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千年骸骨  作者: ケンシロウ
1/1

餓死


飽きた。

千年王のこの一言から冥界は混沌に満ちた。


I

餓死。

それが私の死因だろう。

父の残した借金から逃れ、土を食う生活が始まった。それが5年前。よく16まで生きれたと思う。

死んだら何処に行くんだろう。

14のとき、橋の下で世話になったホームレスのオヤジと話したことがある。

「空は暗くて灯りもない。それでいて地面は真っ白なんだ」

川の対岸を白みがかった眼で眺めている。

それからすぐ、オヤジは死んだ。

冬を越せなかったのだ。


自分が死んだというのは認識できた。

体が浮き、身は灰のように溶け骨だけが残る。

それでもなお、意識ははっきりしている。

最期に眼球が無くなったのか辺りは真っ暗だ。

だが不思議と恐怖はない。

すると、急に身体に重さがのしかかる。

落下しているのがわかる。

何かに到達した。それが地面なのか分からない。

不意に朝の目を開ける感覚を思い出す。

起きるとそこは何もない、黒い空に白い地面が延々と広がっている。オヤジの言っていた通りだった。

もう死んだのか。

足元から聴こえた声に目を向ける。

声の主は頭蓋骨だった。

儂を拾い上げろ。お前に身体をやる。

言われるがままに掴み上げると、黒い液体が頭蓋骨から流れ出し纏わりついた。

千年王を討て。

頭蓋骨は白い砂となり地面と一つになった。

纏った液体は骨を覆い、黒い肉体となった。

それから私は走った。

千年王が何かは分からない。

やり直せるなら。

そう思って生きてきた私にとって、どんな形であれ機会を得たことが嬉しかった。

前方に黒く大きな物体が見えた。

ようやく見つけた"何か"に近づく。

「助けて」

硬いものが破れる音と共に黒い物体が振り返る。

「喰わせろ。喰わせろ。喰わせろ」

笑っているような、鋭く尖った無数の白い牙が踊るように波打つ。

次の瞬間、牙の一つが私に向けて発射された。

それは左脚を貫き、黒い液体が漏れる。

痛い。それは生きていたときと同じものだ。

膝をつく私にニ射目が放たれる。

砂を掴め。

咄嗟に握った砂を牙に向けて投げる。

砂は唸り声のような音と共に灰色の骸骨が現れ、牙を弾いた。

命令しろ。

何処からか聴こえる声の通り発言する。

「倒せ」

骸骨は唸り声を上げながら黒い物体に向かって飛びつくと、噛み付き始めた。

悲鳴を上げる物体は後ろに身体を逸らす。と同時に、ぐんっ。と私の体は物体に引き寄せられる。どうやら脚に刺さった牙はまだ奴と繋がっているらしい。

「喰べる」

そう言いながら無数の牙を外側に開くと、まるで人間の口の様な部位が現れた。

このままでは喰われる。咄嗟に骸骨に叫ぶ。

「守れ」

瞬時に口の間に入り、顎が閉じるのを防ぐ。

引き寄せられる前に掴んでおいた砂を再び巻き上げる。

再び唸り声と共にもう一体の骸骨が生成された。

二体目に脚に刺さった牙を抜かせ、命令する。

「倒せ」

二体の骸骨は黒い物体に喰らい付く。

おびただしく飛び散る黒い液体の量と比例して身体は小さくなり、最終的には私と同じ人型となった。

二体の骸骨は自動的に行動を止め、立ち尽くしている。

「痛い。痛い」

両膝を突き項垂れている。

「話せるか」

「うぅ」

ゆっくりと小さく頷く。

「お前は何だ?」

「うぅ、シ、シニタイ」

「千年王とは?」

「喰ってくれェえ。は、はやぐぅ」

苦しんでいる。襲われたとはいえ、酷い目に遭わせてしまった。

骸骨に喰わせろ。

また声が聴こえる。しかし、喰う、というのは死後の世界で再び死ぬということなのだろうか。

"死ニ体"は喰われても死なない。砂になるだけだ。

しかし、こいつには意識がある。

これ以上苦しませることが救うことにはならない。ならばせめてお前の一部にしてやれ。それが最善だ。

確かに私に方法がある訳ではない。

「喰え」

小さく、私は命令した。

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