気をつけて 車は急に 止まれない
「きちんと車間距離を取りなさい」
自動車学校で必ず教えられることだ。私も教わったし、自動車免許を持っているあなたも教わった、はず。
さて、この車間距離、私はこんな感じで教えられた。
「いいか、車間距離、絶対に開けろよ。車っていうのはな、すぐには止まれないんだよ。前の車がブレーキ踏むだろ?で、それを見たお前がブレーキ踏むまでに%秒かかるんだ。そしたらお前、車は&メートル進んでんだよ。完全にケツ掘っちゃってるよ」
たいへんに愉快な先生でした。
これを数式で見ていこうというのが今回の話。
現在の速度をv、加速度をa、時間をtとすると、距離kは
k=(v*t)+(1/2*a*t^2)
となる。ナンノコッチャと思った方は別作「なんちゃって数学論(真面目バージョン)」をチラ見して頂けると助かる。
さてこの式、意外と示唆に富んでいる。
この式から、距離とは二つの要素を足し合わせたものだと分かる。つまり
距離 = 現在の速度で進んだ距離(現在距離)
+ 加速して進んだ距離(加速距離)
ここで注目するのは”加速して進んだ距離”だ。
順番に見ていってみよう。
まずは”現在の速度で進んだ距離”、以後”現在距離”と呼ぶことにするが、この現在距離、
現在距離 =v*t
となっている。これは線形関数になっていて、右上がりの直線のグラフで表される。要するに
「一秒たったら一秒分距離が進むよ」
というだけのことである。
問題児は”加速して進んだ距離”。以後”加速距離”と呼ぶが、
加速距離 =1/2*a*t^2
となっている。これは非線形関数になっていて、右上がりの曲線のグラフで表される。茶碗を縦に半分にして真横から見たような形である。もう少し突っ込んだ言い方をすると
「加速距離は時間の二乗に比例する」
となる。重要なのは”時間の二乗”という部分。
「一秒たったら一秒分進むよ」
というところは同じなのだが、問題はこの先。
「二秒たったら四秒分進むよ」
「三秒たったら九秒分進むよ」
「四秒たったら十六秒分進むよ」
というふうに、時間経過でとんでもない増え方をするのである。
あなたが若く、機敏に動けるうちはいい。一秒未満の世界では、加速距離はむしろ小さくなる。しかし、年をとったり脇見運転などで反応が遅れた場合は危険だ。先に見たように、一秒を超えると、途端に存在を主張してくる。その増え方は、普段の生活で感じている時間感覚とは大きく食い違っている。大変に危険な、命に関わる食い違いだ。
「気をつけて 車は急に 止まれない」
至言だ。