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3.正体

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 村人達に誘われた宴会で振る舞われた料理を食べて、旅の疲れか眠くなったと言って貸してもらった家へと戻ってきた。備え付けのベッドに入り寝たフリをしつつ「フワフワくんのほうが寝心地いいな」などと考えつつ5分ほど待っていると、窓を開けて入ってくる人の気配を察知した。

 入ってきたのはトーギリさん。彼はこの村の調査のために村人の1人に変装している国の騎士団の斥候らしい。てっきり任務のために私を捨て置くと思ったんだけどな。



「さて、女性の部屋にいきなり窓から入ってきて。何のようですかトーギリさん」


「コイツは驚いた、あの飯を食って意識を保ってるどころか普通に動いてるなんてな」



 こちらから話しかけると、驚いた様子で返事を返してくるトーギリさん。



「麻痺毒、睡眠毒を使った珍しい郷土料理でしょう?私は状態異常が効かないんです。そんな事より、私に用があって来たんでしょう?潜入調査中のピートさん」


「………何で俺の名前まで………いや、鑑定持ちかしかもステータス偽装も完全に見破られてるとは」


「えぇ。貴方の称号欄にはランゼレース王国の騎士の称号がありましたから、想像は容易でした」



 まぁ、読心のスキルを使って任務内容も確認してたんだけどね。明かさなくても言い訳のつく情報は明かさない。



「って事はこの村がどう言う村かもわかってんだろ?なぜこんなにゆっくりしてるんだ?」


「ええもちろんわかっていますよ。村人全員が盗賊で、旅人を獲物にして好き放題してる盗賊村、ですよね。ゆっくりしてる理由でしたか?もちろん襲って来たら皆殺しにするためですよ」



 彼ら盗賊村の人々を全員“観た”けど、問題もなく蹂躙できる程度の強さしかない雑魚ばかりだった。とはいえ、これまで多くの旅人や行商などを蹂躙して闇奴隷として売り払ったりしてるであろう連中だ。どうせ向こうから私にワラワラと寄って来るだろうから、集まった所を一気に殲滅しようと言う腹積りだった。



「ははは………アンタが眠ってたら、あらかた調査も終わってたから連れて逃げようと思ってたんだがな」


「騎士さんは随分と優しいんですね」


「まぁみ〜んなを守るのが騎士さんの役目ってヤツだからな。しかし、ほんとに殲滅なんてできんのかぃ?ボスのヨボンはすぐに俺を怪しんで自分から見張りにつく様な慎重なやつだ。調査中に見てた感じレベル250はカタいと思うんだが」


「そうですね、まぁその程度なら造作もなく」


「へぇ………。どうやらその口ぶりだと、奴らはとんでもねぇ貧乏クジを引いちまったみてぇだなぁ」



 トーギリさん、もといピートさんはそんなことを言って苦笑いを浮かべながら、どうやって殲滅するのかを聞いてきた。


「1番簡単な方法で殲滅する予定なので、早めに立ち去るのが吉ですね」


 初めこそ少しわからないような顔をしていたが、何かを察したのか「そうさせてもらおう」とだけ言って足早に立ち去った。




◆◇◇◇◆



【トーギリ(ピート)】

 トーギリ→ウラーギリ→裏切り(水卜をミウラと読むから)

 実は猟師などではなく、盗賊村の住人全員を拿捕ないし討伐する為に派遣された密偵。高い変装技術を使って住民の1人になりすましている。トーギリは変装している元の住人の名前。だが実は既に盗賊村の住人にはバレており、騎士団の動きを察知した住人達によって対騎士団の罠が多数仕掛けられている。

 まぁ、主人公が村に来てしまったことで村の住人も騎士団も作戦が全部パーになっちゃうんですけどね。



◆◇◇◇◆




ーー ピートside ーー



  最初に話しかけられた時、そりゃもう息が詰まるほど驚いた。周囲を警戒していた俺が背後を取られるなんて経験は初めてだったからな。仮にも斥候として、密偵として、それなりに場数をこなしてきたのだ。気配を感じ取るのは騎士団内でも得意だし、潜伏や隠密行動はもっと得意だ。それこそ、そちらを本業にしている諜報部からスカウトが来た程度には。だがそんな俺でも背後を取られた。ついナイフを握ってしまっても仕方ないと思う。

 そんで話しかけてきた彼女を視界に収めた時、正直話しかけられた瞬間よりも驚いたね。信じられない程の美人がそこに立っていたからだ。耳が尖っているのでエルフだろう。エルフは美形しかいないと聞いていたが、ここまでとは。驚くと同時に納得もできた。伝え聞くエルフの特徴は曰く『ひたすらに美しい』とか、容姿を褒めるものの他に『森の絶対強者』とか言われてる。長寿長命を生かして鍛錬を続けたエルフは竜すら単独で狩ることができるという。彼女も例に漏れず美しく、そして強かった。

 俺が察知できない範囲の獣や魔物を木々の隙間を縫って弓矢の一撃で仕留める。優秀なレンジャーだ。隣にいる盗賊団のボスであるヨボンも、感心しつつ奴隷にした時に値段を釣り上げることを考えていそうな顔をしている。


「姐さんは一人旅ですかい?」


 ヨボンがそう質問する。と彼女は「えぇ、そうですよ」と柔らかく笑う。仲間の有無の確認か。一人旅なら薬やらなんやらで捕まえられると思ってるんだろう。この間、別の盗賊団を相手にして痛い目に遭ったばかりなのに懲りないバカだ。彼女が歩いてきたと言った道はあの盗賊団が行った方角だ。撃退するにせよやり過ごすにせよ、相当な腕前だというのは今までの情報から推察できるだろうに。慎重ではあるがどこか抜けてる間抜けなヤツだ。だから盗賊なんかに身をやつすことになる。


 まぁ、そんなこんなありつつ彼女を村に案内し、俺は自室に一度戻った。もちろん荷物をまとめて逃げるためだ。夕方ごろには彼女が道すがら狩った動物や魔獣で宴会が始まる。そうなるとここまで戻って荷物をまとめる時間はない。盗賊どもは案の定、彼女のメシに薬を混ぜて“捕獲”するつもりの様だった。調査はまだ完璧じゃねぇけど、1人の人間の人生がかかってんだから調査は切り上げだ。ウチの騎士団長なら許してくれるだろ。


 荷物をまとめ終わり、痕跡を辿られない様に準備をしていたら宴会という名の人狩りが始まる時間だった。

 彼女は睡眠薬と麻痺薬の混ざったメシを食べ、眠気を訴えて宴会を途中離席し、貸された荒屋へと戻る。

盗賊達は暫く宴会を続けて彼女が眠り落ちるのを待つ様だ。ヨボンを含めた盗賊達は、極上の奴隷が手に入って浮かれ気分。その隙を突いて俺は荷物を取りに戻り、そのまま彼女の寝ているであろう部屋に窓から侵入した。

 するとどういうことか、彼女は起きていた。睡眠薬と麻痺毒がたっぷり混ざった、おおよそ大型魔獣でも3分は昏睡する様な料理をあんなに食べていたのに。しかも背後から音もなく部屋に入ったはずの俺に背を向けたまま話しかけてくる。………マジかよ、正体どころか任務までバレてんじゃねぇか。



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