新たな技法
「聞いたんだけどないってさ」
「そう・・・・ありがとう」
城下町から戻ってきた翌日にグナシは新しい注文と一緒に俺が頼んだものが見つからなかったと伝えた。
そうか、やはりないのか。
俺が探していたのは漆だ、漆はデンプン粉と混ぜると接着剤となる。
これがあれば、今やっている一木造りだけでなく、寄木造りもできるのに。
寄木造りとは仏像を複数の四角く製材した檜を寄せて作る手法だ。
(わかりやすく言うと複数のパーツに分けて、作り最後にプラモデルのように組み合わせるんです)
これは仏師の知らぬ者はいない、天才定朝様が完成させた方法だ。
俺が今までやっていた一木造りでは、一つの木から彫り出すので、大きな仏像であれば材料の手配も難しく、また制作にも大きな手間がかかる。
しかし寄せ木造りでは各パーツをそれぞれの仏師が分担して作る為、複数の仏像を同時進行で作ることができるようになった。
仏師が各々で作り上げて、後日それを組み合わせると仏像が完成するという非常に効率的なやり方だ。
一木造りでは失敗すると一から修正するが、寄せ木造りでは必要な箇所だけ修正するだけでいい。
俺のいた奈良でもこの寄木造りが主流だった。
だが、その為には各木材をくっつける漆のりが必要だった。
段々と依頼される彫刻が大きいものや、一木から彫り出すのが難しい代物までくるようになっていて、グナシに頼んでいたのだがな・・・・。
「このクッキーも絶品ですね、おじいちゃん」
今日もまた4人でテーブルを囲んでいた。
本日のお菓子はレーズンクッキーなり。
全くどこでレーズンやら貴重な砂糖を手に入れているのかは全く不明だが、俺も賄賂を払っている身。あまり深く詮索するのはやめておこう。
今日のテーブルに並ぶ紅茶。
ただあくせく日々働くだけの生活に、一息ついてゆったりと贅沢な時間を過ごすのもいい。
なんというか人としての自尊心を取り戻すようだ。
「ところでウルシとはなんなの?」
クッキーを齧りながら腹減り爺さんが質問した。
「塗料になったり、木材の接着剤になるものです。それがあれば木材をくっつけることができて、彫刻の幅が広がるんですが・・・」
「ウルシなんて聞いたことありません」とラベンダー。
贅の限りを尽くした宮殿でさえ、一度も漆塗りの食器など見たことがなかったので、もしやと思ってはいけけど。うーん、ないとなると諦めざる得ないな。
クッキーを食べ終わった腹減り爺さんが、「カラフルボムは?」と提案する。
カラフルボム?
どうやら他の二人も知らなかったようだ。
「カラフルボムはこれくらいの大きさの実なんだけど」と言いながら、拳を見せる。
「その実をわるとどろっとした液が出てくるんだけど、それが接着剤になるんだよ」
おお。そんな便利な物があったのか。
「で、それはお高いの?」
「ううん、売ってるところは少ないけど、宮殿の建築を請け負っている店にいけば扱っているはずだよ」
俺は早速グナシに依頼をし、週末にグナシは大量に買ってきてくれた。
言っていた通り、拳大のくるみのような硬い殻に覆われていた。その実に斧で叩き割ると、どろっとした液が出てくる。
色は・・・桃色か。
ラベンダーが好きな菓子のような甘い香りがする。
腹減り爺さんの言うとおり、この液は木材をくっつける作用があった。
漆のりとなんら遜色がない。それどころか漆は直接手で触るとかぶれてしまうが、カラフルボムは直接手で触れても何の影響もなく、その点では漆のりより使いやすかった。
が、ひとーつ。
カラフルボムにも難点があった。
それは匂い、だ。
不思議なことに接着作用はどれも一緒で差はないんだけど、なぜかそれぞれの実で色と香りが異なっている。
桃色はお菓子、黄色はバナナの匂いといった具合に。
おまけにかなり強烈。
塗った彫刻はそれはそれは強い匂いを放っている。
まあ、2、3日陰干すれば匂いは消えるんだけど。
お陰様で彫刻の注文が重なった時は、バナナとラベンダーと硫黄の匂いが混ざり合って、部屋がとんでもない状態になり、ラベンダーから「息ができません!!」と苦情がきた。
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