全ての始まり
鎌倉時代の仏師(仏像職人)が、異世界に聖女オーロラとなって転生します。
仏像のぶの字もないような世界に転生してした主人公は戸惑いながらも、戦乱な世とは違う平穏な日々を満喫します。
しかしその世界にも救いを求める人々がいて、彼(聖女)は人々のために何かできないかと悩み始める・・・・。
仏像というよりも、仏師が好きで、なんか小説にできないかなーと考えてました。
女性の手も握ったことのない信心深い仏師が、ブロンド美女の身体で転生したら面白いんじゃないかなーと思いました。
カンカンカン
彫る 彫る わき目も振らず彫る
木を削る音、切る音が響き、木くずが舞い、視界をにぶらす
想像できるだろうか
奈良で仏像職人の仏師だった俺が
己を律し深い信仰心で仏像を彫っていたこの俺が
騎士や魔法、ユニコーンが存在するこの世界で
輝く金色の髪をした若く美しい聖女となり
仏像を彫っているなんて
なあ、誰が想像できたかーーー
深い闇。
落ちる落ちる落ちる・・・・。
ここはどこだ。
なぜ周囲は漆黒の闇なのだ?
この世とは思えぬような、月のない夜よりも深い闇。
まさか。
そうか、あの時俺は死んだのか?!
これはこの世ではなく、あの世への道なのか。
だが、俺の心は穏やかであった。
長くはない人生であったかもしれないが、充実した日々であった。
俺は仏像職人である仏師だった。
時は平家の世から源氏の武士の世へと移ろう時。
尊敬する師と切磋琢磨する仲間、勤勉な弟子に恵まれ俺はひたすらに彫っていた。
仏様と向き合い、日々脇目も振らずに彫っていた。腕のいい仏師であるという自負もあった。
そんなある日、俺は死んだのか。
南無阿弥陀仏。
動ずることはない。
もう間も無く眩むような来光の中、阿弥陀如来様が現れて極楽浄土へ迎えに来てくれる。
あとはただ阿弥陀様に身を委ねよう。
だが見渡す限りの闇は底しれぬ深さ。このまま沈んでいくようだ。
あれ?
まさか。
俺は仏の世界へは行けなかったのか。
ちょっと予想と違ったが、仕方ない。己の運命を受け入れるしかあるまい。
阿弥陀如来様、私はそちらへは行けなかったようです。
その時、グイッと何かが俺を掴んだ。
ほんの一瞬の僅かな時だったが、目があった。
美しい顔だった。阿弥陀如来様だろうか。
その答えが出る前に、俺はすごい力で深い闇から引き上げられた。