異世界へに転生する前に会う☆女神系アイドルがライブハウスに降臨
ある日、両親が営むライブハウスに、ひらひら衣裳を身につけた、女神系アイドルがやって来た。
「こんにちは! 女神系アイドル☆皆藤メアです!」
「えっ? 誰かに許可を貰ってますか? ここの経営者の息子なんですが……俺」
その時の俺は両親に金を掴まされ、パソコンのセットアップを行っていた最中だったのだが……。
「キャッ」
「えっ?」
転びかけた彼女を、僕はなんとか受け止めた。
彼女は羽根の様に軽く、とても爽やかな香り。
――パシュッ、そんな、音というには小さな音が、PCから聞こえたのは、それと同時くらいだった。
「パシッ?」
彼女からひとまず手を離し、PCの画面へと戻る。
画面はの中は漆黒の闇が支配し、キーボードを押しても反応がない。
胸の中に、確信と言う名の闇が広がる。
重い足取りで、パソコンの本体の前に行くも、光がない。そして彼女のもとへ戻ると、足元の電源コードは抜けていた。
僕は思わず、頭を抱え自分の髪を掴む。
――これどうすんの? ダメージはあるが、ギリ大丈夫の範囲のはず……なのか?
「あのーアイドルさん!」
「こんにちは! 女神系アイドル☆皆藤メアです」
彼女は手を膝の上に置き、しおらしく立っている。
『立った姿は百合の花……』
頭のどこかで、そんな呟きをしてしまう。
しかしそれはそれで、コンセントを指さし「このコン……」「応援ありがとう、皆藤メアです☆」
彼女は指さしていたはずのその手を、両手で、包み込むようにして握手する。
その華奢な手は、僕のささくれた心を……包み込むように温かい……。
「メアさん……、頑張ってください」
「はい、頑張りますね」
そう僕は自然に言っていた。
彼女は光り輝くアイドルの笑顔で、ピースサインをする。
きっと皆藤メア、彼女なら、光輝くアイドルの頂点になれるかもしれない……。
そんな彼女から貰った輝きが、僕の胸に宿る。
そしてPCの画面にも光が宿った! 実質的にはこちらの方が嬉しかった。
「あの……」
「はい、あーPCの……あれ? ネット回線がつながっていない?」
回線がつながっていませんと、警告が画面の端に小さく出ていた。
「あっ、ちょっと待ってくださいね!」
「えっ?、はい」
光回線については今まで通りのものを、つなげばいいだけなのに、おかしい?
「女神回線、直通成功です!」
……その言葉とともに、いきなり回線の不通のお知らせは消えた。
「えっ?」
今度は違う決めポーズをする彼女を見ても、今度は僕の戸惑いは、なおも消え去らない。と、いうか新しく不安の要素が増えた!?
でも、それに対抗するように、アイドルとしての彼女は、暖かなオーラみたいなものを体中から発して立っている。
僕の胸の中のもやもやした闇を、打ち消すように……。
「では、神託です。女神の意思です。私ともに異世界のスターになりましよう」
そしてなんかやたら神々しい彼女は、うちの窓を指さした。
なんか、指の先がキラーン! と、光る。
「どういう演出ですか? LEDですか?」
僕の気が抜けた、その声を聞いてもなおも、指先は光り輝き、そんなメカニックな指の示す場所には、うちの開かずの窓があった。
申し訳程度の引っ掛けてある、ぶっ壊れているブラインドからは、外からの光が漏れ出て、少し暗い事務所の床に光の影をつくっている。
「えっ? あそこ、すぐ隣の家の壁じゃなかったですか?」
――なんで! こっちもLED ?!
「えっ? ちょっと待って、ちょと……!」
声は、自然と荒げてしまっていた。
「どうですかー?」
アイドルの可愛さの萌え萌えキュンな声を聞きながら、確認のためブラインドの内側を覗き込むと、そこには牧歌的な風景が広がっていた。
青空と、牛たちと緑、うちの外は牛乳パックのラベルの風景。
それが窓の世界だった。
僕は慌てて、天才手品師系アイドルに問いかける。
「せめて町中で、会えるアイドルでいてくださいよ! うちはこんなのどかな土地に、人を呼ぶだけの、力は全然ないですよ」
これでうちライブハウスもう、死に体? せめて、電車で上り、下り5駅区間づつの音楽業界を引っ張るライブハウスで居て欲しかったのに!!!!!!
これでは学費は見込めないかもしれない……。
だが、まあAIだろう。凄いらしいし。
「では、皆藤メアさん、そろそろ夢から覚めるか、うちの窓を勝手に改造したのを戻して貰っていいですか?」
「店長さん、アイドルは夢を見せるのが、お仕事なんですよ。一緒に王都の宮殿を目指しましよう!」
「え……あ……聞いて貰えてません?……。まず、店長の息子で、学生です。プロデューサーを探すか、宮殿スタートして貰えません?」
「自分の力だけで、アイドルとして輝きたいのです!」
「僕抜きで、頑張ってください」
「それじゃ……アイドルになりたいのか、ライブハウス経営したいのかわからなくなっちゃう……」
彼女は人差し指どうしをツンツンさせながら、少しだけ唇をとんがらせる。
――うん、可愛い! ……せめて、余計な力を使わず、うちを輝かせて欲しかった。
「とりあえず、うちに何やったんですか?」
hey、とかいろいろ呼びかけるが、窓は牧歌的風景をただ流していた。
もしかして、動画系だろうか?
