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7.王女宮の人々

護衛の人のお兄さんがいるという場所は厨房だった。彼女はよく厨房の皿洗いアルバイトもしているんだって。がんばっているなぁ。今は昼も過ぎて休憩中らしい。彼の名前はダリオ、護衛の弟はパオロという名らしい。


「神獣様がわざわざ俺なんかに・・・。なんでも聞いてくだせぇ、とはいえ知っていることは少ないですけれど」


 彼はもちろん料理人だ。下町で両親は店をしていて、若い頃だけ先祖代々城で働いているそうだ。


「でも、うちのパオロは特別なんですよ。変わった魔力を持っていて軍に召集されたんです。あいつももう少し頭が良ければ騎士か魔導士になれたんですけどね」


 でも、自慢の弟ですよと彼は照れながら言った。魔法を使える人はこの世界の三分の二ほどいる。貴族はほぼ魔力持ちで、平民も少なくない割合で魔力がある人間が生まれるそうだ。魔力にも種類があって、スノウリリイならば「氷」、アルベルトなら「水」といったように七種の属性に分かれている。たまに複数の属性を持って生まれる人間がいるが、それより更に珍しいのが「無属性」と言われる特殊な魔力を持つものだ。パオロはここに分類される。


「パオロさんはどんな魔力でしたっけ?」


「『感知』だよ。向けられた敵意、悪意、殺意を絶対に感知するそれがあいつの能力。地味な能力だが一切不意打ちが効かないこととその正確さにかけては戦士向きだよな。自分と対象一人の範囲しか使えないが、暗殺者対策にはちょうどいいぜ。何すらあいつの能力は毒なんかにも反応するからな。護衛にはぴったりの魔力なのさ」


 めちゃくちゃ有能じゃないですか。確かゲームの世界には何人か無属性がいたけれどその中でもトップクラスかもしれない。


「パオロさんはいつからスノウリリイの護衛に?」


「ほとんど姫様が生まれた時からです。それまでは塔の見張りをしてたんです。大出世だって親戚中大騒ぎでしたよ」


 確かに見張りより一人の護衛に就く方が能力を生かせるなぁ。こういう時って初めて見る本当に親戚なのか怪しいおじさんとか出てくるよね。まあ、それはともかく。


「パオロさんたちスノウリリイのお世話している以外には本当に周りに誰もいないの?」


「はい。姫様は人を増やそうとすることを嫌がりますからねぇ。パオロなんて全然愛想も良くないのに何で気に入られているんだか。後は王子と姫に勉強を教えている教師と、図書館の爺さんぐらいしか交流している姿を見たことないですね」


「ふーん。なるほど。そのお世話している人たちに話を聞くのって難しいかな」


「いや、難しくないですよ。毎日夜そのメンバーで集まって話をする時間が必ずあるらしいので、その時間に尋ねてみたらどうでしょうか」


「ちなみに場所とか時間もわかるんですか?」


「姫様が眠った後で場所は姫様の宮のどこからしいですけれど・・・」


「それだけわかれば大丈夫です。ありがとう!」


「ええ、またいつでも遊びにいらしてください!」




 ローラに城の案内をしてもらっていたらすっかり日が暮れていた。途中、城で働く人たちに話を聞いていたのも時間がかかった理由だ。ローラはそんなにここで長く働いているわけではないのに顔が利いてとても助かった。せっかく色々案内してもらったけれど、広すぎて全然覚えられる気がしない。しばらくは誰かと一緒じゃなきゃ迷子になりそうだ。


 スノウリリイの宮こと王女宮は結構広い。元々ここは「後宮」と言われる女の園があったらしいが、後宮をわざわざ作る王様がここ何代かはいないため、今は歴代の王女が暮らす建物になっている。


「私、ここに入るの初めてなんですよ。それで今日からここで生活って・・・」


 自分の荷物を背中に抱えたローラは緊張しているようだった。今日から私もここで生活するので彼女にももちろん付いて来てもらった。


「あら・・・。こんばんは。神獣様とその侍女の方ですね。こちらにどうぞ」


 出てきたのは優しそうな少し太めの中年の女性だった。


「私はスノウリリイ王女のメイドのマリと申します。お会いできて嬉しいですわ。これからよろしくお願いしますね」


「はいっ!お願いします!!ローラ・マラカルネです!!侍女ですけれど、炊事洗濯雑用得意です!お願いします!」


 ピシッと背筋を伸ばしてローラが返事をした。緊張しすぎて二回もお願いしますって言ってる・・・。今度は年配の姿勢のいい男性が入ってきて執事のルイジだと名乗った。一旦荷物を彼女の部屋に置くために、荷物を持ってルイジはローラを伴ってどこかに行ってしまった。


「この時間は皆さん一緒にいるって聞いているのですけれど」


「ええ、こちらにいますわ」


 そう言って彼女は食堂の中に案内した。中には三人、席に着いていた。鎧を着たガタイのいい目がちょっと怖い男の人はきっとパオロさんだろう。どことなくダリオさんに似ている。


「こちらが護衛のパオロさん、隣が近衛騎士のアスカニオ・デュラン様です」


 二人は立ち上がって綺麗なお辞儀をした。


「それにしても様付けなんて止めてくださいよ。マリさん。何だか恥ずかしいです」


 アスカニオさんは灰色の髪に紫の切れ長の目が似合う男前騎士さんだ。仲が良いようだ。


「あら、ごめんなさいね。でも、神獣様の前ですから。神獣様、そしてこちらが私の娘のジル・アレニウスです」


 ちょうどルイジさんと戻って来たローラが彼女を見てびっくりした顔をしている。ジルはとてつもなく可愛らしかった。キラキラとして輝くような金髪にぱっちりとした青い瞳に薔薇色の頬。絵に描いたような金髪碧眼美少女だった。でも私たちがびっくりしたのはそこじゃない。


