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奪われたもの
「奪うって、俺は何もさちから取ったことはないだろう?」
「りことの時間が削られた。貴方のせいで他の女子から絡まれることが多くなって自分の時間もなくなった。私から平穏を奪った」
「そんなの、しらな」
「だから、だよ。しらないだけで罪は消えない。私が感じた傷は消えない。お願いだから、これ以上私に関わらないで。奪わないで。りこみたいに取らないでよ」
気付けばポロポロと涙がこぼれた。
私の情緒はかなり不安定だ。
りこという依存先を喪って。
その怒りを向ける矛先を失って。
あるのはぽかりとした胸の内の穴だけ。
多分虚無感というのだろうこれは、痛みはない。苦しくもない。
ただ時折消滅願望のようなものを私に感じさせる。
それでも私が私を傷つけなかったのは、ひとえにりこのおかげだ。
私がいなくなったらりこを覚えている人が減ってしまう。
ただそれだけの、なんとも自分勝手な思い込みで私は自傷の類をしてこなかった。
たが、だ。
もし仮に、死んでもりこと同じ場所へ行けるなら、と考えてもしまう。
改めて思う。
康太が私から奪ったのはりこであり、平穏であり、私の生きる意思だ。




