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雪女は荒野に笑う シナリオ版

バンダナコミック01応募用。

文章内でできるだけ説明していますが、応募用以外に読者様向けに世界設定、細かいキャラ設定はあらすじに置きました。イメージが湧かなかった方はそちらを参考にしてください。

シナリオという書き方がわからず見様見真似ですみません。

よろしくお願いします。

 荒野に続く町外れあたり。夜。

 大通りをたまにヘッドライトを付けたドローン車が人を乗せて通る。

 その灯りを避けるように、薄汚れた白いマントを着た赤い髪の少女[ミア]が駆け抜け、裏路地に走り込む。

 身を縮めて路地裏のコンテナの裏にしゃがみ込んだミアは、肩口を掠めた車のヘッドライトに、膝を抱え込むようにしてより一層身を縮める。

 エアコン室外機の熱気、ポタポタ垂れる水。

ミア(以下ミ)「のど……かわいた……、でも……」

 脳内にフラッシュバックする光景。

 叫ぶ子ども。血を吐く子ども。倒れる子どもたち。

ミ「……あそこには……、戻れない……」

 ミア、気を失う。


   *   *   *


 場面転換、民家の居間から玄関。ゴツい体格の男、ファングがミアを抱きかえてドアを外から勢いよく開ける。

ファング(以下フ)「クリス!クリス!」

 言いながら入ってきて、居間のテーブルの上にミアを寝かす。

 奥からだるそうにクリスが出てくる。少年の体つき、美人、銀髪青眼。ショートパンツにレースの透けたスカートを重ねている。

クリス(以下ク)「うるさいな、何」

フ「そこの裏路地でコレ拾った!」

ク「……なに?」

フ「子ども落ちてたから拾ってきた!」


 クリス、ファングとテーブルを挟んで反対側から、不快げにミアを見て少し沈黙。

ク「………なにこれ、食べるの?」

フ「(明るく)俺はヒトは食べません!」

ク「知ってるよ!テーブルに乗せないでって言ってるの!」

フ「いやー、生きてたからさ、このまま放っといたら死ぬなぁと思ったから連れてきた!」

ク「えー……?あー……うーん……。まあ仕方ないか……ファングだし……。じゃあ、食べ物でも用意するよ。ヒトだよね?」

 ファング、ミアの匂いを嗅ぎ。

フ「ヒトだと思う。少なくとも雪女でも狼男でもない!」

ク「雪女がそうそういてたまるもんか、仲間が見つかったらボクはさっさと故郷に帰るよ」

 クリス、指先にキラキラした光の粒を出し、すぐに消してみせる。

ク「ファングは仲間が見つかったらすぐに逃げなきゃね」

フ「返り討ちにしてもいいけどな!」

ク「血なまぐさいのはやめてくれる?」

フ「出くわさないよう祈っててくれ!」


 その時、ミアが少し動く。

ミ「ん……」

フ「お、起きたか」

 ファング、ミアの顔を覗き込み、ニッと笑う。ファングの口の端で鋭い牙が光る。

 ミアが目を丸くし、飛び起きて後ろに下がろうとしてテーブルの端から手を滑らせバランスを崩す。

ク「危ない!」

 テーブルから落ちるミアを受け止めようとして、クリスも一緒に倒れてミアの下敷きになる。

ク「わぁっ!」

ミ「キャアッ」

フ「クリス!」

 ファング、驚いてテーブルを回り込んで手を伸ばす。その手を取って半身を起こすクリス。

クリス「いったぁ……。似合わないことはするもんじゃないな……。あの子は?大丈夫?」

フ「ああ、ケガの匂いはしないから平気」

 言いながら目線を上げた先、部屋の隅っこに小さくなって震えているミア。

ク「あーもー、お前が怯えさせるから」

フ「えっ俺なにもしてない……のに……」

 クリスは一回部屋を出て、冷たそうな水の入ったコップを持ってくる。

 クリス、ミアにコップを差し出して

ク「ほら、まず水を飲んで落ち着いて。そしたらお風呂に入って。その間に食事の支度をしておくから」

 ミア、コップを見てゴクリと喉を鳴らし、少しためらったあとコップを奪い取るようにしてがぶがぶと一気に飲み、ふぅ、と息をつく。

ミ「ありが……」

 言い切る前にクリスがミアのマントを剥ぎ取る。

ミ「きゃあっ!」

ク「はいはい、お風呂に行って。脱いだ服はドアの外に出しといて。コレと一緒に洗濯するから」