そしてかみ合わないアイドルの事は、しばし置いといて、うちの裏口を開けた。
そこでも牧歌的な風景は続く。だが家はあった。
ヨーロッパな三角な屋根や、石壁の城、こつちは三角な塔までついている。
そう……うちに来たアイドルのせいで、『ようこそライブハウスさん、異世界へ』だったようだ。
わけわからんのは、今始まったことではないので、とりあえず置いておく。
ちなみに客用入り口も異世界だった。
僕はそこで、全てを諦め、メアさんに言って聞かせた。
「メアさん、貴方はアイドルです! 私どもの飯の種です! 今晩の晩御飯、宜しくお願いします」
「任せてください!」
そう彼女は言うと、彼女は出かけ言った。
その夜、彼女は赤く、熟れ頃だが、残念なことに少しだけ甘みの足りない、林檎を沢山持って帰ってきた。
「おばあちゃんが林檎を落としたので、拾ったら、林檎をいっぱいくれたんですよ!」
そう彼女はとても無邪気な子供のような笑顔で言った。
彼女はそんな笑顔も出来るんだ。きっと彼女なら一番星みたいなアイドルになれる。
だから、俺を現実に戻してくれー! そう枕に少しだけ、涙の跡を残し眠ることになる。
――――――そして次の日、やっぱ――異世界か――知ってた――!!――――
調査した結果、王族の直下の農場内に移転していたことがわかった。
アイドルなのに、アイドル業で稼げない……気配濃厚女神。
その諸悪の根源とともにライブハウスから飛び出した!
◇◇◇◇
そしてアイドルと僕は、王都の町中の噴水前へと移動したのだった。
正直、うちのライブハウスが、現地の人々からどういう扱いになっているか、それを忘れるためにも僕も噴水へやってきたのだが……やはり変な恰好の僕らによって来ない。
けれど、噴水で歌う彼女の姿。一生懸命で、振り付け、歌もバッチリ。そして笑顔がぴかいち。
しかしここは異世界。アイドルの歌はまだ早いようだった……。
彼女の前で、人は止まらず、通り過ぎる。
きっと客席、もとい、街を行きかう人々はメアからの方が良く見えるだろう。
自分に関心を示さず、行ってしまう人々。
普通なら……心が折れるはずだ、だか彼女の歌と、笑顔は、色あせることは無かった。
曲の合間に、メアは水を飲む。
……だが、それ、俺が机に置いといた俺の水じゃね? 何で飲んでいいと思ったの?
「はぁ、店長さん……」
「の、息子です。実は透って言うんですよー」
「じゃー透さん」
「はい、じゃー要らないですけどね。何ですか?」
「私、まだ、まだですかねー?」
「とっちかというと、異世界の文明が、まだまだでしょう。魔法使っていたので、文化的に、僕らの未来に交わるかはわかりませんけどね」
「そうか……悔しいなぁ……。絶対、文明開花させたい……」
そう言い、腕を彼女の顔の上へと置く。
――もしかして、皆藤メアは泣いているのだろか……?
ちょっとだけでいい、それで反省して欲しい。
僕は寝る前に我に返り、枕を投げられたが、めちゃめちゃ帰りましょうと説得していたのに、長時間。
晴れやかに起きやがって、聞いてなかっただろう!
「ダメ! ぺリー召喚の呪文が思い出せない。大事な時なのに……」
そして彼女は僕の水を、グビグビ飲んだ。
――ブチッと、幻の音がする。堪忍袋が切れた音。
「取りあえず、この機材を守るための、この赤い布をマントみたいに被って、その衣裳を隠します。そしてこの王国の昔から伝わる童謡か、歌をうたって、振り付け禁止で!」
「えっ、いやだ!」
「いや、じゃない! 輝くアイドルだろう!!!」
「私、やるよ! 輝くアイドルだもん!!」
――ちょろイン……。これ、アイドルだから顔を売るために、ギルドで受付して来ても、もしかして、S級冒険者もやるんじゃないだろうか? 配信系世界であってくれ!
そんな真っ当なことを僕が考えているまに、さすが女神! 歌は旨い! お金がどんどん集まりだす。
適当にあったクッキーの缶の箱に、次から次へとお金がチャリン、チャリンと音をたてて入って行く。
そして人々は集まり、ちょっとした人だかりとなる。
人々は曲に聞きほれ、時には目頭を押さえ、涙を拭う人まで出てきた。
――これはいける! しかしいっぱい客が来て、さばけねー!
