6.赤毛の侍女
私がまず話を聞きに行ったのは自分の専属メイドだ。出来るだけ話しやすそうな人から聞いて回ろう。私はまだこの場所のことをよく知っているようで知らないのだ。時間はかかりそうだけどね。実はずっと彼女のことメイドだと思っていたのだけど、彼女は侍女さんらしい。メイドは下働きの女の人で、侍女は比較的高い身分のお世話係なんだと。
「そうなんです。私これでも貴族なんですよ。と言っても男爵よりも貧乏な潰れかけの子爵家なのですけれど!両親にはタマノコシ狙って来いとか言われましたよ。王子様といくつ離れていると思ってるんですかね!まあ、冗談なんですけれどね!」
彼女は楽しそうにけらけらと笑った。三つ編みを一つにまとめた明るい赤毛、新緑みたいな大きな緑色の瞳、絶世の美女ではないが愛嬌のあるかわいらしさが彼女にはあった。彼女、ローラ・マラカルネは子爵家の長女で現在十四歳。今城にいる中で一番若い侍女らしい。マラカルネ家の土地は海に近いアクアノーツでは珍しく山間部にあるらしく、彼女たちも民たちもかなりギリギリの生活をしているらしい。しかし、彼女曰く皆慎ましくとも楽しく仲良く暮らしていて彼女には自慢の故郷なんだそうだ。
「私の故郷では珍しい鳥や植物がいっぱい見れますよ。織物類の材料もうちで取れています。・・・まあ、これをご令嬢たちに話しても材料じゃ意味ないとか言われちゃうんですけれどね」
少し寂しそうに彼女は言った。ローラの十四歳という年齢は本来侍女をする年齢ではない。大抵の貴族令嬢は十五歳で学園に入って一年間通うと、卒業後行儀見習いや花嫁修業の一環として侍女をする。ちなみに貴族の少年たちは一年でなく三年間通う。一部の高位の令嬢たちも二年もしくは三年だ。この世界じゃ女性には勉学は必要ないという考えが一般的らしく、一応体裁の為に一年というのが常識らしい。ローラが今侍女になっているのは本当に特例で、学園に行くお金のない彼女への恩情のようなものだろう。
マラカルネ家は七人兄弟で彼女は上から二番目。一番上の姉は生まれた時から身体が弱いが、とても美人だったため両親は彼女だけは社交界デビューさせた。姉も務めを果たそうと何とか良い婚約者をみつけた。彼女のすぐ下の長男も学園に何とか行けそうなのだそうだ。
「でも他の子たちはちょっと難しいかもしれないんです。次男以降なんて学園に通ってなきゃ何も仕事もないですよ。妹たちもそうです。あんな田舎じゃいい縁談もないです。だから、私だけでもお給金のいいここで働いているんです。いつかの皆の将来のために」
姉も結婚したらお金を送ってくれるらしいですし、婚約者さんが支援をしてくれるみたいなんですと嬉しそうに語った。
「でもあなたは学園にも社交界にも参加できないのよね?お姉さんや弟が嫌にならない?」
「ならないですよ。確かに姉はベッドに篭りきりでしたけれどお金の管理をしてくれたのは姉なんです。弟もそうです。当主という大変な役割の為にいっぱい勉強して父と話し合って領地をよくしようとしています。姉は家のためにいい人と結婚します。弟も家のために学園に行きます。私は家のためお城で働きます。ほら、過程が違うだけで私たちの目指す先は一緒なんです。民を預かる貴族という立場なら受け入れますよ」
・・・。すごいな。色々。とても年下とは思えない。現代日本に暮らしていた私には理解が出来ないし、彼女が正しいのかはわからない。でも、尊敬できる人だってことはわかる。
「本当は私王妃様のお付きなのですけど、今回神獣様のお世話係を募集していたので、こっちに来ちゃいました。神獣様が私を選んでくれて良かったです。私あそこの同僚とは全然気が合わなくて・・・。メイドの皆さんとは気が合うんですけれどねー」
彼女は侍女だが、よく手が足りなくなったメイドの仕事も手伝っているそうだ。そこで色々情報交換をしたりもしているらしい。私にも聞いてないのに、身の上話をいっぱいしてくれている辺り彼女はおしゃべり好きなようだ。私としては都合がいい。兄弟たちの紹介をしようとした彼女の話を遮る。この話はまた後でね。
「ねえねえ、ローラはスノウリリイの担当にはならなかったの?」
「あ、ごめんなさい。私のことばかり話しちゃいましたね。はい。私も最初はここで雇われたのは姫様に仕えるためだと思ったのですけれど・・・。一番私が年も近いですしね。どうも姫様は周りに人を置きたくないらしいんですよ。今いるのはメイドの他は護衛も騎士も侍女も全員一人ずつとかでしたよ。あ、執事は確かいますけれど」
「ううん。その話は今度聞かせてね。でも、そんなに少ない人数でいいの?」
「普通はありえないですけれど・・・。王子様のメイドの数の半分ですからね。でも、皆さんとても優秀らしいので大丈夫みたいですよ。姫様は滅多に外にも出ないですしね」
選ばれしその五人には話を聞きたいな。彼らとならもしかしてスノウリリイも話していたりしないかな。
「うーん、それは難しいかもですね。彼女たちともやっぱり会話はしていないみたいですよ。皆さん王女が何も言わなくても何を望んでいるのか大体わかるらしいので。あの人たちに頼んでお話させてもらうのは厳しいかもです」
想像以上に優秀な集団らしい。テレパシーとか使えるのかな?
「まあ、神獣様なら頼んでみれば大丈夫だと思いますけれどね。そうだ。護衛の人のお兄さんとなら私仲がいいので少し話を聞きに行ってみませんか?」
「そうなんだ?うん、お願いしようかな。」
こっちですよ~と手招きした彼女の後を私はふわふわと着いていった。