ミ「いやっ、あのっ、マントは返してください……!」

ク「……なんでよ」

ミ「あのっ……、自分で洗いますので……」

ク「うるさい。いいからお風呂入って。脱いだ服もドアの外に出しといて。洗うから」

ミ「でも……、でも……」

 ファングがミアの両肩にドンッと両手を置く。

ミ「ひゃっ」

フ「ほらほらお風呂はこっち!クリスああなったら聞かないからさっさと言う事聞くに限るよ」

ミ「うう……」

 ファング、ミアを連れてドアの外に出ていく。

 クリスはじっと汚れたマントを見つめたあと、洗濯かごに丸めて投げ込む。


   *   *   *


 お風呂上がりのミア、赤い髪はツヤツヤになり、頬も血色を少し取り戻している。クリスの服を借りてだぶっと着ている。

 ミア、テーブルに用意された食事を見て、ぐぅ、とお腹を鳴らす。口元によだれ。クリスの顔をちらりと伺う。

ク「……どうぞ」

ミ「……!いただきます!」

 ガツガツと食べ始める。

 クリス、しばらく食べるのを見守ってから、質問を始める。

ク「名前は」

 ミア、びっくりした顔で慌てて口の中のものを飲み込む。

ミ「んっ、ぐ、えと、……ミアです」

ク「親はどうしたのさ」

ミ「……いないです」

ク「いない?じゃあどうやってここに来たの」

ミ「あの……逃げて……」

ク「逃げて?」

 クリスは片眉を上げ、じろりとファングを睨む。

ク「ねえ、面倒事はゴメンなんだけど?なんかあったらファングが責任とってよね」

フ「おう、まかせろ!」

ク「ホントに分かってんのかなぁ……」

ミ「あの、ごめんなさい、すぐに出ていきますので、えっと、マントを返してください」

ク「は?まだ洗ってて乾いてないけど」

ミ「いいです、着てれば乾きますから……。あの、いつか必ず、落ち着いたらお礼をしに来ますので、あの……マントを……」

ク「はあ?できもしない約束するやつ嫌いなんだけど!」

ミ「あっ……、ごめんなさい……」

ク「お礼がしたいってんなら、うちの家事くらい手伝っていけば?そこの木偶の坊が散らかすばっかりだから大変なんだよ」

ミ「あっ、は、はい、何でもやります!」

 ミア、ガタッと立ち上がる。クリス、それを手で制す。

ク「食事の途中で立たない!ちゃんと最後まで食べて!あとそんなヘロヘロの状態で手伝われても逆に迷惑!ちゃんと休んでからにして!」

 ファング、声を出して笑う。

フ「ゆっくり食べて泊まっていけってさ」

ク「そんなこと言ってなっ……」

 クリス、ドンとテーブルに手をついて立ち上がる。

 ファングと目が合い、気まずげに目をそらす。

ク「……ファングが面倒見てよね!」

 そのままぷいっと、クリスは部屋を出ていく。

ミ「あっ、ごめんなさい……!」

 クリス、振り返らずにドアを閉じる。

フ「大丈夫大丈夫、クリスいつもあんな感じだから」

 ファング、笑顔でミアの頭をぽんぽんと優しく叩く。


   *   *   *


 寝るミア。掃除をするミア。クリスが料理をしている横でお皿を運んでいるミア。

 ファングに両手で腕相撲を挑んでびくともしない様子に、みんなで笑い合う。


 など、数日を経てだんだん打ち解けて笑い合うようになっていく様子を短い場面転換で表現。


   *   *   *


 ぽふっとフード付きマントを被せられるミア。肩をすくめ、フードを両手で押さえて、上目遣いで見上げる。

フ「買い物に行くぞ!」

ミ「でも……、あの、外は……」

 見上げた先にクリス。そのクリスにファングがミアと同じ黒いフード付きマントを被せる。

フ「ほら、お揃いだ」

ミ「(目をキラキラさせて)お揃い!」

フ「お揃いでお出かけしたくないか?」

ミ「いっ、行きたい……けど……」

ク「フード深く被れば平気でしょ」

フ「俺たちがいれば大丈夫だ!ほら、行くぞ!」

ミ「……うん!」

 ミア、ファングと手を繋いでドアを出る。


   *   *   *


 道路にハイテクなドローン車からローテクなボロボロの軽トラまで走っている横、歩道にはタープを張った飲食の屋台が折りたたみテーブルと椅子を出している。混沌とした街並み。