ここは大切なお金だけでも、取られないように全力で守らなければならない!
皆藤メアは女神だ! きっと不審人物は自分で、裁きのいかずちでも、喰らわすはずである。
そして人々をさばかず、群衆の集まりのなかで……屈強な兵士も集まってきた。
「ちれー! 公衆の面前で何をやっているのか! ちれ――!」
彼らは声を張り上げ、怒鳴る。メアとどっこい、どっこいの声量だった。
「ここで何か行う、許可を得ているのか?」
そう僕に声を張り上げて問いかける。
「なんで俺!?」
そう奇天烈な恰好であるのは認めるが、なぜ俺?
「はい! 王様からの許可を頂いております。そして王様への芸能を披露する許可も頂いております!」
俺と兵士の間を割って、メアが顔を出す。そこに、目を疑うほどにちゃんとした証文が出て来た時、僕は手に汗を握った。
――これで無双が出来る……。なんでもありのイベントが来た。
しかし余計、うちのライブハウスはいらないでしょう?
出て来た書類は2枚、「こちらがこの場の使用許可書、こちらが本日正午からの謁見許可書でございます」
冷たく、重くなったクッキー缶を抱きしめる。
彼女と兵士のリアクションを見るたびに、ジャラジャラと、それは音をだす。
静かに……背中に冷たい汗が流れるが、暑さのせいではないだろう。
証文は金の縁取りがされ、読めない文字で書かれ、押し印さえついている。
不法占拠と書類の偽造は終わっているが、これは世界の危機にまつわる。
大切なイベントなんだ。知らないけど。
皆藤メアは、にこにこ笑っている。
書類を見ている兵士の、隣の兵士は顔を赤らめ彼女を見るに見れないようだ。
あいつはいい常連客になってくれるはず。
女神だから結局助かるんだろうな……と、いう思いはあった。
それでも胸の中の不安は、ふたたび僕を捉えようとしていた。
そして僕らは引っ立てられる。
「正午の予定ならなぜ、こんな場所で、悠長に何をやっておるのだ!?」
「それに女! 王の御前に出るのに、足をそんなに出して、不敬で捕まりたいのか!?」
兵士たちは僕らを引っ立てる最中にも、罵声を浴びせて来る。
だが、王の印の効果は、すさまじいようで、僕らは王の前に引っ立てられた!
――城の警備ザルじゃない?
「メア、何か作戦はあるのか?」
聞こえるか、聞こえないかギリギリで、僕は彼女に問いかける。
「まかせて作戦はあるわ」
彼女は自信あり気に口角をあげる。それだけの事で、僕は安堵し、何とか平常心で居られた。
そして彼女はオーケストラに楽譜まで渡し、王の前にほわふわのステージ衣装で躍り出た。
彼女の歌に、まわりは戸惑いの色を顔に浮かべては、王の真剣な表情を見て、顔を隠す様に下を向く。
その時だった!
王の椅子の後ろに隠れていた。
女の子、お姫様であってほしい彼女が、手を叩いて喜び出て来た。
金髪のふわふわ毛に、ピンクのドレスのそんな女の子を、王様はつかまえる。
「姫や、あの者の歌が気に行ったのか?」
「はぁーぃ!」
女の子は手を叩いて喜んでいる。天使……、天使に萌え萌えキュン!
だから、俺たちを無罪にしてー!?
女の子を抱っこして、ふたたび王様は王座に座った。
「いいだろう。サラがお前を気にったようだ。サラ専属の吟遊詩人に任命しよう!」
「えぇー私は、アイド……」
「ありがたき幸せでございます。御前にて、歌を披露したことによる緊張の為、うちの看板娘は、今、しばらく話すことが出来ない事をお許しください」
「よし、許す」
コート代わりに着ていた、保護用布を口に巻きつけ、断罪はまぬがれた!!
「ありがたき幸せ」
そこで深く、深く、不敬と取られない程度に頭を下げ、その場から退場する。
その後、馬車に乗せられ、見たことのない金貨を手に入れる。
「メア、お姫様のことを知っていたなんて、さすが国民的アイドル見目があるなぁ」
「そうね。あの子はすごーーーーく、見る目がある。でも、この世の贅沢を知り尽くした王様なら、私のアイドル魂に気づいてくれると思ったのに、やはり王様にはまだ早いのね」
「そうかも……」
100年単位で先の未来が必要だけどな。
そしてコンサートは上手く行き、城の中庭でサラ様の前でのみ、歌う事をゆるさた。
衣装はメアリー様とお揃いのお姫様ドレス。
完全に子守り係になっていて、メイドか、乳母か、道化師かって感じである。
しかし今日も女神系アイドル、皆藤メアは、「握手会付、アイドルコンサートをお姫様のご学友を沢山のお茶会でやりたいなぁ~萌え萌えきゅ~ん」
そう言って、メイド達と、サラ様の乳母を困らせているのだった。
終わり
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