あるがまま、君のために
夜、ヴァイオリンの稽古から帰る途中だった。
しかし気づくと私は、噴水の前に立っていた。
世界は陽の光に、明るく照らし出されている。
そして……噴水では知らない曲を歌う女性が、悲しい歌をうたっていた。
しかし彼女の前を、人が横切った時、異変に気づく。
皆、まるで映画の中の人々や風景のように、私と生きている時代が違う。
――どうして?
そう思った時、
「ちれー! 公衆の面前で何をやっているのか!」
その声と共に兵士が、大勢集まってくる。
人々は戸惑い逃げ、危うく潰されそうになる。
「こっちだ!」
いきなり手がのびて来て、その温かく、少しだけかたい手に掴まり逃げた。
石畳の街を、目の前の男の子の金の髪が跳ねる事、それを見つめ目を反らせない。
息をきらせて走って逃げているのに、不思議だった……。
「ここから歩いて」
そこは、私たちは市場の様な場所を歩いている。
すぐそばの店では、赤や黄色のプチトマトが木箱に並べられ、その隣にピーマンが、写真で見たか外国の市場の様に、潰れない程度の気遣いでただ並んでいる。
「ここはどこなのですか?」
「長い話しはこの後で」
そう言うと、彼はふたたび黙った。
ブラウスとズボンなのだけれど襟のまわりに、レースがきれいに、フリルをつくっている。たぶんこの世界の住人なんだろうが、そのその衣装は、手の込んだ作りになっている。よく見ると、この市民的な場所で、彼も異質で、謎だった。
そして彼が連れて来てくれた場所は、池に置かれているベンチ。
謎の世界で、暗がりに連れて行かれたら逃げようという考えは、今のところ早合点だったようだ。
「君は異世界の人間かい?」
肩のあたりまである金の髪、それが彼の目をもおおっている。
鼓動は走って来たからだろう、早く脈打っている……。
「はい、たぶん……ここは何もかもがもと居た世界と違います」
「では、君、自身の違ったところは?」
「待ってください。私は斎藤 伊久見です。あの……貴方はなんて名前?」
「ヴォルフだ」
ヴォルフと名乗った青年は、私と同じ高校生ほどの年齢に見えた。
けれど、何か違う。その理由がわからなくてもどかしい。
「でも、違ったところって……」
「ここへ来る前に女神に会ってはいないのか?」
「いえ……、気付いたら噴水のまえに」
「へぇー」
彼は少し、悪戯をする前の子どもの様に笑った。
「まぁ、いい確認してくれ」
立ち、池まで行って全身を眺められる場所を見つけたが、変わった様子は見られなかった。
「じゃーこっちは?」
私の様子に変化はないと、わかったのだろう。今度は私のヴァイオリンのケースを指さしている。
「まだ……練習の途中なんですよね……」
「いいから、見せるんだ」
ふんぞり返ってはいない。凄く整った姿勢だったけど、言っている事は横柄だ。
ヴァイオリンケースから、ヴァイオリンを出して見せてみる。
アルバイトのお金を貯めて買った、ヴァイオリンにしては、手ごろな価格の私のヴァイオリン。けれど、やはり少しだけ自慢げにそれを出した。
「見た目も変わりませんよ」
「弾いてみてくれ」
「ええ、わかりました。先生」
私は目の前の不思議な彼のために、ヴァイオリンを弾く。
観客の彼は、ベンチへと座った。その彼のため、今、習っている曲ではなく、先生に合格を貰った曲を弾いてみた。
きれいな湖ではなく、池だけれど、そこできれいな男の子の前で弾くのは憧れを通り越して、間違わないか、緊張の連続だ。
なのに、なのに……。
「上手くないし、そのヴァイオリンも安物か……」