「もしかして、あなたってエルフ?」


「はい。私の母が王妃様とは親戚でして。そのご縁でスノウリリイ様の乳母をしていたのですが父と共に事故で亡くなってしまって・・・。母さんが・・・、このマリさん達夫婦が私を娘として育ててくれたのです」


 彼女はそう言ってマリさんに向かって微笑んだ。無意識なのだろうか。長い耳が小さく嬉しそうにぴくぴく動いた。かわいい。


 王妃様は森の国スコーグ国の王女だった。スコーグ国は別名『妖精の国』でエルフやドワーフ、獣人などのいわゆる亜人と呼ばれる人々が普通に市民として暮らしており、人間の前には姿を見せない妖精が共に生活しているという特殊な国だ。王妃様も母親がエルフなのでハーフエルフという括りになるそうだ。失礼だけど、ジルとマリさんが全然似てないのは理由があったってわけだね。


「皆ここで長く働いているんですか?」


「私だけが三年前で、残りの皆さんはほぼずっとスノウリリイ様付きです」


 アスカニオさんがそう答えた。三年ならスノウリリイの以前の様子を十分聞けそうだ。あの娘まだ七歳だしね。


「スノウリリイのこと色々聞いていきたいので一人ずついいですか?」







 私が彼らに聞いた質問はこうだ。

 ①前国王陛下の亡くなる前のスノウリリイ

 ②氷漬け事件をどう思うか

 ③例の氷漬け事件以降のスノウリリイ

 ④彼女と最後に会話した記憶

 ⑤スノウリリイの好きなもの、苦手なもの、興味のあること

 彼らの目線からのスノウリリイに関することが中心である。彼女の家族より、彼らの方が普段一緒にいる時間は長い。まあ、最後の質問は完全に私のためのものだけどね。友達になるんだから、色々知っておきたい。本当は本人の口から教えて欲しいのだけれども、ここで聞いたことが逆に彼女と仲良くなれるきっかけになればとプラスに考えている。




 結果としてはほとんど皆似たようなことを言っていた。まずは①。やはり同年代の子に比べるとかなり大人しく落ち着いた性格だったようだ。マリさんとルイジさんは彼女の祖父との話を聞かせてくれた。


「前国王陛下は姫様のことも王太子様のこともとても可愛がっておられましたわ。よくお二人を膝に乗せてお話をしていました。陛下がお隠れになってからはすっかり二人とも元気がなくなってしまって・・・。その矢先にあの事件でしたから」


「あの頃から少しずつですが、笑顔が少なくなっていましたね」


 ③は皆同じ事を言っていた。彼女は変わっていない、彼らはそう思うそうなのだ。侍女のジルはこう証言した。


「確かにお話はしてくれません。でも大きく性格や態度が変わったとは思えないですね」


 ④については皆バラバラだった。護衛と騎士の二人は事件の直後には彼女との会話は無くなったそうだ。残りの三人は彼女が怒られた後、部屋に戻り、眠る直前までは話をしていたそうなのだ。しかし、一晩明けて目が覚めた以降は・・・という様子だった。


 ②についてはその場にいたのは護衛と騎士の二人が他の三人よりよく知っていた。近くにいたのは騎士のアスカニオさん、少し離れて護衛のパオロさんという風に少女たちを守っていた。いつもならばパオロさんをそばに置くのだが、令嬢たちは憧れの騎士であるアスカニオさんを近くで見たいとせがむため、いつもと立ち位置を変えたそうだ。


「彼女たちの声は聞こえませんが、一番近くにいました。姫様が魔法を発動したのには恥ずかしいお話ですが令嬢たちが凍った後でした。何しろ姫様の魔法は予備動作が全くなくて、防ぐのが難しいですから。ご令嬢たちは小さくてもなかなかキツイですからね。何か姫様に言ったのでしょうね」


「その・・・私には声も姿も遠かったのですが、姫様に向けられていた敵意のようなものは感じました。私の能力は自分ともう一人に向けられる感情を読み取るものですから。え?兄が言っていたのと違う?まあ、詳しくは言っていませんから。兄といえども。姫様には殺意以外の感情は無視していいと言われていたのですが・・・。明らかにその敵意は彼女たちから出ていました。私は彼女たちに何かされたのだと思いますよ」


 彼らの意見はこう一致しているようだった。




「ローラはどう思う?」


 私は楽しそうに私の毛並みをブラッシングしているローラに話しかけた。


「え?私ですか?そうですね・・・。皆さん仲がいいなって思いましたね。あとスノウリリイ様のこと大好きなんだなって」


「・・・そうだね。私もそう思うよ」


 女神様の依頼で誰か怪しい人がいないかばかり考えていたから疑うことばっかり考えていた。実際この彼女の周りの人たちというのは一番怪しい。けれど、ローラの言う通り今のとこと皆いい人そうだなという感想しか持てない。疑うだけじゃなくて、ちゃんと自分で見てから確信しないと・・・。


 何にしても友達になろうと言っておきながら、まだ何もしてない。明日からスノウリリイにしつこいぐらいついて回ろう。そんなことを考えながら目を閉じた。


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