 ミアに着せたのと似たような日よけのフード付きマントを着ている人たちが行き交う。普通の人間に混じり、獣人などもいる。

ミ「ねえ!こっち!」

 道端に屋台の並ぶ前で、ひとり先行したミア、はしゃいでファングとクリスを呼ぶ。ファング、駆け寄る。

 屋台では手から火を出して調理しているロボット、風でトレイをたくさん浮かせて給仕している妖怪めいた人などがいる。

フ「うおー、うまそー!何食う?何食う?」

ク「ねえ、今日はミアの着替え買いに来たんだけど!」

 はしゃぐ二人の後ろ姿に呼びかけるが、ふたりは屋台の物色に夢中になっている。

ク「もー……、しょうがないな……」

ミ「クリス!早く!」

 ミアが振り返ったとき、急に強い風が吹く。砂埃とともにミアのフードが吹き上げられ、外れそうになる。

ミ「わ!!」

 慌てて被り直し、フードを両手で押さえるミア。

 フードの端から艷やかな赤い髪がひと房こぼれて風に舞う。

 小さい虫が、プーンと音を立ててその横でくるりと周り、通り過ぎる。その虫が、機械的にチカッと光る。


   *   *   *


 街を見下ろす丘の上、胸に大きなペンダント、髪に大きな花飾りを付けた女[スカーレット]が立っている。派手めのセクシー美女。

 少し離れて後ろに黒服の部下が居る。

 小さい虫が飛んできて、同時に女の花飾りがチカッと光る。

女「(ニヤリと笑って)見ぃつけた」

黒服「では、街にいる搜索部隊に連絡を……」

女「いいわ、私が出る」

黒服「お嬢様、いけません。危険です」

女「(急に不機嫌に)は?危険だと言ったの?このわたくしに?」

黒服「……いえ、失礼しました」

女「(急に楽しそうに振り返って)よくてよ、わたくし今お姫様が見つかって機嫌がいいの。きっとお父様が褒めてくれるもの」

 女、右手を上げる。髪の花飾りが小さく機械音を立ててチカチカっと光る。

黒服「いけません、お嬢様、町にはまだ搜索部隊が……!」

 黒服が焦った様子で制止の手を伸ばすのに構わず、女は上げた右手でパチンと指を鳴らす。

 右手の背後に見下ろす街並み。複数個所からパッと爆炎が上がり、わずかに遅れて爆音が響く。


 丘を降り始める女。

 背後で黒服は慌てて片耳に手をやり、インカムマイクで誰かと話し始める。

黒服「おい!無事か?返事をしろ!第一隊、すぐに部隊員の所在を確認して……」

女「待っててね、わたくしの可愛い人魚姫。今迎えに行くわ」


   *   *   *


 街の外、まばらに草の生えた荒野。

 ミアを抱いたファングとクリス。走ってきたように息を切らしている。

 振り返った街ではまだ爆音が続いている。

 その街の方から、砂煙を立てながらこちらに向かって女[スカーレット]と黒服が歩いてくる。

 ミア、青ざめてファングにしがみついて顔を埋める。

 クリス、ちょっと不審げに砂煙を見て眉をしかめる。


フ「なんだあいつら、どういうことだ?」

ク「さてね。どうやらボクら誘導されたみたいだね」

 言いながら、クリス、こっそりと後ろ手に組んだ指先からサラサラと光る粒を落とし、その光の粒は砂に紛れてそっと周辺に広がっていく。


女「ハーイお嬢さんたち、ご機嫌いかがかしら?うちの可愛い子を保護してくれてありがとう」

クリス「……ハーイおばさん、ショボい歓迎ありがとう。最高にご機嫌な豆鉄砲だったね」

女「……は?」

ク「で、この子はうちの子なんだけど?なにか勘違いしてるんじゃない?おばさん」

