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王子への思い

 まだ療養中なので、ほとんどの時間を部屋の布団の上で過ごしていた。

 布団と言っても、奈良の煎餅布団とは違い、一人で寝るには持て余すくらい広々としている。


 3人寝ても、だいじょーぶ!!

 そんぐらいでかい。


 衣服も着慣れた着物ではなく、風が吹いたらどうするんだ?と言いたくなるくらい足元はひらひら。胸元は開きすぎで視線に困るし、腰回りはキュッと締まりすぎ。


 もちろん、オーロラも例外ではなく胸元は谷間が見えてないかと、はらはらしてしまう。


 部屋の豪華な調度品に専属の侍女。なんとも聖女とは好待遇なのだな。


 俺は暇を持て余していて、あれこれとラベンダーに尋ねていた。


「聖女って4人ときいているけど。後の3人はどうしているの?」

「他の聖女様も宮殿で住まわれてますよ。少し部屋は離れておりますが」


「今度挨拶に伺った方がいいかしら?」

「うーん、それはどうでしょう」


「というと?」

「聖女様の中にはあまり人と人との接触を避けておられる方もおりますので」


 そうなのか。


「南と西の聖女様はほとんど人前には出ませんし、移動する時もベールで体を覆ってますので、素顔を見た者はほとんどおりません」


 もちろん、ラベンダーもないと言う。

 ラベンダーの話では聖女同士あまり横の繋がりはなく、共同で行う作業もないので気にする必要はないとのこと。時折、晩餐会や国事の際に顔を合わせたりすることはあるようだが、特に仲間意識もなく、思ったよりもあっさりとしているようだった。


 これは今の俺には朗報だった。この状況では接触する人間は少ない方がいい。


「それで蓮の花ってどこにあるの?」

「金の蓮の花ですか」


 聖女が祈りを捧げると、花開くという伝説の蓮の花。


「わかりません。この宮殿のどこかにあると言われてますが、その泉の場所を知っているのは一部の王族と管理している大魔道士だけです」


 極秘ということか。

 

 徐々にだが、オーロラの記憶が呼び起こされつつあるのか、日常のことは不自由しない程度にわかるようになっていた。

 例えばマカロンというのが、甘い菓子。

 ベッド、ドレス、シャンデリアにシャンパン・・・。周囲にある単語が少しづつだが、鮮やかになる。



 翌朝、ラベンダーが声を弾ませて「オーロラ様、素敵な贈り物でございます」

 ずいぶんと上機嫌だな。

 手には持っていた小箱を俺に渡す。


 ぱかっと開けると中に入っていたのは小鹿のガラス細工だった。

 太陽の光を受け、神の使いかのようにキラキラと輝いていた。

 繊細な彫りに、俺も同じ職人としてこの作者の高い技術に息を飲んだ。


「まだ見事な・・・。これを私に?誰が?」

「リース王子からですわ」


「王子が?」

「はい、遠征から戻られるといつも珍しいお土産を用意してくれるんです。この前は珍しい宝石があしらわれたブレスレットでした」


 棚の上の宝石箱に置いてありますわと指差す。

 言葉の端々に、オーロラは特別扱いをされているというのが伝わってくる。


「王子はどんな方なの?」

「とても素敵な方ですよ。知的で民や家臣にもとても親切なんですよ。ただ・・・」


「ただ?」

「えっと、まあ、なんていうかちょっと時々子供っぽいところがあって、気分屋さんなところがあるんです。だから通常お天気王子」


 機嫌が山の天気のようにコロコロ変わるんかい。


 まだお若いですからねと言うが、聞くと王子の年齢は24歳。ラベンダーよりも年上だった。

 まあ、16でもキビキビ働いているラベンダーからしたら、苦労知らずのお坊ちゃんなんて子供だな。

 そう言いながらラベンダーはどこか夢見心地な様子でスッと頬を朱に染めた。

 どうやらリース王子とやらは、気分屋なだけでなく、若い女性を魅了する色男のようでもあった。


「色々とやんちゃもされてましたが、半年前に先帝が崩御されてからは国王代理として立派に責務を果たされてます」


 王がいないのか。

 ではなぜ、リース王子は王に就任しない?


「エルダットでは王が亡くなってから2年は喪に服すのが伝統です。喪が明けると華々しく戴冠式を行い無事リース王子が国王に就任されるのです」


「んん??じゃあ今エルダットの王は不在なの?」 


「王妃様がおりますし、皇太子のリース王子が全ての実権を持っています。あくまでも建前上の話ですわ。有事の際は王としてリース王子が指揮を取ります」


 なるほど、24歳にして一国一城の主、それはそれはご多忙だろう。


「うふふ、それでもリース王子は非常に多忙な中、政務の合間をぬっては何かとオーロラ様を気にかけられておりましたよ」

「王子が・・・」


 ズキンッ。また痛む。


 胸が、胸の奥がグッと押し潰されるように痛い。


「うっ・・・」

「お嬢様!!!どうなさったのですか?涙が・・・ああそんなに痛むのに私めは気づかずに・・・」


 ぽたっ。

 雫が青い服に小さなシミを作った。

 俺は涙を流していた。


 この涙。

 これは俺の涙ではない。オーロラの涙だ。この胸の奥のぎゅっと締め付けるような痛みも。


 オーロラ。君は何に涙を流し、苦しんでいるのだ?



ブックマークなどありがとうございます。

大変嬉しいです。

これから細々と頑張って執筆していけたらいいなと思います。

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