彫り上げる
ふー。
木材についた木屑を息を吹いてはらう。
木屑に視界が鈍る。
だが。俺は動きを止めない。
彫る、彫る、ひたすらに彫る。
身体が、魂が、覚えている。
目の前の彫刻以外、視界に入らない。
大まかな身体の輪郭を彫り上げると、細部を三角鑿や平鑿で仕上げていく。
いつも目は最後だった。
目を彫り、そして彫刻は完成する。
羽の一枚一枚の毛並みまで彫り、やがて目を彫った。
うむ、悪くない。
渾身の出来だ!とまでは言えないが。
木材はノコギリで切ったり彫ったりするには体力がいるのだ。
力の弱いオーロラの身体では思った様に力が入らない事もあったが、焦らずゆっくり進めることでなんとか完成させられた。
細部の荒さや、鳥の構図なんかを思うと改善点は多い。
ただ有り合わせの材料と道具で下絵なしで作ったにしては上出来だ。
コン!
窓の外から音がした。
いつの間にか空はすっかり茜色になっていた。門の外で夕日に照らされたグナシが石を片手でポンポンとさせている。
「おーい、元聖女さんよ。いつまでナイフ使ってんだ。そろそろ返してくれ」
「ごめんなさい」
そろそろ帰宅の時間か。
夜の見張りは毎日ではなく、数日に一度だけだった。夕方になるとグナシは森を後にする。
「遅くなってごめんなさい」
「たっく、林檎切るだけじゃなかったんかよ。ナイフなんて幽閉者に貸す俺の立場も考えてくれつーの」
彫刻に夢中になってしまい、ついつい時間を忘れていた。
グナシがじっと俺の顔を見る。
「何か?」
「いや、なんか妙に嬉しそうな顔してるからさ。今までそんな顔見たことなかったから。嬉しそうというか、穏やかそうつーか」
そんな顔してたのか。
だが、久しぶりに体が軽いような気がする。身体じゃなくて心か。
オーロラの体を借りた俺ではなく、俺が生きている、そんな感じだった。
なんの前触れもなく突然、グナシがハッと驚いた様に俺の腕を掴む。
なっ、何をする。
こいつもマルク達同様に、美しい俺に欲情してるんか!
ええーい、お前も成敗してくれるわ!!と振り払おうとした時。
グナシが俺が持っていた鳥の彫刻をじっと見つめていた。
「ちょっといいか」というより早く俺の手からサラリと鳥の彫刻を抜き取る。
しげしげと物珍しそうに見入った後、感嘆な声を上げた。
「見事な彫刻だな!!!これどこで手に入れた?この屋敷に残ってたんか?」
元は貴族の隠れ家だもんなと、彫刻を360度あらゆる角度からぐるりと見渡す。
その彫刻。
どうしたって、何も。
「私が彫りました」
そう言うと、グナシがピックっと反応する。
「へ?」とだるそうな見張り中よりもずっと間抜けな顔をして声を出す。
聞こえなかっただろうか。
「私が彫りました」
と、二度目の宣言をした。
グナシは黙りこくった。
切長の目を目一杯広げて、俺と鳥の彫刻を交互に何度か見た後。
「うおーーーーすげーーー!!」
なんかすごく興奮している。
ん?
これは褒められている・・・のか。
「マジで聖女さんが彫ったんか。どうやって?」
「薪を彫ったの」
「え?薪を使ったのか」
「たまたま檜だったから。欅であったら重く固すぎるし、杉はやわらかいが縦に割れやすくく彫刻には不向きだ」
「器用なもんだな。まるで生きているようだ」
間に合わせの材料と道具で作ったのだ。褒めすぎだよ。
「いや、生きた鳥よりも美しい。この羽の緻密さ、目の涼やかさ。見事だよ」
くすっ。
いつも見張りで欠伸ばかりしているグナシが美しいやら、涼やかさとか言うのが面白かった。
彫刻って結構力がいるんですよね。
私が不器用だからかもしれませんが 笑。
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