表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/51

祈りと出会い

「着きましたよ」


 宮殿から舗装された庭を抜け、林の中を歩いた先に礼拝堂はあった

 人気のない静かな場所。

 許可のない者は貴族であっても立ち入りを許されない場所だとラベンダーは言った。

 礼拝堂は思ったよりも大きかった。


 石造りの白い壁、重い木の観音開きの扉を開けると、礼拝堂が現れる。

 がらんとして何もない。

 黒い大理石が一面に敷き詰められ、その先には祭壇があり金色の蓮の花の彫刻が飾られているだけだった。

 ステンドグラスか。

 もちろん奈良にそんな物はない。だが俺は知っていた。

 青い獅子と、七色の鳥と太陽が描かれていた。

 正午の日の光が降り注ぎ、鮮やかな色を浮かび上がらせていた。


 綺麗だなラベンダー、と振り返るとラベンダーがいない。

 入口に立っていた。


「どうした?こっちへ」


 手招きをする俺に、いえと首を振る。


「ここは聖域でございます。入れるのは聖女様だけです。ではお祈りを」


 え?そうなのか。

 てか祈りって何を祈るの?

 民の平和や、五穀豊穣、天下泰平か。

 とりあえず床に星の印のあるところで座っているとと焦った声でラベンダーが叫んだ。

「オーロラ様・・・なんて格好を・・・」

 あわあわとあわてて居る。


 なんて格好って、座禅だけど?

 え?だって祈るんだろ。この格好が1番瞑想にはいいんだが・・・。

 ダメなのか。うーん、神仏の御前だから正座の方がいいのか?

 よっこらせと座り直すと、ラベンダーはまたしても「違います!!!」って。


 何が違うんだ。


 困り果てた俺は五体投地でも始めると、ラベンダーの悲鳴が聞こえた、

 見かねたラベンダーが入り口で床に膝をつき、両手を合わせた姿をした。


「聖女様、差し出がましいですが、この様に」


 これが聖女の祈り方なのか。

 よくわからんが、郷に入れば郷に従え、だ。

 膝をついた。

 のはいいが、この後どうするんだ?

 祈りってどれくらいの時間するのだ。一刻か、それとも半日??


 礼拝堂をでると「お疲れ様でございました」とラベンダーが駆け寄ってきた。

時間は半刻もかかってないが、ラベンダーは特に何も言って来なかった。 


「聖女様の心を込めた祈りが通じますわ」


 うーん。いいのかなー、俺が唱えたのは般若心経なんだけど。

 祈りの仕方など知らなかったのでやや場違いな感じは否めなかったが、とりあえず経を上げた。

 心を込めたから、まあいいだろう。


 今日のお勤めは完了か。病み上がりのかよわい女の身体のせいか、ちょっと疲れてしまった。

 ラベンダーを誘い、庭の端にあった椅子と白く丸みを帯びた屋根のある憩いの場に腰掛ける。

 中央にある噴水の音が心地よい。

 はー休憩休憩。足が痛え。

 このハイヒールと言う靴を脱いで、早く裸足になりたいもんだ。


 「ごきげんよう」その言葉と共にどこからともなく男が現れ、前髪をかき上げながら屋根を支える柱に寄りかかっていた。

 昨日のマルクのような年の貴族の青年だ。長い赤い髪を後ろで結んでいた。


「オーロラ聖女、今日はお目にかかれて幸運でございます」

 胸に手を当てて深々と礼をしていた。

「私が送ったショコラは届いておりましたでしょうか」

 ショコラだ?

 あの甘い菓子か。そういえばラベンダーが届け物と部屋に置いてくれていた。


「確か赤い薔薇と一緒に・・・」

「そうでございます!!!」


 俺が受け取ったと知るや顔を輝かせて、マルタ同様にスッと隣に座る。

 う、こいつも近いな。

 この世界の住民は距離感が近いのか。これが普通なの??


「ああ、今日もまたなんとお美しいお姿。あなた様ほどこの緑のドレスを美しく着こなせる者はおりません」

 目にお星様を浮かべながら、俺の手を取る。

 うざい。


「薔薇とショコラありがとうございました」


 ではこれで・・・と部屋へ戻ろうかと思ったが、奴も慣れたものである。

「薔薇なんぞ、オーロラ様の美しさに比べたら・・・」

「ああ、全く。オーロラ様にはこのサファイヤこそ似合う」

 別の男の声がした。


 気がつくと、また別の男が頬を赤めて赤髪の横に立っていた。藍色の髪色の男だった。

 手には箱に入った宝石を持っていた。


「オーロラ様このサファイヤであなた様への贈り物を作ろうかと思います。ネックレス、イヤリングがよろしいでしょうか。それとも指輪・・・ああ、いっそ婚約指輪でも・・・」


