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干支の神様と現代の神様

うさ神様と、ぼっち女神様

作者: 城壁ミラノ

 神の国、お正月。

 大神様のお屋敷では、神様たちの宴がはじまりました。

 にぎやかな長い座敷の奥には大神様が座っていて、神様たちがごちそうを食べてお酒をのむさまを見守っています。

 大神様の一番近くの席には、今年の主役うさぎの神様。

 うさ神様がいます。


 うさ神様が箱膳に山と積まれた大きなにんじんをかじるたびに、


「可愛いー! 可愛いー!」


 と女神様たちがもてはやしています。


 そんな声を聞きながら、うさ神様から一番遠い座敷のすみっこで、ほそぼそとごちそうを食べている女神様がいました。


 ぼっち女神様です。


 ぼっち神様とは。

 その名の通り、ひとかみぼっちの神様です。

 この神様に拝むと、というより家に住みつかれたりしてしまうと、いつでもどこでも、ひとりぼっちになってしまいます。

 こんな神様を拝んだり信仰する人はいないので、人の国では知られていない神様です。


 ぼっち女神様の見た目は、それは美しい顔をしており、美しい着物をきていますが、そんなことは関係ないくらいとても存在感がうすく、他の神様をよせつけない空気をだしています。


 そんなぼっち女神様はさきほどから主役のうさ神様を、それと自分の向かいに座る、うざい神様、うざ神様をちらちら見ています。


 それはなぜかというと、うざ神様がうさ神様にご挨拶をしたさいの、やりとりが気になっていたからです。

 (くわしくは「うさ神様とうざ神様」を読むか、このお話をどんどん読み進めてくださいね)


 そうやって気になってはいますが、ぼっち女神様は自分から、うざ神様に話しかけたりはできません。


 人気者の、うさ神様にはもってのほかです。


 ただ、ちらちら見ながら、ごちそうをつまみます。


 うざ神様のほうも向かいに座るぼっち女神様は気になりますが、ぼっち女神様には話しかけづらくて隣の神様にうざがらみをしてはお酒をのんでいます。


 うざ神様にすらからまれず、ひと神ぼっちの女神様かわいそうと思ってくださった心優しい読者様、大丈夫です。

 ぼっち女神様はぼっちでなんぼ、安心してごちそうを食べています。他の神様に話しかけられたりしたら終わりなのです。


 そんなぼっち女神様でも、百年に一度くらいは神恋しくなります。


 今年がそのようです。でなければ、男のぼっち神様のように大神様とうさ神様にご挨拶だけしてお年玉とごちそうをお土産にもらったら、さっさと帰ったことでしょう。


 お座敷にひきとめたのは、うさ神様です。


 ご挨拶したさいの、大きなうさぎの姿をした、うさ神様の可愛らしさが心に残ってしまったのです。

 うざ神様がうさ神様の頭をなでて可愛くなるご利益をもらい、うざいながらに可愛くなったことも気になっていました。


 うさ神様の頭をなでれば、ぼっちなりに可愛くなって他の神様と仲良くなれるかもしれない。


 そう考えて、ぼっち女神様は宴の席に座ったのです。

 

