魔国に王はいない
「あんたらはどこから来たんだ?」
青年は与えられた勇者としての力を使い、捕らえた魔族の尋問を行っていた。
そもそもの話、魔族共がどこからやってきているかすら分かっていない、本国の学者等は相違の違う魔界の国からやって来ているのだとトンデモ理論をもっともらしく言っていたりするが、その実態は明らかになっていなかった。
突然どこからか現れるし、現れたかと思ったら組織的な行動を取って村々を焼き払い、人々を捕らえ、占領する。
その装備は森に隠れ住む野人ではあり得ないほど文明的であるし、鹵獲したものは再現不可能なものばかりで、どこか魔族どもの国があり、それが侵略してきているとしか思えなかった。
「どこからも何も、我々は元からここに居て、ご主人様方が異邦人です。」
通常、魔族を生かして捕らえた場合、何か不明な方法で自決しているのか糸が切れた人形のように動かなくなる。
それを勇者の魔力で従属させるといった既存の魔法では不可能な方法で捕えることができている、青年自身にも与えられた力で何が出来て何が出来ないのか掴み切れていないし、言葉が通じるとも思っていなかった。
「どういう意味だ?」
「そのままの意味でございます、本来の住民達を守るために天から使わされ、ご主人様方が住み始めるよりもずっと昔から守り続けております」
魔法で精神を縛られているのにも関わらず、どこか慇懃無礼な態度で答える魔族の態度は、精一杯の抵抗のようにも見える。
「そんな事あるわけが無い、ずっと昔から人間はここに住んでるのに魔族なんて最近になって突然現れたじゃないか。それに本来の住民ってなんの話だ?あんたらのことじゃ無いのか?」
「根本的な部分でいろいろと勘違いされているようですので、何を話したものやらと言ったところですが…… 崩壊による破滅的な結果を回避するために、彼らは神の力を借りて地下で眠っています、彼らを掘り起こして自分勝手に利用するようになったから、それを止めるために私どもが抵抗しているのです」
「何か生き物を掘り起こしてどうこうするって話は聞かないがね、嫌なら交渉すればいいじゃないか、戦線布告もなしに戦争だなんて野蛮すぎる」
もうすでに占領されている土地や争いの規模からいって、戦争といっても差し支えない、相手が国として存在するのか実態が不明なことを除けば。
「そも、言葉なんて通じる以前の問題としてわかりあえるはずがないんですよ、彼らは崩壊後の世界まで意識といったものはないし、ご主人様方は崩壊後には滅亡しています。 私どもは掘り起こされた彼らを元に戻しこれ以上の被害を防ぐことができればご主人様方などどうでもよいのです」
「ずいぶん物騒なことを言うな、なんでその崩壊とやらが起きるってわかっているんだ?そもそも何が起きるっていうんだ?」
「神のみがご存知です、ご主人様ならばご自身でお聞きになればよろしいのでは?少なくとも私どもよりも深くつながっていらっしゃるようですし、その証拠として今こうして従えているでしょう?」
嘘はついていない、いや嘘は付けないということが青年には直感的にわかる。
立場上毎日神に祈ってはいたが、何か神託らしきものを受けたことはないし、魔族の親玉が神であるならば、まともに答えてくれる気がしなかった。
「細かいあんたらの事情はもういい、端的にどうすれば魔族の侵略を止められる?」
この質問をしたとたん壊れたかのように痙攣し、収まったかと思うと目の焦点が合わない憔悴した表情でボソボソと話し始めた。
「……私どもの本体を壊せばよいかと、このような端末は現地の生物を材料に作り、本体が操作しています。」
「お前の言う彼らを全て返して、もう掘り起こすなとは言わないのは何故だ?」
「手遅れだからです。私どもは彼らを全て守るよう命令されていて、もうすでに消費されている彼らを含めて、守るために取り返そうとすることやめることができないのです」
「俺が命令してもか?」
「はい、この命令を遂行する存在として生まれたので」
話している中で青年には彼らについて心当たりがあった、発見されて以降急速に近代化が進み、人々の生活には欠かせなくなった魔道具の燃料。
「彼らはこれのことか?」
自身の持っているランプを振り、チャポンと音を鳴らす、採掘された魔石から抽出されたその液体は神話の薬から名前をとり、エリキシルと呼ばれていた。
「彼らの多くがそれに変えられましたが、恐らくそれの材料のすべてが彼らというわけではありません」
「まあいい、お前らの本体が何個あってどこにあるか教えろ」
捕らえた魔族が答えた本体の数は思ったほど多くはなかった、現在魔族の支配領域となっている4ヶ所の地中深く、正確に書き留めて国へ報告する。
「ご主人様は神の意向に背いている、天罰が下ることでしょう」
青年の所属する国は魔族を退け、大量の魔石が算出する鉱床や彼らのために残されていたと思われる遺物より技術を手に入れ大いに栄えた。
魔王と4体の幹部を倒したとされる勇者の伝説は国を超えて伝えられ、その祖国は忽然と消えた謎の超古代文明としてのちの文明の考古学者達の関心を集めることになる。
処女作となります、世界観を作る練習として書きました。
魔族の幹部を従わせれる者は魔王と呼ばれ、魔王や幹部は時代が下るにつれ増えたり、減ったり、幹部の奪い合いとかするのかなと思います。