたよな」
「はあ?何だよ急に」
「実戦で証明してやるよ。俺が役立たずかどうか」
その日の実技訓練。
俺は桜井に決闘を申し込んだ。
教師は驚いたが、能力者の世界では実力が全て。
申し込まれた決闘を断ることは、臆病者の証だ。
桜井は余裕の笑みで承諾した。
「後悔すんなよ、氷室」
訓練場に二人で立つ。
桜井の手に炎が灯る。Aランク炎使いの力――温度は優に二千度を超える。
「消し炭にしてやる!」
火球が飛来する。
俺は避けない。代わりに――
「硬化」
アーマービーストから得た能力。俺の体が鋼鉄の硬度を持つ。
炎が直撃するが、傷一つつかない。
「な、に……!?」
桜井の驚愕する顔。
俺は一気に距離を詰める。強化された筋力で、人間離れした速度だ。
「吸収」
桜井の体に手を触れた瞬間、黒い霧が彼を包む。
「ぎゃああああああ!」
桜井が地面に倒れる。気絶しただけだ――能力だけを奪った。
だけど、二度とこいつは目覚めないだろう。
俺の手に、赤い炎が灯る。
「これで、二つ目」
周囲が騒然となる。
「氷室が……桜井に勝った……?」
「嘘だろ、Eランクだぞ!?」
その日を境に、俺は学園の強者たちに次々と挑戦状を叩きつけた。
雷使いのBランク、風使いのAランク、氷使いのSランク。
全員を倒し、全ての能力を吸収した。
俺の中に、五つ、六つ、七つと能力が蓄積されていく。
そして、戦ううちに全ての能力を同時に使えることも判明した。
炎と雷を同時に放つ。氷で防御しながら風で攻撃する。
俺は、最強になっていった。
全てを倒し終えた時、美月が俺の前に現れた。
「零君……」
彼女の顔は青ざめていた。
「お願い、許して。私が間違ってた」
「今さら?」
「あなたがこんなに強かったなんて……知らなかったの」
美月が涙を流す。でも、その涙すら嘘に見えた。
「精神操作で俺を操ろうとしてるんだろ?無駄だよ」
俺が吸収したCランクモンスターの一つに、精神耐性を持つものがいた。
美月の能力は効かない。
「そんな……」
「美月、お前はずっと俺を利用してた。『優しい美月』を演じて、周りの評価を上げるためにね」
「違う、私は……」
「お前がダンジョンで言ったこと、全部本心だろ。今になって擦り寄ってきても遅い」
俺は背を向けた。
「これで終わりだ。二度と俺に近づくな」
「零君!!」
美月の叫びが背中に届く。
でも、もう何も感じなかった。
復讐を終えた俺は、学園の屋上にいた。
「やり遂げたようだな、氷室」
声をかけてきたのは、担任の黒崎先生だった。
「先生……」
「私は最初から知っていたよ。君の能力の本質を」
「え……」
「『吸収』――倒した敵の能力を奪う力。歴史上、数百年に一度現れる最強にして…最凶の能力だ」
黒崎先生が俺の隣に立つ。
「でも先生、俺は……」
「復讐に生きたか?」
図星だった。
「空虚だろう。復讐を終えた今、何も残っていない」
その通りだった。強くなった。復讐も果たした。
でも、心は何も満たされていない。
「先生、俺はこれからどうすれば……」
「それは君が決めることだ。ただ、一つ言えるのは――」
黒崎先生が空を見上げる。
「君の力は、復讐のためだけにあるんじゃない。本当の敵は、まだ現れていないんだから」
「本当の敵……?」
「ああ。この世界には、まだ君が知らない闇がある。モンスターがなぜ現れたのか。能力者がなぜ生まれたのか。その真実を知る時が来る」
遠くの空に、黒い裂け目が見えた。新しいダンジョンの出現の合図だ。
「零、お前の戦いはこれからだ。過去に囚われるな。前を向け」
黒崎先生の言葉に、俺は少しだけ救われた気がした。
「はい」
俺は拳を握りしめる。
復讐は終わった。でも、俺の物語は始まったばかりだ。
吸収した七つの能力を感じながら、俺は新しい戦いへと歩き出す。
もう弱者じゃない。
氷室零――最強の能力コレクターとして。
つづく…かも…?