 ぼっち女神様は目立つのが嫌なので、宴が終わるのを静かに待つことにしました。

 待ちながらごちそうを食べ終わる頃には、他の神様は帰っていったり酔いつぶれて寝てしまったり。

 ようやく、ぼっち女神様が安心できるくらい、お座敷は静かになりました。


 うさ神様はまだ自分の席にいます。

 主役だから最後まで皆様をお見送りしようと、お酒ものまずにしゃんとしているのです。


 ぼっち女神様は静かに、うさ神様の前にいくと、おずおずと話しかけました。ぼっち女神様が自分から話しかけるなど、新年のご挨拶をのぞけば何十年ぶりのことです。


「あの、うさ神様」


 ぼっち女神様の声はひじょうに小さいですが、うさ神様は耳がいいのでよく聞こえました。


「ぼっち女神様、お帰りですか」


 ならば丁寧に見送ろうと、うさ神様は後ろ足で立つと前足をそろえました。


「いいえ、あの、私にも頭をなでさせてほしいのです。可愛くなるご利益をいただきたく」


「どうぞ、どうぞ」


 うさ神様は頭をかたむけました。


「ありがとうございます、では」


 ぼっち女神様は優しく頭をなではじめました。


 うざ神様を見習って、念入りになでます。


 可愛いうさ神様をなでていたいのもありました。


 いつもは奥ゆかしく遠慮深い女神様ですが、今日は気のすむまでなでると、


「ありがとうございました。うさ神様」


 丁寧におじぎをしました。


「また、いつでもどうぞ」


 ぼっち女神様がまた頭をなでるのは、百年後でしょうか。


 兎にも角にも、ぼっち女神様がさぁこれでどうなるかと期待していると、


「ぼっち女神様も可愛くなりたかったんですかー」


 さっそく声をかけてくれたのは、うざ神様でした。


 ぼっち女神様の肩に腕をまわして、ぐいぐいきます。


「私のまねっこですかあ。可愛くなった私が羨ましくなったんですか?」


「は、はい」


前に書いたように、ぼっち女神様の声は小さいですが、うざ神様は顔に顔をうざいくらい近づけるのでよく聞こえました。


「ぼっちなのに可愛くなりたいなんて、いったい、どこの誰に見てほしいんですかあー?」


「だ、誰にも。誰でもいいです」


「なら、私でもいいですか?」


「はい」


「ならば遠慮なく」


 うざ神様はうざいくらいにジロジロ見はじめました。


 その間、ぼっち女神様はうざがることなく、じっとしていました。


「うーん、そうですねえ」


 うざ神様はやたらともったいぶってから、


「さっきより、可愛くなってますよおー」


 そう言うとにやにや笑い、うさ神様をまた意味もなくも、ふもふして帰っていきました。


 ぼっち女神様はうざ神様が本当に自分を可愛くなったと思ってくれたのかわかりませんでしたが、うざがらみしてもらえて嬉しくなりました。


「さっそく、ご利益がありましたわ」


「それはよかった。私も嬉しいですよ」


 一部始終を見ていたので、自分のご利益を実感できて、うさ神様もぴょんと跳ねて喜びました。


 ぼっち女神様はうさ神様とも仲良く話せてますます喜び、思い切って頼みました。


「うさ神様、うざ神様のように私にも、ふわふわをなでさせてください」


「いくらでもどうぞ」


 ぼっち女神様は思うぞんぶん、ふわふわをもふもふしました。


 そんなぼっち女神様を見ていたのは、大神様です。

 ふだんは存在感がうすくて気にならない女神様が、今は可愛くて気にかかりました。


「ぼっち女神よ。そんなに、うさ神のふわふわが気に入ったなら、背中に乗せてもらい家まで送ってもらうといい。うさ神よ、よいかな?」


「かしこまりました」


「よろしいのですか? うさ神様」


 ぼっち女神様はもふる手をとめて、かしこまりました。


「もちろんですよ。私の足は速いので、すぐに家に帰れますよ。でも、他の神様をお見送りするまで待っていただけますか?」


「もちろんですわ」


 ぼっち女神様はうさ神様の隣に座ると、一緒に他の神様を見送りました。


 酔いつぶれていた神様たちも帰ると、うさ神様とぼっち女神様は大神様においとまの挨拶をしてお屋敷を出ました。


「さぁ、乗ってください。落ちないように、しっかりつかまっていてくださいね」


「はい」


 ぼっち女神様は背中にまたがると、痛くないように気をつけながら肩にしがみつきました。

 体はもふもふにうもれるようで、とても気持ちいい乗り心地です。


「では、走りますよ」


「お願いしますわ」


 うさ神様はいつもより気をつけて、ぴょんぴょんと走り出しました。


 ぴょんと跳ねるだけで、大神様のお屋敷も今見えていた景色も遠くなります。


 うさ神様は大神様の伝言を神様たちに届ける役もしていますので、ぼっち女神様の家は知っていました。

 ぴょんぴょんぴょんという間に、家一軒がのるだけの切り立った崖にある、ぼっち女神様の家につきました。


「さぁ、つきましたよ」


「まぁ、本当に速かったですわ」


 ぼっち女神様は驚いてあたりを見回しました。


「崖のぼりは、なかなか大変でしたよ」


 うさ神様が自慢げに胸をはるくらい、崖をのぼってこれる神様はなかなかいません。


 ぼっち女神様にとっては、久しぶりのお客様です。


「大変な目にあわせましたね。よろしければ、家に入って休んでいかれませんか?」


「おじゃまします」


 大神様のお屋敷では気をはりつめて疲れていたので、うさ神様は喜んでぴょんぴょんと家に入りました。


 ふたりは座敷にあがり、ぼっち女神様が囲炉裏に火をつけると、すぐに部屋はあたたまってきました。


 うさ神様がつい、まるくなって眠ってしまうと、


「可愛い」


 ぼっち女神様はこっそり近づいて、


 ふもんっ


 もふもふに埋もれると、


 もふもふもふもふもふもふもふ


 たっぷりもふるともふもふにくっついて眠りました。


 朝になって目がさめると、大神様からお土産にもらった、にんじんづくしのおせちを朝ごはんにしました。


 うさ神様が夢中で食べるさまを見ていると、


「可愛いー!」


 そうもてはやしていた女神様たちの気持ちが、ぼっち女神様にもわかりました。


「うさ神様と一緒に食べると、いちだんとおいしいですわ」


 ぼっち女神様はしみじみとほほえみました。


「それはよかった」


 うさ神様はしんみりと続けました。


「ここはさみしいところですね。よく女神様だけで暮らせるものです。うさぎは、さみしいと死んでしまうので、ここでは暮らせません」


 ぼっち女神様は驚いてから悲しい顔をして、うさ神様をなでました。


「私はぼっちでいられるこの家が落ち着きますが、今年は百年ぶりくらいにさみしくなっていましたの。うさ神様が泊まってくれて嬉しかったですわ。でも、死んでしまったら大変ですから、ここにいてとは言えませんわね」


誰かと暮らすなど、ぼっち女神様の宿命がゆるさないのでしょう。


そこで、うさ神様はいいました。


「それならば、私が時々会いにくるのはどうでしょうか?」


「会いにきてくださると、とても嬉しいですわ」


 ぼっち女神様が笑顔になったので、うさ神様は安心して帰りました。


 けれど、うさぎ年は忙しくて、うさ神様はなかなか会いにいけませんでした。

 ぼっち女神様もぶらっと出かけたりして、すれ違うこともありました。


 けっきょく、ふたりが会えたのは年末のご挨拶のときだけ。


 そこが、ぼっち女神様のぼっちたるゆえんなのです。


 それでもご挨拶のとき、


「今年一年、うさ神様のおかげで、皆様から可愛がってもらえましたわ」


 ぼっち女神様は満足げに笑って、うさ神様はぴょんと跳ねて喜びました。


 皆様にも、ぼっち女神様の、じゃなかった、うさ神様のご利益がありますように。

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