俺はやはり仏師
「元聖女さんよ。いいもん見せてもらったな。じゃ俺はもう帰えらないと」
足早に屋敷を後にしようとしたグナシを呼び止める。
ピタッと止まって振り返った彼を手招きする。
「これ、もし気に入ってくれたのなら受け取ってくれないかしら」
「えっ・・・いやでもこれはあんたが作ったんだろ。受け取れねえよ」
「迷惑ならすまなかった。ただ遠慮しているだけなら受け取って欲しい」
グナシは少し考えて、遠慮がちに言った。
「本当にもらっていいんか」
もちろん!と笑顔で頷く。
「よっしゃ!!!聖女さんありがとう」
「そんなに喜んで貰えたら上げたかいがあったわ」
好いた女子と良い仲になった男のように、グナシはひとしきり喜んだ後走っていった。
この感じ。
懐かしい。恋しい。
俺が作った仏像を見た依頼主の感嘆とした声。
単純に依頼された仕事を無事こなせたという安堵感。そして何よりも職人としての喜び。
私は生まれ変わっても仏師の様だな。
どこからかいい匂いが漂ってきた。
ラベンダーが夕飯の準備をしている様だった。今日はトマトのスープのようだ。
飲食を忘れ夢中で彫っていたので、腹の虫が鳴いた。
さて、俺も食事にしよう。
グナシがあれだけ喜んでいたのには理由があった様だった。
グナシの実家は城下町にあるが、宮殿からはかなり距離があるようで、兵士の宿舎で寝泊まりをしている。兵士の中にも一部家から通うものもいるが、それは上官や位の上の者が多く、一般の兵士は実家が地方だったり通勤の時間を惜しみ、ほとんどは宿舎で生活をしている。
彼には歳の離れら弟がいて、その弟が最近病に伏していた。
「弟はさ、外で走りまわって動物をみたりするのが好きだったのに、今じゃすっかりベットの上で一日過ごしてるんだ」
それは元気な盛りの男の子には辛いだろう。
グナシはそんな動物好きな弟に俺の鳥の彫刻を上げたそうだ。
「でよ、弟にあげたらそりゃー大喜びでさ。寝る時もぬいぐるみみたく抱いて寝てるんだぜ」
少し幼いグナシがベットで俺の作った彫刻と寝ている姿を想像すると、微笑ましい気持ちになる。
そんなに喜んでもらえるなら、私の彫刻が誰かを救ったなら、職人冥利に尽きるというわけだ。
この世界に転生して以来、俺の心は1番優しく充実感に満ちていた。
「と言うわけで、彫刻を作ってそれを売ったらどうだろうか」
これが昨日急遽休みを取り、実家に帰って弟に彫刻をプレゼントしてきたグナシの提案だった。
「どうって言われても」
「そんなに聖女様の彫刻は素晴らしかったんですか?」
ラベンダーがグナシに尋ねる。
そうだった。ラベンダーには俺が一人にしてくれと言っていたので部屋に入らず彫刻を見てなかったのだ。
「そりゃすごいのなんのって。生きてる鳥より綺麗だったぜ」
聖女様にそんな隠れた才能が・・・とラベンダーは独り言の様に呟く。
そんなに手放しで褒められるのは悪い気はしない。
「ほら以前針仕事して金稼いではどうかって言っただろ。で、元聖女さんの彫刻を外で売るってのはどうだ?」
「聖女様に仕事をさせるなんて」
「今の立場は幽閉中だろ!贅沢言える立場か」
グナシの冷たい視線にラベンダーはグッと黙った。
食事は相変わらず質素で、ラベンダーから聖女様少しお痩せになられましたか?と言われたし、そういう彼女だって、髪の艶が消え、パサパサとしている。
この前体調崩した時のこともある。
そして先行き見えない幽閉生活。
ラベンダーは俺を元気づけるために「すぐに出れますわ」と励ましていたが、早一ヶ月が経っても幽閉が解かれる気配もなければ、生活が向上する気配もない。
下手すればここで朽ち果ててしまう。
俺だけであればそれも運命と受け入れるが、これはオーロラという若い娘の身体であり、それにラベンダーもいる。
確かに鳥の彫刻の出来は悪くはなかったが、元々は仏師であり仏像職人だ。
それ以外の注文がきて顧客を満足させられるのだろうか。
そもそも需要はあるのか。
だがそんな俺の不安をグナシは力強く問題ない!と言い切った。
「実はもうクライアントがいる」
思わずラベンダーと顔を見合わせた。
・・・・。
へ?
ブックマークなどありがとうございます。
大変嬉しく励みになります!
いいなと思ってくれたら、評価も頂けると嬉しいです。




