2.一路
「ふわぁ〜………」
フワフワくんの上で人里までの移動中にあくびするくらいダラダラしつつ、アイテムやスキルの確認をしていた。適当に選んでスキルを使ってみたものの、発動しなかったスキルなどもなし。この様子ならスキルは全て問題なく使えるだろう。なんなら魔法スキルに関してはサービス終了の時間以降、実際に魔力の存在を感じて淀みもなく制御もできている。
魔物の気配なんかもスキルの検証ついでに、所々で察知していたが、全部無視して森の中の道をそこそこのスピードで突き進んでいる。
「ふわぁ〜………ん?」
フワフワのクッションと木漏れ日によって齎される何度目かわからないあくびをしていると、私の向かっている方から人の気配がした。しかしたった2人。道から外れている事を考えれば猟師とかだろうか。
一旦彼らと接触するために、フワフワくんから降りて送還し、歩いて近づいてみる。
「こんにちは」
「っ!?」
「ひょひ!?!!?」
茂みに隠れていた2人組に後ろから声をかけると、1人は即座に腰に差していた短剣を逆手で抜き放ち、もう1人は驚きのあまり引っくり返って変な声を出していた。何とも、ベテランとかけだしっぽい仕草だ。
「ア、アンタは?」
「私はただの旅人ですよ。ちょっとだけ腕に覚えがある旅人です」
ベテランっぽい方の問いかけに理路整然と答えてあげる。根無草で殆ど当てもなく、道と匂いを辿ってとりあえずでこの方向に移動してきた。何も間違ったことは言っていないけど、詳しくは教えない。
「そ、そうか。まぁなんだ。俺たちは見ての通り狩人でな。俺らの他にも村の周囲を何組かで散らばって狩りをしてる。アンタさえよければ今日はうちの村に泊まるといい、案内しよう」
「それはありがとうございます、やっぱり野宿よりも人里で体を休めるに越したことはないですからね」
思ってもない事を言うベテランっぽい人。今はその言葉に乗らせてもらい、今日は村にお邪魔することにした。
◆◇◇◇◆
【コーナ】
ただの盗賊の頭なのにかなり高いレベルのせいで、主人公がまともな人里にたどり着くまで『自身の強さがどこまで通じるかがわからない』と不安を募らせる要因です。主人公は自身の経験から半端に強い力はより強い力に潰される事を知っているため、自分に並ぶものや超えるものの存在を結構恐れています。まぁそんな存在はこのお話には関与してきませんが。
◆◇◇◇◆
村へと案内してもらう道中、お互いに自己紹介をしたり見かけた野生動物を捕獲したりしてお土産作りもした。
「お嬢ちゃん、相当な弓の腕だな。気配の察知も上手い。こっちのボンよりもすげぇ猟師になれるぜ。女1人で旅できてるのも納得できるってもんだ」
ベテランっぽい方のトーギリさんが、見習いだというヨボンさんを引き合いに出して褒めてくれる。
ただ、彼らのステータスを観ている身としては、なんだか変な気分になる。ヨボンさんの方がレベルもステータスも高いし、スキルも習熟している。でもトーギリさんはトーギリさんで偽装と変装でトーギリさんに成りすましてる別人の様だし。
最初は私を騙そうとしているのかと思ったりもしたけど、スキルで心を読んでみた所どうもトーギリさんに関しては私じゃなくてヨボンさんとか村人達の方を騙そうとしている感じだ。
ヨボンさんも思い返せば、話しかけた時の驚き方も演技だったのだろう。いやぁ、通りでわざとらしい転け方だと思った。うんうん。
………うん。
そんな事を村へ案内してもらう道中に考えていたら、気配察知できる範囲に村が入った。
そんなに大きな集落ではないとはトーギリさん達が言っていたが、確かに人口は200人に|満《たない程度の本当に小さな村のようだ。
「見えてきたな、あそこが俺たちの村だ。村長に頼めば適当な空き家を貸してくれるだろう。まぁ、今残ってる空き家なんて荒屋ばっかりだがな」
村の過疎っぷりを皮肉った言い方だが、旅人に親切な方ではあるだろう。
衣類の質感などから察するに、サービス終了前とそんなに差があるようには見えない。スキルを使って鑑定してみても品質もほとんど変わっていないようだし。時代背景も小さな村を見た程度だが、そんなに遠く離れているようには見えない。
まぁ彼らの心情をスキルで覗き見てる私からすれば、少なくともヨボンさんの方はどんな旅人でも歓迎するだろう理由は納得できる。私みたいな美人は特に歓迎するだろうね。
何にせよNPC専用の心を読むスキル【読心】で心を読めるなら、彼らはNPCで間違い無いだろう。
村に入ると、村人たちは歓迎ムードで私を迎え入れた。私の狩ってきたお土産を見て驚きつつも喜んでいたし。
「どうもこの度は、このように沢山のお土産をありがとうございます」
「いえ、そんな。あの程度でしたらいくらでも狩れますので、気になさらないでください」
「ははは、そう言っていただけるとありがたいですな。こんな小さな村では肉などは干し肉でも貴重品。本当にありがたい限りです。さて、もう日も落ちてきましたし、本日は滞在なされると思いましてな。荒屋ではありますが、準備させていただきました。ごゆるりとお過ごしください」
村長であるらしい初老の男、ゴードがそう言って、一軒の家を私の今晩の宿として提供してくれた。
「中は思ったよりもきれいだな」
なんてどこかのゲームで見たセリフを言いつつ、|旅人だと怪しまれないために持っていた荷物を置いて一息つく。
寝具を召喚してゴロゴロしつつ迎えた夜。どうも村人たちが久々のお肉で盛り上がってるとかで、宴会に誘われた。まぁ、せっかくなので誘いに乗ってみることにした。
◆◇◇◇◆
【読心】
魔法スキル。
習得条件としてまず《透視》を持っていなければならないが、《透視》は習得条件がかかなり厳しい。《魔力感知XX》《気配察知XX》《魔力操作XX》《視力強化XX》《超感覚》のスキルを持っている前提で始まるクエスト、『見えないものを見ようとして』をクリアする必要があるのだが、前提条件のスキル《超感覚》が、レベル1000達成時に貰えるスキルのため、無課金においてのレベルカンストを達成しなければならない。
そうして《透視》を手に入れて、伯爵以上の爵位の貴族NPCの護衛クエストをクリアすると5%の確率で特殊なイベントが挟まり、手に入れることが出来る。
効果としてはNPCの心を読むという、かなり単純なスキル。
実は技術的にはプレイヤーの心も読めるが、没入型VRの取り扱いに関する法律的に実現出来なかった。
本作中ではNPCとPCなど違いはなく、等しく理性種と呼ばれる区分なため、理性種の心を読むスキルとなっている。
◆◇◇◇◆
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