「安物じゃありません! これは大切ものです」
彼の言った真実に、私は怒りをぶつけるよう言い放つ。
そして彼の座るベンチへ、彼から距離を取り座った。
口をつっんと尖らせて、前を見る。
しかし目の前は湖ではないが、水も澄んで美しい。
小鳥は私の足元で、チチッと愛らしく鳴いている。
ーーなんで、私はこんなきれいな場所で怒っているんだろう。
そんな私は彼を見た。彼は私の顔を、チラッと覗き見る。
「あっ」
ヴォルフは小さく声をあげる。
謝るまで、許しませんよ。そう思って私は見ていたのに、彼のばつの悪そうな顔をみて、私は手で口元を慌てて隠す。
でも、その手の中では、ふふふっと口角を上げて笑ってしまう。
「すまない、謝るよ。もう一度聞かせくれるか?」
彼は前に向き直り、そう、こちらを見ずに言ったので、駄目です! やり直し! こっちを見て言ってください! って……。
「…………」
彼は可哀想なワンちゃんのように、チラッっとこちらを見た。
私は、ベンチから立ち上がり、池の前に立ち礼をする。
そして……奏でる。
――えぇ――!? 最初の音が、私を連れていく。
素晴らしいメロディーを、私の大切な御手頃のヴァイオリンが奏でていく。
色とりどりの音が、浮かんで消える。
音の中をジャンプして、
――飛んだ。
そして波紋の上、落ちるべき場所へ辿り着いた。
パチパチと、ヴォルフが拍手する。
「なんで…………」
そういって、地べたへ座りこんだ……。
「これ、ストラディバリウスになっているよ」
「なんで!?」
「君を、女神がこの世界へと連れて来たからだよ」
「だから、会ってない!」
でも、ストラディバリウス……。あの?
「……もう、立てる?」
彼はいつの間にか、私の前に立っていて、私の前に座りこんだ。
金色の髪の下には、神秘的なエメラルドの瞳と、きれいな顔が隠れていた。
「……立てます」
そして私達はベンチに、並んで座る
距離は……、今はちょっと見る事が出来ない。緊張しているから……。
「ストラディバリウスってこの世界に、ストラディバリが居るのですか?」
「何処の世界にも、天才って言われる人はいるよ」
「…………ストラディバリを知ってますか?」
「知らない。誰だい?」
「このヴァイオリンの名前は?」
「ストラディバリウスだろ?」
「ではストラディバリウスを作ったのは?」
彼は名前を言ったが、聞きとれなかった。そして彼は、私の様子を心配している。
――まっ、いいか。
私はストラディバリウスになってしまった。私のヴァイオリンを手に持った。
それは私のヴァイオリンとは作りが大幅に違う。
新しさとか、使われている素材の表面の風合い、気付かないところで、もっと違いがあるのかもしれない。
「これは私のヴァイオリンと、全然違います。」
「それなら……君には心当たりがないかもしれないが、しかし君は女神の使わした人物に、間違いないようだ。歓迎するよ我が城に!」
「我が城ですか? 王様なの?」
そう言われればだけれど、伸びたまっすぐな背筋、細部に隠されているようだが、贅沢な素材と手の加えられたあと彼が王族と名乗りをあげても違和感はない。
けれど、私の感じた違和感がそこにあるとは思えなかった。懐かしさ、目が離せない気持ち。だが、それは微かの思いで、私の心の内へとすぐに消えて行く。
「王族である、マムリート家の長男のヴォルフです」
彼は立ち上がり、目の前で右手を上げ、左手に流して、お辞儀をする。
――指先まできれい! 私もヴァイオリンの発表会へ出る機会があればやりたい! 先生に怒られるかしら?