 クリスの後ろでファングがうんうんうん!と頷いている。

女「ふうん?そういう態度」

 花飾りがチカッと光る。爆発音とともに、クリスが爆炎に包まれる。

フ「クリス!!」

ミ「いやぁぁぁ!」

 女、ファングに向き直る。

女「うだうだ言わないで私の可愛い作品のその子を置いていきなさいよ、あんたも爆散させるわよ?」

 女、言い終わるなりハッとして後ろに飛び退る。その足もとの地面に細い銀の針がトトトッと刺さる。

ク「おや、意外と反射神経あるね。ひとつくらいは刺さると思ったのに」

 爆煙の中から、銀の光に包まれたクリスが、ゆったりと歩み出て来る。瞳が銀色に光っている。


ク「まあ、ひとつでも刺されば終わりなんだけどね。血液に回して全身内側からキンッキンに凍らせてあげるよ」

 クリス、スカートが消えてショートパンツ姿になっている。

 地面に刺さった銀の針が粒子状の光になってクリスに集まり、体の周りの銀の光とともに腰のあたりで渦巻くと元通りのレースのスカートになってふわりと落ち着く。


 フードから覗くクリスの青みがかった銀髪と目の光を見て、黒服が目を見開く。

黒服「ゆ……、雪女……!?」

女「雪女!?あれが?本物の??」

ク「おや、知ってるんだ。じゃあ遠慮なく」

 クスッと笑ったクリス、女に向かって両手を広げる。

 黒服が女をかばうように前に出る。


 バキン!!と音を立てて周囲の地表が一面凍りつく。    

 慌てて周囲を見渡す女に、クリスは光る目を向けて言う。

ク「見える範囲にいる爆発する機械は壊したよ。機械の虫を操作してたんだね」

フ「虫!?」

ク「群れて移動してた虫がいたんだよ。ほとんど砂と区別つかなかったけど、風と反対方向に砂煙を立てたのは失敗だったね」

 瞳の銀色の光がすっと消えてもとの澄んだ青になったクリス、女に向けて笑いかける。

ク「さあ、まだ手はある?」


女「ふざけるんじゃないわ!」

 スカーレットと黒服の足もとが炸裂し、凍りついていた足を解放する。

クリス「まだ持ってんだ爆発虫、でももうそろそろ打ち止めじゃない?」

女「うるさいっ!私はまだできる!雪女を捕まえて帰ったらお父様だって……!」

黒服「いけません、雪女は伝説級の強さです、一旦帰って仕切り直しましょう!」

女「そんなこと言って逃げられたらどうするの?」

黒服「しかし、今雪女を捕まえられるだけの戦力はありませんよ」

女「あるわ」

 女、据わった目でミアを見る。


女「ミア、コーティングをつけなさい」

 ミア、ファングの腕の中で、ビクッと体を縮めて答える。

ミ「もっ、持ってないです」

女「肌身はなさず持ってなさいって言ったわよね!どこにやったの!」

ミ「あの……、洗濯して……返ってきてなくて……」

女「はあ?!」

 ミア、再びビクッと身を震わせ、ファングにしがみつく。

 クリス、緊迫した雰囲気を吹き飛ばすように明るい声で割って入る。

ク「ああ!コーティングってこれ?」

 クリス、自分のマントの裏から白いマントを取り出して見せる。

ク「なんか物騒な気がしたから没収してたんだよねー。ねえ、なんでこの布から、雪女の気配がするの?」

女「雪女の気配?知らないわ!それはミアのコーティングよ!」

ク「ふうん?」

 クリス、ふわりとその白い布を風に広げ、そのひとつの端を指先で摘んで投げ上げる。

