第二話
「ぐっ......」
リタは鈍い声を上げ倒れ込んだ。全く予想してない位置からの攻撃に驚き、そこに遅れてくる強い痛みが入り混じる。
毒が塗り込まれていて、どんどん全身を青く犯していく。
「リタ!!おい、やばいな。思った以上に毒が。くそ、一体どこから、気配なんてどこにも」
「なかったかあ?本当に」
「くっ!」
声のする方を瞬時に判断し、マルタはすんでの所で回避をする。足元にはもう1つ槍が刺さっていた。
「おいおい、ちゃんと嬢ちゃんを担がなきゃ殺しちまうぜえ?」
日の当たらない壁の方から鎧の男が現れた。牛の顔の骨のような仮面に身体の鎧もさっきいた暗黒騎士とはまた違った禍々しい模様があった。
「ぐあぁ......!!」
リタの足に刺さった槍を乱暴に抜き右手で素振りをしてみせる。血が床に飛び散る。
「て、てめえ!!」
飛びかかったのはマルタではなく、ヨルダンだった。しかし、攻撃は簡単に受け止められてしまう。
「ま、まだまだあ!!」
乱撃を繰り出す。ヨルダンの持っている短剣は相手の武器を腐敗させる特殊能力の持つものだ。
ヨルダン自体の攻撃力が弱かったとしても技を受け続ければ確実に武器を無効化させることが出来る。
「ほお?その武器なにやら変わった小細工がしてあるようだな。受身をし続けるのも不利か」
鎧の男は受け流しながらヨルダンを誘導するかのようにもう一つの槍のある位置までいくと、すぐさま引き抜きそのまま心臓を貫いた。
口から月々に血が漏れ、身体が赤く濡れる。
「ぐっ......ふぅ」
すぐに振り払われ地面に叩きつけられる。
「モチダ!!」
「わかってます!」
マルタとドラゴンが鎧に向かって飛びかかり、モチダは2人を広場から最大限攻撃の当たらなそうな場所へ警戒しながら運ぶ。
リタの生命反応はまだあるみたいだが、ヨルダンに関しては即死だった。
「くそ......なんでこんな。さっきまであんなに」
数時間前までの賑やかし、数分前までの激動の勢いはそこにはなく、すでに冷たく物と化していた。
回復魔法をすかさずリタの方にかける。足の傷口は塞がってはくるが、血相から見て全身の毒は拭えていない。
「ヨルダンは......そう」
意識を戻したリタはモチダの反応からヨルダンの状況を察した。そして自分の右足をうらめしそうに睨んだ。
「なんてザマ。まさかここに来ていきなり言葉通り足手纏いになるなんてね、さすが7大魔王の城ってところなのかしら」
小声でそう弱音を吐く。だが、その手には杖は握られたまま、戦闘の意思は衰えてはいなかった。
「リタさん。どうしましょう、身体の毒が」
「なるほどね、解毒魔法じゃ消えない毒なわけ。私もじゃあ長くはないのかもね」
「そんな......私が救います」
「いいわよ、最後の花火。見せてあげるわ、今から詠唱始めるからアンタ万が一こっち来ない
ように任せたわよ」
リタは最後の魔法を唱え始めた。
「おいおい、2対1ってのはなかなか卑怯ってもんじゃねえのか。まあ不意打ち決め込んだ俺が言うのもなんだけどよ」
マルタの刀による連撃を交わしながらドラゴンの破壊力のある攻撃や火炎を対処する。
2つの槍はまるでそれぞれに意思があるように鎧男の腕から暴れ出し確実に急所を狙おうと技を繰り出す。
しかしそれをさらにマルタは弾き、ドラゴンは尻尾で華麗に薙ぎ払う。
「ヨルダンは......ヨルダンは......いつだって場の賑やかしで。ここまでだって何度も危ない綱渡をさせてもついてきてくれた。それが、お前みたいなやつなんかに」
「おいおい、逆恨みかよ。そりゃあんたがあいつの力量を測れなかったのが問題だろうよ。リーダーであるなら俺みたいなやつからもしっかり守りきらなきゃダメだぜ」
「貴様あ!!」
怒りに任せて剣を振るう。鎧男は交わしきれずに強烈な一撃を食らい壁に身体を打ちつける。
「がは......おいおい。この鎧にヒビが入るなんて初めてだぜ。こりゃさすがに分が悪すぎるかもな。リーダーさんは完全に理性失い始めてるしよ、下手したらドラゴンよりモンスターだぜ、ここらでいっちょ上方修正しますか」
2つの槍を地面に刺す。すると槍は紫に光り、みるみる姿を変える。
両隣に阿吽の顔つきのシーサーが現れた。
「ほらよ、これで数もこっちが有利だぜ?」
鎧男は丸腰でそのままマルタに突っ込んでくる。
2匹のシーサーはドラゴンの方へ向かう。
鎧から放たれた拳を易々と避け、マルタは先程傷を負わせた部位に更なるダメージを与えに行く。
「リーチが短くなって交わしやすくなった上にトドメを刺しやすくなったと思ったか?そんな簡単なわけあるか」
「なに!?」
両手両足から長く鋭い爪のような刃物が生えマルタの身体のギリギリを掠めた。
「ほお、こいつもかわせるとは。さすがここまで来ただけはあるわけだ。ぐはっ」
そのままマルタの刀を受け、鎧が砕け散る。地面に倒れ込んだ。
「これで、終わりだ」
刀身が光り、エネルギーを帯びた大きな一撃が鎧男の身体を貫いた。