「斎藤伊久見です。よろしくお願いします」
そして頭をペコペコと下げた。先ほどと凄い違いだった。
「では、我が城へ」
「それはいやです」
そう、転移者は高確率で、義務が付きまとい、不幸になる。
ーー私調べだった。
そう言うわけで、ヴォルフ王子様の婆やという、ナターシャさんの家に住み込むことが決定権したのだった。
郊外に建てられた、ナターシャさんの家は、執事もメイドもいる凄くちゃんといしているお屋敷。
そこへある日、最初の先生であるヴァイオリンの先生がやって来た。
しかし私のヴァイオリンについては、あの日の内にお手頃なヴァイオリンになっていたけれど……。
◇◇◇◇
そしてなぜか、どんどんいろんな科目の先生が増えていく毎日の中で、ある日いきなりヴォルフ王子様とともに、ドレスが届けられた。
この国の母国語の勉強の後に、ナターシャさんに「ヴォルフ殿下がお見えになっておりますよ」
「わぁーこれ何ですか?」
ハンガーにかけられた赤や青や黒の数多くの様々なドレス。
普段使いのものや、パーティー用や、冠婚葬祭用、そんなドレスと王子様の衣装を身につけたヴォルフが立っていた。
彼が今日届いた衣装を着たら、きっと似合うだろう。王子の彼はわりと男女の枠を超えて綺麗な顔をしているし。
けれども、そのきれいな顔は、いまだに金の髪に大部分が隠されている。
「君のドレスだよ。君はナターシャさんの娘さんのドレスを着ているそうじゃないか? 彼女には確か12才の息子さんがいるはずだよ」
「実は、どれも大事に取ってあって、着る分には申し分ないのですが……」
そう言った時、身につけていたドレスが光、輝きだした。
そしてシフォン生地や真珠が数多く使われた、持ち味を引き出すような、淡い初恋を表現したような、甘さのある上品なドレスに変わってしまった。
なんだか甘い香りまで、薫る気がする。
「なぜ?」
まるでシンデレラへ降り注いだ魔法が、私の着ていたドレスにも降り注いだような出来事に、ヴォルフと、二人で顔を見合わせた。
「あのドレスに触れて、言ってみてくれないか?」
しばらく経つと彼が指さしたのは、彼の後ろに並んでいる、彼と一緒にやって来たドレスたちだった。
「えっと……」
「実はどれも大事に取ってあって、着る分には申し分ないのですが……だよ」
「凄い、全て覚えているんですね」
そう、偶然に金髪の間から見えている、目に向かって言うと、彼はそっぽ向いてしまった。
――人見知り? 恥ずかしがり屋? どれだろう?
そんなことを考えつつ、ドレスまで歩いて行った。
「こんなに素敵ならドレスたちなら、これ以上美しくならないのでは?」
「いいから、やってくれないか?」
こっちを見られもしないのに、ヴォルフは威張って言った。
――口が悪いのはしょうがないけど、それはないんじゃない? ピカピカの王子にしちゃいますよ!
しかしこの生活が出来ているのは、彼のおかげだった。
そして私も自分の力について気になった。だから素直に従うことにする。
私が手にしたドレスは、ピンクの美しく光る絹の生地、宝石はついてないが、デザインも私たちの世界の世界でも可愛いと言える。
「実はどれも大丈夫に取ってあって、着る分には申し分ないのですが」
「変わってますか?」
「いや、変わってない」
彼は長椅子のソファに座り考える。私はその横に座った。
「きっかけはなんだろう?」
「あの日みたいですね」
「えっ? ああ、まぁ……」
彼の白い肌に、少しだけ赤みがさすした。
照れ屋さんなのか……、それならきれいな顔を隠すのもわかる。
きれいだから見られて、いやになるものなのかも? あるいはその逆かもしれない? 美醜は思い込みで、歪まれてしまうって言うし。
「あの日、ヴォルフ王子が私のヴァイオリンを安物って、今日もドレスもちょっとあまり良く言わなかったので、私の中の反逆精神に火が灯ったのでしょうか?」
「君のギフト発動するほどのことか?」
「夏休みアルバイトして、買った大切なものですよ」
ポォフ!