 クリスの触れた一端から、パキパキと音を立てて、布全体に青い氷が一気に広がり、凍った端から布は白い粉になって風に散って消える。

ク「雪女の力で消せたけど?これ雪女の『着物』じゃない?」

女「……っ、そう、なの?」

黒服「……………そうですね、詳しくは知りませんが、そのものではなく再現したものと聞いていましたが……」

ク「おばさんよりそっちの黒服さんのほうが詳しそうだね。ボク仲間の情報を探してるんだ、詳しくお話聞かせてもらっていい?」

 クリス、好戦的な表情でマントを脱ぎ捨て、黒服に向かって一歩踏み出す。スカートが風をはらんだように広がり、光の粒が舞い上がり始める。


 女、ギリッと歯を食いしばる。

女「私を無視するんじゃないわよ!」

 女が胸元のペンダントを握ると、その手の中から大量の虫がミアに向かって飛び立つ。

フ「うわっ!」

 ファング、虫から逃げるように飛び下がる。

 クリス、慌てて右手をファングの方へ伸ばす。銀のスカートが光の粒になり、その手に沿うように飛んでファングの前に光の幕を張り、虫を遮る。

 が、次の瞬間、背後の地中から大きめの白い虫が大量に飛び上がる。

女「油断したわね!潜ませてたのはボムだけじゃないのよ!地中深くまでは氷も届いていなかったわね!」

 虫がミアに集る。

ミ「きゃぁぁぁ!!」

 虫の脚がミアの皮膚に刺さり、食い込んでいく。

女「(クスクス笑いながら)コーティングが無いから痛いわよ、覚悟なさい?」

 女の髪の花飾りがチカチカと光る。


 刺さった虫は羽を開くようにけミアの皮膚の上にひし形の白いプレートを広げ、隣の虫のプレートとつなげていく。

フ「くそっ……!」

 ファング、なんとか虫から逃げようと走りながら、虫を払い落とそうとする。

 突然、すごい力でミアが反り返り、ファングを弾き飛ばして地面に転がり落ちる。

ク「何やってんだ馬鹿力のくせに!」

フ「子どもをそんなに強く掴めないだろ!」

 クリスは虫に阻まれて近づけない。

 慌ててミアを助け起こそうとするファング。ミア、飛び起きてファングを振り払う。

フ「ミア……?」

 ファングが呆然と見守る中、光沢のあるひし形のプレートが、鱗のように少女の全身を覆っていく。

 女、片手を頬に当てて小首を傾げ、にっこりと笑う。

 女「私の可愛い人魚姫、私のために雪女ちゃんを捕まえてね」


フ「ミア! しっかりしろ! 大丈夫か?」

 ミア、髪の毛以外の皮膚全て顔まで白い鱗に覆われる。

 髪の毛の中の何束かが背中の鱗にコードのように接続している。

 爬虫類のようになった口もとから低い唸り声を発しながら、よろけるようにクリスに近づく。

フ「ミア!」

 ファング、ミアとクリスの間に割って入り、よろけるミアを抱きとめようと手を広げる。

 ミア、ファングの腹部に拳を叩き込む。

 ガツンと重い音がし、ファングの分厚い筋肉に阻まれて、ミアが反動で後ろに飛ぶ。

フ「わあ! ミア、危ない!」

 ミア、そのまま宙返りしてダンッ、と地面に着地する。再び低く唸り、よろ、とよろける。


女「あの男、邪魔ねえ……」

ク「……ねえ、どういうこと?洗脳?操作?なんであんなに辛そうなの」

女「あなたがコーティングを消しちゃうから、可哀想に、人魚姫は神経に直に痛みを感じてるのよ」

ク「神経に?」

 女、不意に場違いに嬉しそうに、

女「そう!あの鱗は神経に直に電気信号を流して筋肉を動かしてるの。そうすれば脳のリミッターを通さずに全筋力で動けるじゃない?