 キラキラと輝くそら豆くらいの宝石を見せながら自分の世界へと入っていく。

 こいつら全員口に蜜でも塗ってんのか。


 宝石を見せながら、頬と頬が触れ合うぐらい近づく。

「ああでも婚約指輪でしたらやはりダイヤモンドの方が・・・」

 と自分の世界を語る男はにっこりと笑うと俺の腰にゆっくりと手を回そうとした。

 この野郎!!と思った時。


 またしても別の男が現れてた。

 今度は日焼けした男だった。

「貴様、気安く聖女様に触るな」


 おお、救いの男か。

 と、思ったのも束の間。

 そいつも他の男たちと同じように「こんな奴は放っておいて、私の館でお茶でもいかがでしょうか。東国の国より仕入れた珍しい茶がございますよ」

 私の髪を数本すくうと、うっとりとつぶやく。


「おい、邪魔するな。貴様こそ、聖女様の美しい髪に触るな」

「何を、お前こそ宝石なんぞで気をひこうと!!」


 私のことで争わないでと言いたいところであるが、俺たちはこれ幸いと男が言い争っている間に素早くその場を後にした。

 後ろでオーロラ様!!と男の切ない声がしたが、振り返ることもなく大股でダッシュした。


 全く美女すぎるのも大変だな。

 額の汗を手の項で拭う。

 が、男たちの声がすぐ後ろでする。後ろを見る。女性の脚とこのやたら機能性のない靴であっという間に追い付かれたらしい。

 やばっ。


「おいっ」

 前方から声がしたが、それはとても近かった。

 というか、目の前で、どんっと勢いよく誰かにぶつかってしまった。

 前方不注意。 

「うわっ、すみません」 

 かなりの勢いでぶつかったはずなのに、痛くはない。

 相手が抱き止めてくれていたのだ。


 顔を上げると、そこには輝くような男がいた。

 眩いばかりの美丈夫だった。それもかなりの。

 阿難陀。(あなんだ)

 お釈迦様の弟子であり甥の絶世の美男子。その容姿と王族の気品ある佇まいに出会う女性が皆恋に落ちたという男だった。

 生きた阿難陀、その人だった。


 誰だ、このとんでもない美男は・・・。

 目が合うなり、にっと笑う。

 透けるような銀色の髪に、涼やかな薄い緑色の瞳。スッとした鼻筋。

 ぐう・・・。眩しい。 

 これが阿難陀か!男がこんなに輝いて見えるとは。

 女子からしたら抗い難い程、魅力的に見えるだろう。


「何を急いでいるんだオーロラ」

 親しげな口調、俺を知っているか。

「リ、リース様」


 ラベンダーがサッと膝を着く。

 リース?

 リースとはあの時期国王の?


「あなたがリース?」

 男は困ったような顔をした後、つっけんどんに言う。

「おいおい、私の事も忘れてしまったのか、オーロラよ」

 だが、決して怒っているわけではなく、オーロラを揶揄っているだけのようだ。オーロラの記憶の混乱などは知っている様だった。


「それにしても病み上がりの身体で急いで走るとは何事だ?」

「申し訳ございません。聖女様は蜂に襲われそうになり逃げていたのでございます。」


 リースは俺の両肩を優しく支えながら、後方にいる3人の男にチラリと視線を送る。


「ほう、蜂か・・・。美しい花に多くの蜂が群がるものがだな」

「リース王子」

 3人の男はサッと膝をついた。


「聖女は病み上がりだ。あまり困らせるな」

「はっ。申し訳ございません」 

「もう良い、下がれ」


 助けてくれたのか。

 リース王子は俺に向き直る。


「さて、オーロラ体調はどうだ?先ほどは余を忘れていた様だったが」

 悪戯っぽく笑う。

「申し訳ございません。まだ記憶の混乱が時々生じておりまして」

「余を忘れてしまったのかと思って、寂しかったぞ」


 真っ直ぐ目を見ていた。 

 ドキンと胸が高鳴る。

 咄嗟に目を逸らす。

 なんだ、この胸の感じは。

「まあ良い、無事なら良い」

 そう言って、そっと俺を抱き寄せた。王子は俺より頭一つ高い。触れている胸元から王子の温もりが伝わってくる。

 ドキドキドキドキ・・・・・

 スッと体を離すとリース王子は政務が残っているからと従者と供にその場を後にする。別の従者が用意した馬に軽やかに跨る。


「リース王子、お見送りいたします」


 俺もラベンダーもその場にいる皆が、膝をついて見送る。

 王子が去り、ラベンダーと宮殿へと向かう。その背に「オーロラ!!!」と声がした。

 リース王子だった。

 馬上から俺をよぶ。


「オーロラ、近々またハーブティーを飲もう」


 優しく微笑んでいる。その言葉に王子の誠実な真心を感じた。

 俺も釣られて笑顔になる。

「はい、ではお待ちしております」

 距離はあったが、互いの視線が絡み合う。

「うむっ」

 威勢よく頷くと、王子は上機嫌で馬を走らせた。

「よかったですね、オーロラ様。殿下からのお誘いですわ」

 ラベンダーは嬉しそうに俺に話しかけていたが、俺は全然頭に入ってこなかった。

 一体、なんだったんだ。

 あのときめきは。

 胸の奥がキュンと切なくなるような感覚。

 ラベンダーに触れられた時よりもずっと強い感情。

 男の俺が、若い女性に触れられるよりも男に優しくされてときめく様なことがあるのか。

 俺は動揺していてラベンダーは主が時期国王に気に掛けらているのが嬉しくて、気が付かなかった。

 俺とラベンダーを苦々し気に見ている二人の女の視線を。



ブックマークなどありがとうございます。

大変嬉しいです。

これから細々と頑張って執筆していけたらいいなと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 仏師が転生!? というとっても面白い設定で、特に今回は正座のくだりや五体投地は最高に笑いました。男の心なのに、オーロラの心の反応も感じたりして、これから人間関係が明らかになるとともに、主人…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