私たちの座っていたソファの、クッションの中へと沈みこんだ。
慌てて二人とも立ち上がり、クッションを押した。
「ふわふわ~、でも、ある程度の所で低反発の固めのクッションで沈み込まないようになってますね」
「その前にデザインから変わっている」
「ソファの素材は光らないのですねー。光るソファって落ち着けないからでしょうか? けど……、ギフトの発動条件、これは反逆心で当たりかもしれませんね?」
そう言って私は、ふかふかなソファへ腰かけた。
そして彼も隣へ座る。
彼が座ると、グッっとソファが沈んで、クックッと笑い、緊張があっためが、いつも以上にアハハハとまで笑っていた。
そして……笑いがおさまると、彼と私は視線を合わせ、クスッと笑った。
ゴホン!、ヴォルフは咳払いをして、また原因を探すために静かに話始める。
ーーそういうところは、王子様なだけあって、しっかりしているなぁー。少し横暴な口調が玉に瑕だけど、真剣だったり真面目だからかもしれない。
「反逆心がわくほど、大切とか、大事とかどれかに、引っ掛かりがあるようだね」
「では、片っ端から検証していきましょう!」
「いや、僕は忙しい合間に来たから、そこまで時間は取れない」
「えっ、わざわざありがとうございます。辞退するべきかもしれませんが、……やっぱり知り合いというか、数少ない友達と会えるのは嬉しいので、また来てほしかったりします。でも、無理はなさらないでくださいね……」
そう言っている私はどんな顔をしているのかな? こんな素敵な家へ住ませて貰いながら、不安を表す表情をしていないだろうか?
「…………僕もここへ連れて来た責任もあるから、都合のつく限り来るようにする」
「本当ですか!」
そう言って彼の方を向くと、やはり赤い顔をしているので、ゆっくり私も顔を前に向ける。
――そんなに赤い顔されると、こっちが意識しちゃうでしょう……。
なんだか、顔が熱くて下を向いてしまう。これではいけないと思えば、鼓動は早くなり、ただソファのひざの横の角を握って黙り込むだけだった。
廊下の足音が響き、誰かがこちらへの方向へやってくる。
その音だけがこの部屋へと響きわたった。
バタン!
「どう? 二人ともドレス気にいって?」
そう、その音と声で部屋の中の時間は動き出す。
「ナターシャさん! はいどれも素敵なものばかりです。ですが、私のギフト? について少しわかったことがあったんですよ」
「私は」
ヴォルフが立ち上がった時、彼へ私たちの視線は集まった。
「私は……帰ることにするよ……。言われていた時間が、越えてしまったからね」
「ヴォルフ王子様、今日はありがとうございました。そのお気遣い永久に忘れることはないでしょう」
真剣に彼の目を見る。本当に嬉しかったから、顔をそらしたら負けだ。
「手が空いたらまた来る。永久にとかは辞めてくれ、友達にそうかしこまれるのは嫌いだ」
そう言って、赤い顔をして帰って行った。
「まぁ~仲の良い」
「彼とは親友なのです! 私がそう思っているだけですが」
「あらまぁ……」
――あらまぁ? 王族と親友はおかしいのかもしれない。我が王? それについては、今後おいおいと考えて行こう。
◇◇◇◇
そして次に会った時、彼は思い詰めた顔で言った。
「私にあのギフトをかけてくれ」
再開後、家庭教師の先生のギフトについて説明し、仮説を立てて検証していった。
すると、キーワードについて『大事、大切、大好きなど』が該当することがわかった。
そして条件付けがあり『大事、大切、大好きなど』な気持ちこもったアイテム、そして私の気持ちが大きく関わるようだ。
それは付喪神になり替わることに、よく似ていた。
そしてなぜか、付喪神もここでは通じたようだ。
なんか凄い間があった後、「そうなのね」って言われたから、こちらの言語では私は凄く話していたのかもしれない。
「なぜですか? さすがに人間や動物に私の力を使うのは禁止されました」
「私はお飾りの王になるかもしれないからだ。私は姿かたちだけ褒め称えられはするが、それ以外の事は2の次なのだ。もしかしたらそんな私は、見切りをつけているのかも? 優れた妹が生まれてからはそう思わずにいられないのだ」