 私が作ったのよ!お父様も褒めてくださったわ! 特異能力がなくても!私はお父様のお役に立てる!」

 女の目が狂信的に光る。

女「5体目の人魚姫で、やっとまともに動ける子が出来たの!私の大事な成功作!綺麗でしょう!」

ク「……5体目?」

女「そうなのよ、可哀想に、人魚姫は儚いわよね。

 神経を深く刺しすぎて動けなくなっちゃったり、信号が強すぎて痛みで狂っちゃったり、薬で痛みを誤魔化してたら廃人になっちゃったり……」

 本当に心から憐れんでいるように、女は胸に手を当てて辛そうに顔を歪める。

女「でも、あの子たちの犠牲の上で、やっと完成品が出来たのよ。きっと、あの子たちも喜んでいるわ……」

 クリス、ゾッとした顔でスカーレットを見つめる。

 女、再び無邪気に明るく、

女「それでね!お父様がね!コーティングを分けてくださったの!

 ナノマシンで出来た布だとかで、虫が刺さるときに針と神経の間に挟まって信号を微調整出来るようになったの!鱗が擦れて皮膚を削るのも防いでくれるのよ!なのに……」

 ちょっと目を伏せ、またすぐ笑顔になる。

女「でもさすがミアだわ、コーティングがなくてもこんなに動けるなんて!まあ、コーティングがないと、何かに当たるたびに激痛なんでしょうけど……ふふっ、歩くたびに足が痛むなんて、いかにも人魚姫っぽくていいわぁ」


