奥野康太
ご無沙汰してしまいました。
今回はさちの周りの人。自称・幼馴染みの奥野くん視点です。彼の心中や?
俺は奥野康太。
まぁどこにでもいる普通の男子、だと思う。
強いて言うなら、幼馴染みに恵まれたことか。
近所には可愛らしい女の子が住んでいる家庭があり、俺が物心が付く前から交流があったらしい。
中学3年で人生で初めての恋人が出来た。
昔から知っている近所の女の子だった。
俺から告白したら、OKをもらえた。
このときは本当に嬉しかった。有頂天とはこういうことを言うのだろうと実感した。
あの事故が起きるまでは。
その恋人は交通事故で無くなった。外傷はほとんどなかったらしく、亡くなったと連絡をもらい病院で彼女を見たときはただ眠っているようにしか見えなかった。
そこに俺と彼女の共通の友人、というかもう一人の幼馴染みがやってきて声をあげて泣いた。
その時に悟った。
ああ、本当に死んじゃったのか。
実感がわくにつれて、数滴の涙が流れた。俺は男だから声をあげてまではなかなかったけど、時間の意識がなくなるまでは呆然としていた。
気づいたときには外は完全に日が落ち真っ暗になっていた。廊下ではバタバタと看護師のものであろう足音が聞こえた。泣き声がいつの間にか止んでいた幼馴染みに、周りを見てほしくて声をかけた。
それからなんとなくぽっかりと、胸に穴が空いたように過ごした。
遠くの高校を受験したのはいくつか理由があるが、一番は『地元では恋人を亡くした可哀想な男』として噂されるのが嫌だったからだ。その上で、いつでも実家に帰れて、擬似的な一人暮らしができて、偏差値も悪くない今の高校を選んだ。
だがそこにはもうひとりの幼馴染みもいた。もしかしたら俺の進路について親同士で話が伝わって、付いてきたのかもしれない。それならば、幼馴染みとして守らなければ。今度こそ。
だが、その幼馴染み……さちからは酷い言葉ばかり浴びせられる。きっとまだりこを亡くした事実から目を背けているのだろう。
俺がなんとかしなければ。