「妹さんおいくつですか?」
「7つだ」
「7つ!? 七五三ですか!」
「そうだ……。私にない人々を和ませる力が妹にはある。だが、王位継承第一位の位置にいる私は、そう弱音を吐けるものではなく。お前にだけ言える事だ……」
彼の表情に影が差し、目のクマに顔色さえ悪い。
「ヴォルフ、でも、残念ですが、私のギフトでは貴方の期待してる完璧な答えは出ませんよ」
「なぜだ?」
「知り合って間もないわたしも、貴方は大切な友です。それならご家族親戚、貴方を守る兵士の皆さんも、貴方の事が大切なはずです。皆、今のままでも、これからも、ヴォルフは十分だと思うはずです。素晴らしい貴方は、可能性と変化をもって、いつでも悩み前に進む貴方だと思っているはずです。ね、意味ないでしょう?」
「なら、なおさら見てみたい君の授けたギフトが、俺をどんな姿にするかを、もしかしたら俺の中の最高の時や可能性を映し出すかもしれない。その姿を見れば……、私の目指すべき未来がわかる。その俺に私も近づけるようにこれからも努力をしょう」
「だめです。生命のあるものに使うことは、先生たち絶対禁止されました」
「じゃー君は、一生好きな相手の手を取り、大切とも、大事とも伝えないつもりか?」
「それはずるくないですか? それは一番言われたくなかったことなのに!」
「だから、そのテストに手伝ってやると言うんだ」
そう言って彼は手袋を脱いで、私の両手を取った。
またまた、ずるいことに、たまたまなのか、前髪からエメラルドの瞳が両方のぞいている。
「こんな状態ずるいです!」
「いいから、早く!」
――こいつ……。
「貴方が大切で大事で、大好きです」
凄く心臓が苦しく、どうにかなりそうで、目の前のヴォルフはトマトだった。
きっと私もトマト。
そんなトマトのヴォルフの王子は、前髪が切られ、エメラルドの目が輝きとても綺麗。
「私は変わったのか?」
「ヴォルフ、貴方は……、いえ、鏡はあちらです」
それだけ言ってクッションを持って、ソファへ座った。
「髪が整えられている。爪もだが光、輝いている。なんだか疲れもとれている気がするよ。驚いた」
「良かったですね」
「ああ、だが、人間自体だ発光するとかはないのだな」
そう言った彼も、私の隣に座る。
「発光する人間はちょっと、先生の話だと万人向けの美が良しとされるようです。言われて嫌かもしれませんが、ヴォルフはそのままで理想の王子のスタイルに当てはまるので、顔の好みの流行によって、顔の変化は絶対にないとは言い切れませんが」
「伊久見はどう思ってるんだ? 君の感想が聞きたい」
「ちょっ、近いです! 前髪が切られた今は、一般人にはヴォルフは、尊すぎますから、あまりこちらへ来ては困ります」
「私は、私だ中身は変わってない。外側も前髪を切った程度だ」
「そうですね。でも、大切で、大事で大好きって言った後ですよ。ヴォルフは恥ずかしがり屋だからわかってくれますよね?」
「伊久見、大切で、大事で大好きだ」
「えっ? あ……?」
「多分、私はいつもよりは賢くもなっている。だからわかる。君が居れば、私は理想の私になれる事ができる、そういう確信があるんだ。だから王宮へ来て欲しい。少し未来に悲観的な友を君は助けてくれるよな?」
「また、ずるい言い方を……。それなら……王宮へお供します。今の私は普通の私なのでまず、そこから私たちは始めましょう」
「心得た……」
「だから、まだキスしようとするのはやめてください。ちょっと……」
「ははは」
そう言って、素晴らしくなったヴォルフは笑った。
◇◇◇◇
そして私は王宮離れの離宮で暮らすことになった。
王宮でヴォルフは相変わらず、忙しいようでなかなか二人は会うことはない。
しかし一番、最初王宮で会った時は、前髪をすっきりと切った彼はトマトになり、
「君が大切で、大事で大好きだ」と、だけ言って光の速さで、どこかへ行ってしまった。
そしてそんな彼を思い、時々、私はヴァイオリンを弾く。
それはストラディバリウスにはしてないが、結構ましな音色を奏でるようになって来た。
終わり
見ていただきありがとうございます。
またどこまで。