 クリス、目を怒らせ、女に向かい腕を振ると氷の針が飛ぶ。

 その針が、ガラスのような緑の盾に弾かれて地に落ちる。

 黒服がその盾を支えるように両手を突き出している。

ク「……お兄さんのほうが能力持ち?」

黒服「弱いですけどね。玄亀と人間の混血です」

ク「なるほどね、亀さんか。水場じゃなくて良かった、ここならせいぜい甲羅の障壁くらい?」

黒服「詳しいですね。まあ、水場でも雪女とでは相性が悪いですね、凍らせられたら何もできない」

ク「あんたも詳しいよね、ひと目でボクの正体見破ったじゃん。雪女なんかもうおとぎ話だろ」

黒服「雇い主が特異能力コレクターでね、自然と色々覚えましたよ」

 お互いにじりじりと隙を伺いながら会話する。

 後ろではミアとファングが戦っており、一挙手一投足ごとにミアの唸り声と悲鳴が響く。

 クリス、黒服から目を離さないまま女に話しかける。

ク「あんたがミアを操ってるんだろ、あの犬には絶対に敵わない、もうやめろ」

女「あいつなんなの?タフすぎない?私の可愛い人魚姫が壊れちゃうわ」

黒服「あの体格と運動神経は、たぶん狼男の血を引いていますね……。混血?純血はもうほぼ絶滅しているはずですが……」

ク「本当に詳しいね、あの駄犬は純血の狼男だよ」

黒服「ほう、珍しい。ボスが興味を持ちそうだ」

女「まあ、アレも捕まえたらお父様が喜びそう?……でもその前に人魚姫が壊れちゃったら嫌だわ……、どうしようかしら……、そうね」

 次の瞬間、余っていた鱗の羽虫がファングを包む。

フ「うわっ!!」

 ファング、虫に視界を塞がれ、一瞬動きを止める。

 くるりと向きを変えたミア、一直線にクリスに突進する。

女「本来の目的だけもらって帰りましょう」

 迎撃の姿勢を取るクリスに女が囁く。

女「……中身はミアよ」

 ハッと躊躇した隙にクリスの足が土に固められる。驚くクリス。

黒服「私、水を止めるための土塁も使えるのでね」

 黒服がふぅ、と息を吐き、首元を少し緩める。

黒服「ご存知なくて良かったです」

ク「くっ……!」

 クリス、ミアを躱そうと上半身を捻るが避けきれず、右腕がミアに当たる。

 バキン、という金属音とともに、透明な液体を振りまきながらクリスの右腕が千切れ、宙を飛ぶ。


   *   *   *


 虫を避けて飛び下がったファングの前に、ドン、と音を立ててクリスの白い腕が落ちてくる。

 驚いて目を上げたファング。片腕を肘から失ったクリスと、その前で拳から血を滴らせてだらりと立っているミア、そのふたりの横に立つ女と黒服。

フ「クリス……!!」

 怒りのあまり食いしばった歯が牙に変わる。

 メキメキと音を立てて背中が盛り上がり、手には鋭い爪が伸びる。


 巨大な狼に姿を変えたファングが遠吠えをする。


   *   *   *


 クリスの腕の折れ目から機械の部品が見える。

女「え……、ロボット?」

黒服「いえ、あれが雪女です……機械に見えますが生命体です。コーティングのナノマシンとは、いわば雪女の細胞ですね。凍って見えるこの地表もおそらくナノマシンによるもの……」

ク「ほんとに詳しいね、あんた何を知ってる?」

黒服「ボスのもとに……、昔のことですが、そのスカートと同じようなショールを掛けた女性が……」

ク「それ……!まさか、ボクの母親……」

 そこに、遠吠えが響く。

 びっくりしたように振り返る女と黒服。


ク「待て、駄犬!まだ話が……!」

 クリスの叫びに構わず狼は女に向かって走る。

 女の花飾りがチカチカッと光り、ミアがふらりと前に出て、女とファングの間に入る。

 狼の目の前で鱗がばらりと落ち、傷だらけのミアが現れる。

 驚いて止まる狼。落ちた鱗がまた虫となってつむじ風のように女と黒服を包む。砂煙が立つ。一瞬、女が走ってクリスの千切れた腕を拾ってにやりと笑うのが見え、それもすぐに砂煙の向こうに消える。

 砂煙が収まったときには二人の姿は消え、人型に戻ったファングがぐったりとしたミアを抱きしめている。

フ「クリス!ミアが!」

 クリス、駆け寄ってミアに手をかざす。光の粒がミアを覆い、光がミアの中に沈み込み、傷を覆い、血を止める。

ク「大丈夫、生きてる。すぐ治すよ」

フ「よかった……」

ク「……でも、逃げられたなぁ、腕持ってかれちゃった」


 凍った地面から光の粒が上がり、クリスの腕に集まっていく。パキパキと音を立ててクリスの腕が修復されていく。

 ほぼ治ったところでファングがクリスに抱きつく。

ク「わあ!なんだよ!!」

フ「クリス、また冷たくなってる。温めてやるからジッとして」

ク「ああ、いま損傷を銀雪で治したから循環液が冷えて……、って、ボクは冷たくても平気なんだよ!離せって!」

フ「よかった……無事で……」

 クリス、抵抗するのをやめる。

ク「……ボクはそう簡単に死なないってば……。もう、しょうがない駄犬だな……」

フ「ミアも……、俺、大丈夫って言ったのに……」

ク「はいはい、起きたら謝ろうな」

 クリスの肩に顔を埋めるファングの頭を仕方なさそうに撫でるクリス。


ク「まあ、ミアはまだ手の中だ。黒服さん、次は聞かせてもらうよ、雪女の話」


   *   *   *


 地下道のような場所。女が異常な様子で息を切らせている。

女「お父様……この……お土産、喜んでくれるかしら…」

 ふふ、ふふ、と笑い続ける女。

黒服「お嬢様、脳が限界です。お花を外しますね」

女「お花? ふふ、お父様の下さったお花ー」

 黒服、女の花飾りを外しながらその手の中のクリスの腕を見る。

黒服「追跡してくる……、だろうな。待ってるぞ、全てを凍らせる……雪女……」

拙作をここまでお読みいただきありがとうございました。

どうぞよろしくお願いいたします。

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